第八部隊
招集通知が届いたのは、三日後のことだった。
コンビニでドリンクの入ったケースを降ろしている最中、ポケットの中でスマートフォンが震えた。
『DOGC 登録通知』
『分類:パッチャー部門』
『出頭日:月曜日』
『配属:第八現場部隊』
マイクは数秒間、画面をじっと見つめた。
それから、もう一度読み直した。
あの検証室で感じたものと同じ冷たい感覚が、静かに胸の奥へと戻ってきた。
「マイク!」
店長の怒鳴り声が店内に響いた。
「そいつを降ろしてるのか、それとも結婚でもする気か?」
マイクはゆっくりと画面をロックした。
「今やってます」
その日の残りのシフトは、いつもより長く感じられた。
周りの客が急に遠い存在に見え、あらゆる音が鋭く耳に刺さる。
冷凍コーナーの近くで子どもが泣く声が響くたび、頭痛がまた酷く脈打った。
シフトが終わる頃には、外の道路に雨が叩きつけていた。
今度は普通の雨だ。
クソ真面目で、本物の、普通の雨。
マイクは店の軒下へ一歩踏み出し、濡れた通りを行き交う車を眺めた。
DOGC。
パッチャー部門。
その言葉は、まだ頭の中で妙に浮ついていた。
能力者になるということは、もっと別の何かだといつも想像していた。
大金持ちのギルドファイター。
セレブリティ。
エリートハンター。
街の巨大な看板に映し出されるような人間。
こんなものじゃない。
政府の、悍ましい化け物の後片付け役ではない。
自殺行為のような仕事ではない。
マイクは雨の中を、自宅に向かってゆっくりと歩き始めた。
近くの交差点の上で、巨大なホログラムの警告画面が明滅している。
『歪曲活動をただちに通報せよ』
『隔離区域への立ち入り禁止』
『DOGC対応部隊が活動中』
もう、まともに目を向ける通行人もいなかった。
横を通り過ぎた配達用トラックが、道路の泥水を跳ね上げる。
マイクは低く悪態をつき、歩き続けた。
スマートフォンがまた震えた。
レナからだった。
「届いた?」
彼が出ると同時に、彼女はそう尋ねた。
「ああ」
沈黙。
それから――。
「配属は?」
「第八部隊」
「もう調べたの?」
「とっくにね」
マイクはわずかに眉をひそめた。
「で?」
レナは躊躇した。
「……死亡率が、すごく高い」
マイクは一度だけ鼻で笑った。
「最高だな」
「大丈夫?」
「いや」
少なくとも、その答えだけは本音だった。
その夜のアパートは、いつもと空気が違っていた。
明るいわけでもなく、希望に満ちているわけでもない。
重かった。
レナはインスタントラーメンを作りながら普通を装おうとしていたが、マイクは彼女が何度も自分を盗み見ていることに気づいていた。
まるで、少しでも目を離したら彼が消えてしまうのではないかと恐れているかのように。
「今すぐ入隊しなきゃいけないわけじゃないんでしょ」
彼女は彼の前に器を置きながら言った。
マイクは彼女を見た。
「もう前払い金が振り込まれてるんだ」
その言葉に、彼女は黙り込んだ。
DOGCの支払いは早かった。
それだけで、その仕事がどういうものかを十分に物語っている。
後でそれを使うまで生き残れる見込みが薄い人間にしか、これほどの金を前払いで出すはずがない。
マイクはスマートフォンの銀行アプリをもう一度開いた。
そこに表示されている数字は、現実味がないほどだった。
普段なら数か月かけて稼ぐよりも多い金額。
それを見つめる彼に、レナが気づいた。
「これでやっと、電気代が払えるね」
マイクは小さく鼻を鳴らした。
「もっと大きな夢を見ろよ」
彼女はかすかに微笑んだ。
だが、それはすぐに消えた。
「怖いんだろ」
マイクが静かに言った。
レナはラーメンを見つめ続けた。
「怖がらないように、してる」
その答えは、泣かれるよりも胸に刺さった。
マイクはゆっくりと椅子の背もたれに体を預けた。
外では、雨の降る街にまた遠くのサイレンが響き渡っている。
遥か彼方で、別のグリッチ警告アラームが鳴り始めた。
アパートの中の二人は、誰も動かなかった。
翌朝が来るのは、あまりにも早すぎた。
マイクはほとんど眠れなかった。
まただ。
頭の中の奇妙な圧迫感はこの数日で少し和らいでいたが、周囲があまりにも静かになると、時折まだかすかな耳鳴りが聞こえることがあった。
レナには、そのことは話していない。
DOGCの本部は、街の中心近くにコンクリートの要塞のようにそびえ立っていた。
高い黒塗りの壁。
監視塔。
武装した警備員。
強化された門の近くに駐車された軍用車両。
入り口の近くにある巨大な白い文字が、曇り空の下で冷たく見えた。
『グリッチ統制局』
外の検問所エリアを、何十人もの人々が行き交っていた。
兵士、医療スタッフ、能力者、パッチャー。
物資を運ぶ一般人。
誰もが疲れ切った顔をしている。
マイクは黙って列に加わった。
警備員が彼のIDカードをスキャンし、内側の門を指差した。
「新兵か?」
「あぁ」
「パッチャー?」
マイクはわずかに間を置いた。
「……そうだ」
警備員の表情が、ほんのわずかに変わった。
侮蔑ではない。
もっと悪いもの。
同情だ。
マイクはすでに、その表情が嫌いになっていた。
施設の中に入ると、空気は一変した。
建物の中には、消毒液と、金属と、焼けた配線と、饐えたコーヒーの匂いが混じり合って漂っている。
壁一面には巨大なデジタル任務ボードが設置されていた。
『進行中のグリッチ対応』
『封鎖失敗』
『死傷者報告』
『隔離ステータス』
死傷者ボードにあるいくつかの名前が、赤く点滅していた。
『死亡』
マイクは、そこに並ぶ年齢のいくつかがいかに若いかに気づき、視線を逸らした。
血に染まった装備を抱えた二人の武装能力者が、彼の脇を通り過ぎていく。
一人の顔の半分には、火傷の痕があった。
近くの壁際では、別の男が座り込み、失われた片腕の処置を医療スタッフに受けていた。
周囲の人間は、ほとんど反応を示さない。
まるで、これが日常茶飯事であるかのように。
実際、そうなのかもしれない。
突然、建物の一部に激しいアラームが鳴り響いた。
『警告:歪曲漏出を検出。第三セクターのロックダウンを開始します』
施設のさらに奥深くで、金属製のセキュリティドアが激しい音を立てて閉まった。
パニックになる者は誰もいない。
マイクの近くにいた女性は、ただため息をついてコーヒーを飲み続けた。
マイクはゆっくりと、あることに気づき始めていた。
この場所には、英雄的な雰囲気など微塵もない。
漂っているのは、底知れない疲弊だけだ。
やがて、疲れ切った様子の受付係が彼を前に手招きした。
「マイク・ドレンさん?」
「あぁ」
彼女はやる気なさそうに、何枚かの書類を彼に手渡した。
「全部にサインを」
マイクはその束を見つめた。
「法的に俺の臓器を売り払うのに十分な書類の量だな」
「その必要はありませんよ。大抵はグリッチ側がやってくれますから」
マイクは一度、瞬きをした。
受付係は平然とタイピングを続けている。
「……ここの人間は、死に関する冗談が随分と好きなんだな」
「プロとしての自己防衛です」
なるほど、一理ある。
マイクはすべてにサインをした。
医療責任免除同意書。
歪曲暴露に関する権利放棄書。
精神的不安定性に関する合意書。
緊急死亡補償書類。
最後の一枚は、特に「安心感」を与えてくれた。
書き終えると、受付係はついに一つの通路を指差した。
「第八部隊のブリーフィングルーム。地下一階です」
「地下?」
「パッチャー部門はすべて、地下で運用されています」
「なぜ?」
受付係は奇妙なものでも見るかのように彼を見た。
「すぐにわかりますよ」
その答えは、どういうわけか彼をさらに居心地悪くさせた。
エレベーターで下降する時間は、思ったよりも長く感じられた。
下の階層は、施設の他の場所よりも古びて見えた。
薄暗さも増している。
上の階の清潔な軍事的な雰囲気は、ゆっくりと消え去っていた。
壁の一部からは塗装が剥がれ落ち、強化ドアには古い警告標識が貼られている。
『歪曲保管庫:関係者以外立ち入り禁止』
マイクは、戦闘用アーマーではなく濃いグレーの制服を着た数人の人間とすれ違った。
パッチャーたちだ。
自分とほとんど変わらない年齢に見える者もいれば、完全に心が壊れてしまっているように見える者もいる。
一人の年配の男が自動販売機の横にぽつんと座り、うつろな目で床を見つめていた。
その手はわずかに震えている。
別の女性は、首筋に焼けた血管のような分厚い傷跡を走らせながら通り過ぎていった。
ここでは、誰も多くを語らない。
その静けさは、どこか間違っているように感じられた。
やがてマイクは、目的の重い金属製のドアにたどり着いた。
そこにはこう書かれていた。
『第八現場部隊』
彼は一度ノックした。
返事はない。
マイクは慎重にドアを押し開けた。
中の部屋は、エリート対応部隊というよりも、疲れ切ったオフィスのようだった。
古びたデスク。
いたるところに積み上げられた任務ファイル。
コーヒーカップ。
壁際に置かれた武器ケース。
赤色のマーカーで埋め尽くされた巨大な街の地図。
そこには、すでに三人の人間が座っていた。
サバイバルナイフから血を拭き取っている女性。
壁に寄りかかって眠っている大柄なスキンヘッドの男。
そして、窓の近くで書類を読んでいる一人の年配の男。
マイクの目は、すぐにその男に釘付けになった。
彼が威圧的に見えたからではない。
非常に独特な意味で、疲れ切っているように見えたからだ。
すでにあまりにも多くの修羅場を生き延びてきた、そんな人間の顔をしていた。
目の下の濃い隈。
白髪の混じったボサボサの黒髪。
鋭い顔立ち。
落ち着いた佇まい。
首の片側を横切る長い傷跡。
その男がゆっくりと顔を上げた。
彼の視線がマイクに留まる。
それから、マイクの手にある招集ファイルへとわずかに移った。
「お前が補充か?」
マイクはわずかに眉をひそめた。
「補充?」
ナイフを磨いていた女性が、視線を上げずに言った。
「前のルーキーが死んだ」
沈黙。
マイクは一度、瞬きをした。
「……あぁ、そうか」
壁際のスキンヘッドの男が、だるそうに片目を開けた。
「そうならないように気をつけな」
マイクは、今すぐここから立ち去るべきかを本気で検討した。
年配の男が、ようやく立ち上がった。
急ぐ風でもなく、大袈裟でもない。
ただ、静かに。
彼はゆっくりとマイクの方へ歩み寄り、その前で足を止めた。
間近で見ると、彼はさらに疲れて見えた。
肉体的なものではない。
深い、魂の疲労だ。
おそらく、睡眠くらいではもう治せない種類の。
「まだ生きてるか?」
男は淡々と尋ねた。
マイクは困惑した表情を浮かべた。
「……一応?」
男は一度頷いた。
「いい。明日もそれを続けろ」
部屋を沈黙が満たした。
マイクは彼を見つめた。
ナイフを磨いていた女性が、静かに鼻で笑った。
隅のスキンヘッドの男が、一度だけ笑い声を上げた。
そしてどういうわけか――その一言だけで、マイクはこの場所について知るべきことのすべてを理解した。
ここでは、生存が第一だ。
英雄的行為でもなければ、栄光でもない。
ただ、次の朝を迎えるために十分な時間、生き延びること。
年配の男が、ようやく手を差し出した。
「エリアス・ホンだ」
マイクはその手を握った。
「マイク・ドレンです」
エリアスは手を離し、デスクからフォルダを一つ掴み取った。
「パッチャーが何をするか、知っているか?」
「コアを見つけ、グリッチを安定させる」
「それは綺麗な方のバージョンだ」
エリアスはフォルダを彼に向かって放り投げた。
マイクはそれを不器用に受け止めた。
「本当の仕事が何か、わかるか?」
マイクは沈黙を守った。
エリアスはデスクにわずかに寄りかかった。
「俺たちは、他の誰もが逃げ出したがる場所に入る」
芝居がかったトーンでもなければ、演説でもない。
ただの、事実だった。
ナイフを磨いていた女性が、ようやく立ち上がった。
「リア・ヴァンス」
彼女はマイクと同じくらいの年齢に見えた。
短い黒髪。
引き締まった体躯。
常に苛立っているかのような鋭い目。
「誰かに安全だって言われるまでは、グリッチの中にあるものには指一本触れるんじゃないよ」
スキンヘッドの男が、椅子からだるそうに片手を挙げた。
「ブリッグスだ」
「それはファーストネームですか、それとも苗字?」
「たぶんな」
マイクが彼を見つめると、ブリッグスはわずかにニヤリと笑った。
「頭の怪我だ」
なるほど、納得だ。
エリアスは淡々と話しながら、別のファイルを開いた。
「訓練をすぐに始める」
「すぐに、ですか?」
「オリエンテーションのビデオや、モチベーションを高めるスピーチでも期待していたか?」
「少しは」
「残念だったな」
マイクは思わず、自分でも気づかないうちに笑いそうになった。
ほんの少しだけ。
エリアスは突然、小さな黒い装置を彼に向かって放り投げた。
マイクはそれを辛うじて受け止めた。
「歪曲モニターだ」
エリアスが言った。
「それが赤くなったら、走れ」
「どこへ?」
「なるべく死から遠い場所へだ」
リアが近くの武器ロッカーに向かって歩き出した。
「一日目からルーキーを脅さないでよ、ボス」
「現実的な心構えをさせているだけだ」
「そっちの方が余計に悪く聞こえるけどね」
マイクは静かに、もう一度部屋を見渡した。
疲弊。
傷跡。
当たり前のように語られる死。
この人たちはヒーローではない。
彼らは、生き残り(サバイバー)なのだ。
そしてマイクは、なぜ誰もがパッチャーを哀れむのかを突如として理解した。
彼らが弱いからではない。
誰もが、彼らがいつか死ぬと思っているからだ。
突然、地下室に激しいサイレンが響き渡った。
『任務警告:不規則級グリッチを検出。対応部隊の出動を要請します』
部屋中の空気が一瞬で動いた。
リアは装備をひったくった。
ブリッグスは数秒前まで半分眠っていたように見えたにもかかわらず、即座に立ち上がった。
エリアスは冷静にファイルを閉じた。
それから、マイクを見た。
「いい初日を選んだな」
マイクはゆっくりと唾を飲み込んだ。
彼の手の中にある歪曲モニターが、突然かすかに振動した。
どういうわけか――あの耳鳴りが、全く同じ瞬間に戻ってきた。




