転写《トランスコード》
地面の揺れは、一秒ごとに激しさを増していった。
マイクはその場に立ち尽くし、牧草地を突進してくる群れから目を離せなかった。蹄が地面を叩くたびに土と引き裂かれた草が宙へと舞い上がる。
だが、あれは普通の家畜ではない。
目は異常なほど見開かれ、充血した狂気じみた殺意に染まっている。剥き出しになった歯の隙間からは粘り気のある漆黒の唾液が滴り落ち、皮膚の下では黒曜石のような黒い血管が脈打ちながら不気味に膨れ上がっていた。
一頭が分厚い木製の柵へ真正面から突っ込む。
バキィンッ!
分厚いオーク材は粉々に砕け散った。
それでも牛は速度をまったく落とさなかった。
地響きを伴う突進の重低音に、マイクの胸が締め付けられる。
「こいつら……本気で俺たちを殺しに来てる……」
轟く蹄の音に掻き消されそうなほど小さな声で、彼は呟いた。
隣ではローナンが首を傾け、大きく鳴らす。
ゴキッ。
嫌な音が響いた。
「グリッチへようこそ、新人」
一方のミラはというと、まるで気にも留めていなかった。
彼女は短剣を指の上で軽く回しながら、変異した家畜の群れを眺めている。
その表情は――どこか面白がっているようにすら見えた。
「ふーん」
口元に小さな笑みが浮かぶ。
「ちょっと面白いな」
マイクは勢いよく彼女を振り向いた。
「どこが面白いんだよ!?」
「せっかくお前の訓練に来たのに」
ミラは群れから一度も目を離さないまま答える。
「結局、一番働くのは私たちだからな」
マイクは角と肉の壁となって迫ってくる群れを勢いよく指差した。
「これが普通の訓練じゃないのかよ!?」
ミラとローナンはぴったり同じタイミングで口を開いた。
「断じて違う」
ローナンは牙を見せるように笑った。
「俺たちの時は、こんな無茶苦茶じゃなかったぜ」
ミラは短剣を握り直し、鈍く光る刃を構える。
「もし今日の教官がエイドリアンだったら、お前はもうあそこで闘牛士ごっこをさせられてる」
マイクは即座に顔をしかめた。
「新人にそんな訓練させる奴がいるのか?」
「DOGCだ」
「……確かに」
群れとの距離が一気に縮まる。
周囲を満たしていた低い轟音は、耳をつんざくほどの爆音へと変わっていく。
重い蹄が地面を打ち据え、その振動がブーツの底から直接伝わってきた。
続いて鼻を突いたのは臭いだった。
濡れた草の匂い。
その下に隠れる、腐った銅のような血臭と腐敗臭。
胃がひっくり返りそうになる。
マイクは反射的に一歩後ろへ下がった。
ミラは一歩前へ出た。
そして――
消えた。
マイクの瞳が大きく見開かれる。
恐ろしいほど速かった。
派手な瞬間移動でもなければ、高位能力者のような爆発的な移動でもない。
もっと不気味だった。
無駄がない。
一直線。
完璧に洗練された動き。
ミラは地面すれすれまで姿勢を落とし、草を切り裂くように先頭の雄牛へ一直線に駆けた。
雄牛は巨大な頭を下げる。
異様に長く伸びた角が、彼女の胸を正確に狙っていた。
そして――
マイクが叫ぼうとした、その瞬間。
ミラの身体が滑るように回転した。
銀色の閃光。
スッ――。
直後。
肉を裂く重く湿った音が野原へ響く。
雄牛は勢いのまま前へ進み、脚から崩れ落ちた。
漆黒の血が噴水のように草原へ飛び散る。
巨大な身体が地面を滑り終える頃には――
ミラはすでに次の獲物へ向かう黒い影となっていた。
マイクは乾いた喉を鳴らした。
「……嘘だろ」
隣でローナンが腹の底から笑う。
「あれか?」
「まだ準備運動だ」
そして――
巨漢が突っ込んだ。
ミラのような流れる美しさは、一切ない。
ローナンの戦い方に繊細さなど存在しなかった。
暴走した貨物列車、そのものだった。
変異した牛が大口を開け、牙を剥いて飛びかかる。
ローナンは一歩も退かない。
巨大な両手を伸ばし、突進してくる牛の首を真正面から掴んだ。
バキィッ!
首の骨が砕ける嫌な音が牧草地に響く。
ローナンは腰を捻る勢いだけで牛を地面へ叩きつけた。
首はあり得ない方向へ折れ曲がる。
その衝撃だけで、マイクの足元の地面が揺れた。
マイクは完全に無表情だった。
「……あんたら、本当に頭おかしいだろ」
次の一頭が間髪入れずにローナンへ突進した。
今度は勢いを受け流そうともしない。
ローナンは前足を踏み込み、そのまま角と角の間へ拳を振り下ろした。
バギィィンッ!!
まるでマイク越しに鞭を打ち鳴らしたような凄まじい音が響く。
牛は一瞬で崩れ落ちた。
純粋な衝撃だけで頭蓋骨が陥没し、そのまま顔面から地面へ突っ込む。
マイクは本気で引いていた。
ミラとローナンを交互に見比べながら口を開く。
「……本当にパッチャー(継ぎ当て屋)なんだよな? 秘密裏にヴァンガードの化け物だったりしないよな?」
ミラは横薙ぎに振るわれた角を紙一重で潜り抜ける。
獣の懐へ滑り込み、そのまま短剣を顎の下から真上へ突き上げた。
「そうだ」
彼女は刃を捻りながら、何事もないような声で答える。
「そのはずだ」
獣は喉の奥から濁った悲鳴を漏らし、その場へ崩れ落ちた。
マイクは慌ててローナンの方を見た。
彼はすでに別の牛と向き合っている。
「だったら、なんであいつは壁みたいな体してるんだよ!?」
ローナンは歪んだ雄牛と組み合いながら豪快に笑った。
「遺伝だ、ベイビー!」
ミラは肩越しに振り返り、血で濡れた短剣をローナンへ向ける。
「ローナンの力は、種族由来の身体能力と徹底した肉体鍛錬によるものだ」
「継ぎ当てた能力とは何の関係もない」
「種族由来ぁ!?」
マイクは怒鳴った。
ローナンは誇らしげに太い腕を盛り上げながら、暴れる雄牛をヘッドロックで締め上げる。
「俺のじいちゃんは、趣味でグリズリーベアとレスリングしてたんだ!」
「何一つ説明になってねぇよ!」
「全部説明になってる!」
ついに群れの本隊が二人へ到達した。
牧草地は、一瞬で完全な混沌へと飲み込まれる。
ついさっきまでの穏やかな田園風景は跡形もなく消え去り、血と暴力が渦巻く処刑場へと変わっていた。
ミラは亡霊のように群れの隙間を駆け抜ける。
ほとんど体勢を変えることなく、突進してくる牛の間をすり抜けていく。
斬る。
一歩。
回る。
もう一度斬る。
黒い霧のような血飛沫が草原へ舞い、一定のリズムで死体が倒れていく。
無駄な動きは一つもない。
見せつけるような派手さもない。
すべての一撃が冷徹で、正確で、致命的だった。
一頭が大きく顎を外しながら飛びかかる。
ミラはその角を掴み、その勢いを利用して牛の背中を飛び越えた。
そして両手の短剣を、その頭蓋骨へ深々と突き立てる。
牛は石のように崩れ落ちた。
一方――
ローナンは戦っているというより、局地的な自然災害だった。
巨大な雄牛が全速力で突っ込んでくる。
ローナンは避けない。
受け止めた。
本当に、角を両手で掴んで受け止めた。
マイクは言葉を失う。
ローナンのブーツが地面を深く抉りながらも、数トンはある巨体を純粋な腕力だけで完全に止めてしまった。
「……なんだよ、それ」
マイクは呆然と呟く。
ローナンは狂ったように笑い、牛を自分の方へ引き寄せる。
そして、その額へ渾身の頭突きを叩き込んだ。
ドゴォン!!
骨が砕ける。
鼻先から鮮血が弾け飛び、ローナンは意識を失った巨体を片手で横へ放り投げた。
そのまま別の突進してきた牛へ激突する。
二頭はもつれ合いながら地面を転がり、折れ曲がった手足を絡ませて止まった。
さらに別の一頭が死角から襲いかかる。
ローナンは振り返ることすらせず、裏拳を振るった。
拳が顎を捉える。
骨が粉砕され、そのまま顔面ごと地面へ叩き込まれた。
牧草地には、おぞましい交響曲が響き渡っていた。
骨が砕ける音。
断末魔を上げる変異した家畜たちの悲鳴。
肉の塊が地面へ叩きつけられる湿った衝撃音。
土へと染み込んでいく血の生臭い匂い。
マイクは嵐の中心で、ただ立ち尽くしていた。
そのすべてを見つめながら。
そして――
DOGCへ半ば強制的に連れて来られて以来、初めて理解した。
一つの絶対的な事実を。
パッチャー(継ぎ当て屋)は、グリッチの怪物から生き延びているわけじゃない。
自分たちの方が、もっと恐ろしい存在になったから生き延びているのだ。
血が草原を染めていく。
牧草地に漂っていた匂いは完全に変わっていた。
温かい銅のような血臭。
掘り返された土。
焼けた獣肉。
それらが混ざり合い、息苦しいほど濃密な空気を作り上げていた。
無残に引き裂かれた死体が、野原中へ散乱している。
まだ痙攣を続けているものもいれば、乳白色の濁った目で灰色の空を見つめたまま、完全に動かなくなっているものもあった。
マイクは一瞬だけ、その場で固まる。
ミラがまた一頭の獣の喉から短剣を引き抜き、黒い液体が噴き上がるのを見つめていた。
その時――
肉と血の交響曲を切り裂くように。
「マイク!」
ミラの声が銃声のように響いた。
恐怖より先に、本能が動く。
マイクは勢いよく振り返った。
一頭だけ群れから外れた牛が、ミラの防衛線をすり抜けていた。
丘を一直線に駆け下りながら、標的をマイクだけに定めている。
速い。
速すぎる。
顎はあり得ない角度まで開き、粘り気のある黒い唾液を撒き散らしながら、数トンはある貨物列車のような勢いで突っ込んでくる。
角は真っ直ぐマイクの胸を狙っていた。
再び――
身体が硬直する。
永遠にも思える一秒。
マイクの脳裏には、自分が角で貫かれて死ぬ光景が鮮明に浮かんだ。
距離は一瞬で消えていく。
蹄の轟音が歯を震わせる。
鼓動が肋骨を叩きつけるように暴れた。
考えろ。
その瞬間――
ミラの言葉が、昨日のことのようにはっきりと脳裏へ蘇る。
『周囲を観察しろ』
視界が急激に研ぎ澄まされた。
恐怖が消えたわけではない。
それ以上に、不自然なほど冷静になった。
目が高速で周囲を捉えていく。
牛。
突進の軌道。
ぬかるんだ地面。
右肩の少し後ろにある巨大なギザギザの岩。
侵入角度。
頭が答えを出し切るより先に――
身体が勝手に動いた。
マイクは最後の最後、紙一重のタイミングで身体を左へ投げ出す。
牛は猛烈な勢いで彼の横を通り抜けた。
風圧だけで身体がひっくり返りそうになる。
巨大な蹄が地面を深く抉りながら減速し、方向転換しようともがいていた。
マイクは草の上を転がり、そのまま必死に立ち上がる。
息が上がる。
「……マジかよ」
だが、牛は待ってくれなかった。
すぐさま身体を反転させ、再び彼へ向かって突進を始める。
しかし今度は違った。
あの身体を縛るような恐怖は、もうなかった。
マイクは目を逸らさない。
牛の動きを見続ける。
姿勢。
肩の傾き。
絶対に変わらない突進の軌道。
待つ。
もっと近く。
さらに近く。
――今だ。
今度のマイクは、ただ飛び退いただけではなかった。
右へ。
ほんの一歩。
計算し尽くされた、最小限の動き。
牛は髪一筋の差で彼の横を通り過ぎる。
勢いを殺しきれず、そのまま背後にあった巨大な岩へ激突した。
ドゴォォン!!
爆発でも起きたかのような轟音が響き渡る。
巨大な岩に無数の亀裂が走る。
次の瞬間――
上半分が崩れ落ちた。
砕けた岩塊が牛の背骨へ直撃する。
鈍く湿った、骨と肉が押し潰される音。
そして――
静寂。
灰色の土煙が、ゆっくりと空へ舞い上がった。
マイクはその場で肩を大きく上下させながら立っていた。
両手を膝につき、荒く息を吐く。
脚は激しく震え、自分の体を支えるので精一杯だった。
数メートル離れた場所で、ミラが動きを止める。
肩越しに瓦礫の方を振り返ると、ゆっくりと満足そうな笑みを浮かべた。
「やるじゃないか、新人」
マイクは砕けた岩の下から痙攣する蹄だけが突き出ているのを見つめた。
喉がひどく渇いていた。
「……ただの運だよ」
ローナンが歩み寄ってくる。
手の甲で拳に付いた黒い血を乱暴に拭いながら。
「なあ」
マイクの目の前で立ち止まり、太い指を突きつけた。
「一つ教えてやる」
その声には、いつもの軽薄さがなかった。
「この仕事に――運なんてものは存在しねえ」
マイクは思わず顔を上げた。
あの豪快な笑顔は消えていた。
代わりにあるのは、驚くほど真剣な表情。
「ここじゃ全部、お前次第だ」
ローナンは自分の額を指で軽く叩く。
「頭。」
「空間認識。」
「そして技術。」
その重苦しい空気は、次の瞬間には嘘のように消え去った。
ローナンはいつもの狂った笑顔へ戻る。
「……まあ、それでも最高の避け方だったけどな!」
マイクは長く息を吐き出した。
暴れ続ける心臓を、無理やり胸の中へ押し戻そうとするように。
戦いはその後、あっけないほど早く終わった。
群れの生き残りは、ミラの短剣によって一頭ずつ確実に仕留められ、
あるいはローナンの素手によって肉塊へと変えられていった。
数分後。
牧草地には再び静寂が戻る。
聞こえるのは三人の荒い息遣いと、草を揺らす風の音だけだった。
マイクは周囲を見渡す。
二十分前まで、ここは穏やかな田園風景だった。
今は――
ただの屠殺場だった。
ミラは柵の近くで立ち止まり、
死んだ牛のハーネスから引き裂いた布切れで、静かに短剣を拭いている。
「よし」
武器を鞘へ収めながら言った。
「訓練は終わりだ」
マイクは呆然と彼女を見つめる。
「……これが訓練?」
ローナンが腹を抱えて笑った。
「まだ生きてるだろ?」
「俺なら十分合格だ」
マイクはこめかみを揉んだ。
この連中が命というものをあまりにも軽く扱うことが、本気で理解できなかった。
ミラは血の付いた布を放り捨て、
歪み始めた景色の奥を指差す。
「行くぞ」
「どこへ?」
マイクは二人の後ろについて歩きながら尋ねた。
「まだコアを見つけて、このグリッチを修復しなければならない」
マイクはぬかるんだ地面を踏みしめながら、ゆっくりと歩いた。
「……その修復って、実際にはどうやるんだ?」
ミラは腰のハーネスを軽く調整する。
「すべてのパッチャー(継ぎ当て屋)には、一つだけ共通した根本能力がある」
マイクは身を乗り出すように耳を傾けた。
「転写だ」
風が強く吹き、背の高い草が揺れる。
三人は異常区域のさらに奥へと歩みを進めていた。
「これは私たちのシステムに組み込まれた受動型プログラムだ」
ミラが説明を続ける。
「パッチャーがコアに直接触れることで、グリッチ全体を安定化させることができる」
マイクは眉をひそめた。
「じゃあ……コアは壊れるのか?」
「ああ」
「それで世界は元通りになる?」
「成功すればな」
その言い方に、マイクは胸の奥が嫌な感覚で締めつけられた。
徐々に歪み始めた牧草地を見回す。
「……失敗したら?」
ローナンが横から、驚くほど気楽な口調で答えた。
「大抵は区域ごと崩壊して、中にいる全員が死ぬ」
マイクは疲れ切ったようにため息をついた。
「だろうな。なんで聞いたんだ、俺」
牧草地の奥へ進むほど、空気は奇妙さを増していった。
風の音がおかしい。
まるで半分の速度で再生された音声のように、間延びして聞こえる。
少し先では、一本のオークの木がゆっくりとうねっていた。
強い風など吹いていないにもかかわらず、その幹はまるで蛇のようにくねくねと蠢いている。
その時、マイクは柵の上に一羽のウサギが座っていることに気づいた。
まったく動かない。
ただ、三人を見つめている。
横を通り過ぎた瞬間――
ウサギの首が百八十度ゆっくりと回転した。
濁ったガラス玉のような目が、正確に彼らを追い続ける。
マイクは即座に正面へ視線を戻した。
「……いや、見ない」
ミラが小さく鼻で笑う。
「いい判断だ。背景のノイズは無視しろ」
マイクは両手をポケットへ突っ込み、背筋を走る寒気を振り払おうとした。
「なあ、ミラ」
「なんだ?」
「まだ一つ分からないことがある」
ミラは軽く視線だけ向ける。
「お前、パッチャーには能力があるって何度も言ってるよな」
「ああ」
「でも俺は何も感じない。俺の能力って、どうやって使うんだ?」
ミラは数歩の間、黙ったまま歩き続けた。
草を踏む音だけが響く。
やがて彼女は短く答えた。
「使えない」
マイクは立ち止まりそうになる。
「……は?」
「私たち固有の能力は、コアへ直接触れた時しか発動しない」
ミラは歩みを止めない。
マイクは慌てて追いついた。
「つまり自由には使えないってことか? 戦闘中でも?」
「使えない」
「じゃあ何のための能力なんだよ? 外じゃ俺たち、ただの普通の人間じゃないか」
ローナンが豪快に笑い、巨大な手でマイクの肩を叩いた。
危うく地面へ埋まりそうになる。
「安心しろ、新人」
「俺たちも最初はまったく同じことを聞いた」
ミラは落ち着いた声で続ける。
「パッチャーがコアへ直接触れた瞬間、自動的に転写が起動する」
「その時、お前固有の能力が触媒となって、グリッチの安定化を強制的に引き起こす」
「修復が終わったら?」
「区域は現実へ戻る。コアは砕ける。そして能力も停止する」
マイクは頭を抱えそうになった。
「それだけ?」
「それだけだ」
彼は呆然とミラの横顔を見つめた。
「つまり……コアに触れてる数秒間以外は」
ミラは静かに頷く。
「私たちは、ただの人間だ」
再び、間延びした風が牧草地を吹き抜ける。
グリッチの歪んだ残響が、どこからともなく聞こえてきた。
その瞬間――
すべてが繋がった。
マイクはようやく理解する。
なぜパッチャーの死亡率が、異常なほど高いのか。
戦闘能力を底上げする補正はない。
致命傷を耐えられる超人的な耐久力もない。
窮地をひっくり返す派手な魔法も、現実を捻じ曲げる超能力もない。
パッチャーを凄惨な死から守る唯一の盾。
それは――
純粋な技術だけだった。
ミラは歪んだ地平線を真っ直ぐ見据える。
その視線は冷たく、揺るがない。
「パッチャーに本当に必要なのは――」
彼女の声が、鋼のように静かに沈む。
「……賞品に触れるまで、生き延びることだけだ」




