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決意の魔王と舞い戻る最愛

『正義の魔王』杉原清人


その異形は人間の姿に戻った。

だが、トドメは刺さない。

それは甘い考えでは無く戦果をニャルラトホテプから徴収する為だ。

奴は負けを認めた。神はどうあれ負けには正直だ。

邪神であれそれを反故には出来ない。


「さて、キヨ坊の戦いに見合ったプレゼントを送らないとなぁ。おじちゃん、仮にも親父だし」


ただ、凄く胡散臭いが。

異様に胡散臭いが。

隠しようが無いくらい胡散臭いが。


「……」


ジト目でニャルラトホテプを見つめる。


「キヨ坊は今年で…五歳か。ならプレゼントはこれが良いか」


フラフラとした足取りだがスッと胸を張り言い放つ。


「まず、一つ目のプレゼント。こりゃ名前だ。それも、半神格かつ魔族な人間なんてキヨ坊くらいだからたった一人だけの種族名だが…キヨ坊、おじちゃんが神格として種族の名前を付けよう。泡沫に溶けて消えるもの、メルトホテプ」


…。

泡沫に溶けて消えるもの、か。

まぁ、あれだけ派手に動いたら分かるよな。


「二つ目はヘルヘイムに眠る禁断の果実。生で齧り付くと美味いぞ」


彼の手には件の海月のような果実。

だが、それは他と違い黄金に輝いている。

黄金の林檎、アンブロシア、冥界の柘榴。何でも良いがこれはそれらに類するものに見えた。

本格的に人間辞める気しかしない。


「ま、食ってみな」


とー無理矢理口を開けさせ禁断の果実を押し込む。

ニャルラトホテプは死に体だから今から殺す事は勿論出来る。

しかし、俺はそうはしなかった。

その目に害意の色も敵意の色も見えなかったからだ。


それを噛み締め嚥下する。

喉を過ぎる熱い感触。

旨味とかは最早問題ではない。

喉を焼き尽くさんばかりの暴力的な甘さも。脳を直接手で揺さぶるような劇的な酸味も。

何もかもが人間の許容するものでは無かった。


「っ…はぁ。なんてもん食わせたんだよ」

「おめでとうキヨ坊、これでお前は神だ」


だろうな。そんなことだろうと思ったよクソッタレ。


「三つ目は銀の鍵。因みにヨグ=ソトースの接触は時間が足りなかったが魔王様はじきに来るぞ?猶予は…一日そこそこか。この世界で戦ったら世界滅ぶからな、だからこれはさしずめ魔王城の鍵だ」

「……だろうな」


半ば予想していた。

ニャルラトホテプは遅延戦闘をしているのではないかと。

ならその目的は…。見当は付いていた。


「四つ目はホイ、孫にも衣装って訳で鉢巻だ。目隠しにも使える優れもんだ」


何の変哲のない鉢巻だったが、ニャルラトホテプがプレゼントするくらいだ。何か意味があるのだろう。

赤い色の鉢巻を付けると案外しっくり来た。


「良いじゃないか。んで最後なんだが…これはティア・マティナに渡すとするか」

「あァ?俺にィ、ってもまぁ予想は付くがァ。俺の欠片だなァ?それもかなりデカイィ」

「そう、これがおじちゃんが秘密裏に回収した知恵の盃。キヨ坊が持ってる分と合わせれば完成だろ?んじゃ、後は任せた」


そう言い残しニャルラトホテプは消滅した。


「勝手な親父だよ、全く」


手の中の銀の鍵を意識する。

正義って役回りは結構面倒だな。


「なァ、清人。一つ聞いて良いかァ?」

「何だ?」

「俺はこの場でルピナスを作れるゥ。知恵の盃は収集は完了してテメェは神になったァ。テメェは自力でこの世界から脱出してルピナスと永遠に暮らせるゥ。テメェに戦う理由はもうないィ」


はっ!と鼻で笑う。


「馬鹿か。あるだろ?戦う理由。俺は魔王として多くの人々を殺した。だからこの背中にはその分重いものが乗ってる。それに…」

「それに…」




「ここで引いたら多分ルピナスにビンタされる」



「ハッハッハ!テメェらしくて良い答えだ。じゃあ、俺もそれに答えるかァ」



ティアを中心に魔法陣が広がる。

これが万全の神の奇跡。

一条の光が差し込み、そこには人影が一つあった。

言うまでもない。

その人の、名前は。


「お帰り、ルピナス」

「ただいま、清人」


前と寸分変わらない黒のワンピース。

安心するような甘い香り。

俺の最愛は俺の元に舞い戻った。


「それじゃ、一丁魔王城にぶち込みに行くかァ」

「は?」

「んン?」

「役者が足りてないだろ。あいつも無理矢理連れて行くに決まってるだろ」

「あいつって…あァ、あいつかァ」

「多分この面子だと全滅するしな。あいつがいれば少しはマシになるだろ」


俺たちは恐らく二度と帰る事が出来ないであろう我が家、『魔王荘』に帰宅するのだった。

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