正義の必殺技
『魔王』杉原清人
呪怨双拳が一発だけ腹部を掠めた。
ここで一つ決める!!
俺は上に跳躍し紅炎を纏いながらニャルラトホテプに痛烈なかかと落としを食らわせる。
「紅蓮脚!!」
そう、飽くまでこれはかかと落とし。
跳躍するにしろ時間がかかる。
その間にニャルラトホテプなら回避は当然、反撃の手筈を整える事もできる。
しかし、紅蓮脚はヒットした。
それには二つの理由がある。
一つ目は足元が凍り付いて動くに動けなかったから。
二つ目は俺の動きの良さからだ。
この動きの良さにも理由が勿論存在する。
『エンゼリカ』の能力だ。
『デモニカ』がENVYの象徴であるように『エンゼリカ』は俺、杉原清人の象徴だ。
その能力は当然俺にアジャストしている。
それは身体強化と『エンゼリカ』破壊時の即時回復。
俺はどれだけ壊れても更に強くなって先に進んできた。時間が掛かっても絶対に蘇る男の顕現。
俺は『エンゼリカ』破壊前から『デモニカ』を使用した為、実際に体は万全。最高のパフォーマンスを発揮した、と言う事だ。
ニャルラトホテプはズタズタになっている。
けれどまだ死なない。
だが、殺す為の手立てはある。
今はまだ雌伏の時だ。
「おじちゃん、舐めてたよ。確かにこれは死合いだ。認めようじゃない」
「……」
「キヨ坊、強くなったな」
何を仕出かす積りだ?
背後に下がろうとして、止める。
下がってどうする?寧ろここは…前に出るべきだ。
それに俺には圭一郎の支援がある。
ならば、さらなる布石を打つべきだ。
再びデモニカとエンゼリカに持ち直し、今度はその両方を投擲する。
また同じような弧を描きニャルラトホテプを捉えるがーまだ終わらない。
追加で更に一対デモニカとエンゼリカを取り出しこれも投擲する。
すると、まるでデモニカとエンゼリカが引き合うかのように軌道を変える。
ニャルラトホテプは不規則な軌道の中デモニカだけを砕かなければならない。
デモニカは紫の燐光を放っているので分かりやすいが。
ーそう、紫の燐光。それは『デモニカ』の能力発動の前触れ。
その上、今『デモニカ』は二本。
『デモニカ』一本で幻惑する箇所は一箇所。二本で二箇所。
前は出来なかった同系統複製の恩恵だ。
ここからは駄目押し。
手には身長よりも大きな鎌、『天地深夜』
「袈裟狩り(フェータルキルン)!!」
藍色に染まった大鎌を振るう。
その刹那、二対の鎌がニャルラトホテプの背後に突き刺さる。
まだまだ!
小柄な体躯を生かし背後に周りデモニカを引き抜きエンゼリカをより深く突き刺すように蹴り飛ばす。
そろそろ決めるか。
その瞬間、ニャルラトホテプが本気にー異形に形を変え始める。
ゆるゆると蠢くように変質するそれを前に俺は笑う。
来た。
燐光を放つ『デモニカ』の幻惑を展開する。
「必殺!!」
魔王は叫ぶ。
◆◆◆
俺は考えた。
正義の魔王とやらを。
やはり、魔王とは王だ。王足るなら如何なる謀略をも跳ね除け、逆に罠に嵌めるものなのだろう。狡猾に最低に貪欲に勝利を目指すのだ。
それに対し、正義の味方を想った。
正義の味方ならば仲間を守り、共に戦うものだと思っている。
高潔に謙虚に清廉にたとえ勝てない状況下にあっても死力を尽くすのだ。
全ては信じた正義の為に。
じゃあ正義の魔王は?
これがその答え。
◆◆◆
「ーーーー」
ニャルラトホテプは真っ先に『幻惑』を攻撃した。
対して俺は…。
奴の頭上にて幻惑で姿を消している。
奴の上で何も叫ばない。
確かに俺の放った必殺技、『終局的破滅遊戯』
はニャルラトホテプを一刀両断した。
それも呆気なく。
『必殺技というのは本命の一撃を放つ為にある』
態々叫ばないと技が出ないと誰が言った?
多少精度は上がるが、それだけだ。
圧倒的な差は埋めてはくれない。
「これが、正義の魔王のやり方だ」
「キヨ坊、本当に強くなったな。いいぞ、おじちゃんの負けだ」




