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ドリーム

『第三階層、泡沫の夢』


そこには一つのベットと絵画のある部屋だった。

死に体で歩くふふのもやっとな俺は無警戒にもベットに腰掛ける。

柔い。ベットは仔細に観察しても腐臭のしそうな物体からできていたり、罠のように即死させようという意地汚い魂胆は見えず、ただ休憩の、休息の場所といった風だ。

視線をふと、上に向ければそこには見慣れた少女の絵があった。ルピナスだ。絵の中の彼女は相変わらず黒いワンピースを見に纏い、優しげな様子で俺に微笑みかけている。

その姿は慈愛や母性に満ち溢れ、静謐な空間が一層研ぎ澄まされるような不思議な感じがした。


「絶対にルピナスと一緒に歩くんだ」


自分の意思を再確認し辺りを見渡す。

壁面は白い壁で清潔感がある。決してペイラノイハの神の空間のように気が狂いそうな白ではない。実家のような安心感がある。

まぁ、実物は知らないのだけれども。

だけだ。

この部屋には絵画とベットしかない。


「どう進出するんだ?」


困ってしまう。

ここまでは漠然と敵意と害意があり、越えるべきものがあった。

でも、ここには無い。

ゆるりとした停滞だけがあり安心に包まれている。

そう思うと何だか眠気が急にやって来て俺はベットに潜り込んだ。


◆◆◆


「◆◆」


声が、した。


「◆◆?」


声がして。


「◆◆」


また声がした。


「何だ?ルピナス」


寝ぼけた目を擦りながら言う。

俺は何をしていたんだっけ。

そうだ、道化を倒して宿に戻ったんだったか。早くもボケが始まったか。全く、こっちは若人だというのに嫌なものだ。


「◆◆、◆◆は私が一緒にいなくてもやって行ける?」

「え?」


またボケてしまったようだ。

真意が読めずに生返事を返してしまった。

ルピナスは何を言っている?


「私がいなくても悲しくない?私がいなくてもちゃんと生きれる?」


まだまだ真意が読めなくてルピナスの顔を覗き込む。

ルピナスの頬には一条の光の粒が伝っていた。それは簡単に理解出来た。涙だ。

ルピナスは泣いている?

何故?


「泣いてるのか?」

「………」


何だか今生の別れみたいだ。

そんなはずないのに。

急に不安になる。ルピナスの目は伏せ目がちでよく見えない。

ただ、震えるか細い肩だけが視界を塞ぐ。


「◆◆は良い子だから。きっと友達もできるよ…好きな人もできるよ。きっと」

「ルピナス」


急に頭にかかった靄が晴れるような感じがしてー今まで聞こえづらかった名前が聞こえた。


「智人は良い子」


ー?

ーーー!?

は?

あれ?

誰だ?

誰なんだよ。

オイ、なあ!?

誰なんだよ!!智人って!!?


ルピナスは視線を正面に定めー俺の側を通り抜け、後ろの胎児の元に向かった。

その姿は蜃気楼のように揺らめき黒髪の成熟した垂れ目の女性のものになった。

その小柄な立ち姿は俺に似ていた。


「母、さん?」


俺の母親だと。そう直感した。

同時にに二つの想いが溢れた。


何故、俺に生を与えたのか。という呪詛と。


何故、俺を忘れて智人だけを見るのかという嫉妬。


二つの想いは口から出て荒々しい叫びに取って代わった。


「ねぇ、母さん。俺を見てよ。俺がいるんだぞ!?なぁ、見ろよ。俺を見てくれ!!」


俺はよく分からない怒りのままにー。

感情を発露させる。


「俺を見ろ!!!!!」


母親を殴り殺した。

ヤケに鮮明な血の匂いと骨を砕いた感触が一層俺を不快にした。


「……」


◆◆◆


目が、覚めた。

酷い夢を見た。ああ、本当に酷い夢だった。

けど、これで先に進める。

この部屋の象徴、それは胎。子宮だ。

俺が居られなかった場所。

俺は子宮外妊娠で摘出されたのだ。

俺の本来居るべき場所はここの外側。

だからー。

素手で絵画を滅茶苦茶に破壊し、貶め、壁を乱暴に蹴り飛ばし破壊する。

どうやら肉体は完全に治癒されたらしい。

どうでもいい。

殴り、蹴り、風穴が開いたその先にはー。


「やっぱりな」


『第四階層、ラストバトル』


ENVYが待ち受けて居た。

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