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77番目の使徒  作者: ふわむ
第二章
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新人教育4


「・・・と、このように『白』『赤』『橙』『黄』『緑』『青』の光が出せるんですよ」

「へぇ・・・。魔石置いてすぐに光るんだな。ほとんど時間差ないよな、これ」

「綺麗な光ですね・・・」


私の説明に、ストラノスさんとマルティーナさんが感想を漏らす。

副長以外の人にとってこの箱の魔道具を見るのは初めてになるので、皆興味深々に見ている。


今やっていたのは簡単な動作説明。前置きだ。

私が箱の魔道具一号に魔石を乗せていく。他の人には二号の魔法陣を観察してもらい、様々な色に光ることを確認してもらった。


「ここからが本番です。全員で今から光らせる色を順番に記録してくださいね」


皆に紙とペンを用意してもらい、私は魔石セットから魔石を摘まむ。

そして『土』『光』『風』と一号に乗せて魔法陣を光らせていく。


『橙黄緑』


ビルナーレさん、マルティーナさんは二人ともギルド職員で事務に慣れているので、難なく記録している。逆に事務に不慣れなストラノスさんとジュネさんは、「橙」「黄」「緑」と都度声に出して頑張って記録していた。少し微笑ましい。

彼ら四人の後ろから見守るように立っていた副長も、スマートにさらさらっと記録していた。


「記録しましたかー?次いきますね」


『橙緑黄』

『白橙緑』

『白橙白』

『黄白黄』

『白黄橙』


色が三つ繋がるように光らせたら一旦光を消し、また三つ繋がるように光らせる。

それを六回繰り返した。


「これでよし、と。それじゃこちらを見てください」


副長に携帯してもらっていた企画書を一旦受け取って、色の組み合わせに関する部分数枚を抜き出す。そして皆に見てもらうために長机に並べた。


「エルナさん。何ですか、これ?」

「色の組み合わせ表、ですね。この取り決めに従って先程の信号を文字に変換するんです。今回の信号は三連色。すべて基本文字ですから簡単ですよ。早速やってみてくださいね」


ビルナーレさんの問いに答えていると、後ろで眺めていた副長は記録した紙にさらさらっと書き込んで「ああ、なるほど。わかった」と呟いている。どうやらもう解読できたらしい。


「エルナさーん。『黒』ってどこを見ればいいんですか?」


ん?『黒』?そもそも光に黒色なんてないし、なんの事だろう。

・・・あ、そういうことか。


「ジュネさん。それは『黒』ではなくて、光が消えていたんです。光が消えたところが信号と信号の区切りになるんですよ」


魔力が何も通ってない状態、つまり魔石が置かれていないときは魔法陣は光らない。ジュネさんはそれを『黒』と認識したのだ。感受性豊かだね。


「ということは、私が『黒』と記録したところから次の『黒』までを照らし合わせればいいから・・・これがこうで・・・」


ジュネさんも理解できたようで、記録した紙に書き込み始めた。


マルティーナさんも早々に解読が終わったらしく、ストラノスさんの横に付いてフォローしてあげている。

さて、そろそろいいだろうか。


「皆さん解読できましたよね?最初の『橙黄緑』が『o』。次の『橙緑黄』が『r』。以下同様に基本文字に変換して、『c』『a』『t』『e』。今回は6文字。『orcate』となります」


オルカーテ。つまりこの街の名前だ。


答えを聞いて皆頬を緩ませ頷いているが、ジュネさんだけ頭を抱えて悔しそうな顔をしていた。どれどれと記録した紙を見たら、読み取り記録は合ってたのに変換で凡ミスをしていたようだ。まぁ、すぐに慣れますよ。


「ではもっと簡単なものでいきましょう」


再び、皆に二号を囲んで記録をするよう指示して、私は一号の前で魔石を摘まんで魔法陣を光らせた。


『黄白』

『白橙』

『緑白』


「え?これで終わりですか?」

「はい。今度は、えーと・・・この組み合わせ表を見て変換してください」


物足りなさそうなジュネさんに返事をしながら机上に並べられている組み合わせ表をさっと眺めて、その中から二連色の組み合わせ表を指し示した。


「6・・・。0・・・。9。え?何だろこれ」

「609。今のロッツアリア歴だな」

「あ、そっか。なるほど」


ジュネさんの呟きにビルナーレさんが答える。

正解である。今年はロッツアリア歴609年。

もちろん、何にちなんだ数字かを答えることが重要なのではない。正しく変換できることが重要なのだ。でもこういうクイズ形式の方が楽しく覚えられるんだよね。


「このように二連色なら数字、三連色なら基本文字になります。今日はこれを使って文字を読んだり書いたりしてみてください。やってみた感想や意見なんかは明日聞きますね」


私の言葉を聞くや否や、彼らは魔道具を使って楽しそうに遊び始めた。

おっと、これはお仕事である。建前は大事だ。


ふと隣の副長を見ると、顎に手を当てたまま固まっていた。

そのまま見ていたら、ばちっと目が合う。


「・・・エルナ」

「はい?」

「これは・・・相当凄いんじゃないか?」


むーん。何と答えよう。

副長は王都からこちらに戻った直後、私の企画書には目を通している。だから、こんなことができそうだ、というぼんやりとしたイメージを持っていたと思う。

それがちゃんと形になったものを見たことで、『魔道具による通信の可能性』というものをはっきりと実感できたのだろう。思い描いていただけのイメージが、あれもこれもできそうだ、と具体化されている真っ最中なのではないだろうか。


「・・・まぁ、その、使い方によっては割と凄いことできると思いますよ」


企画書では、魔道具による通信が『手紙の発展形』であるかのような書き方になっている。ふわっとした物言いになるが、連絡手段として既存の文書配達より便利ですよ、という感じだ。

実のところ、利用方法についてもっと深く書くこともできた。

でも「書いていいんだろうか」という漠然とした不安があったから、あえて書かなかったことがある。


書かなかった利用方法が何かというと。

一つは商取引利用。そしてもう一つは・・・。


まぁ、商取引に利用するのは限度を超えなきゃいいだろう。もう一つの利用方法についてはしばらく黙っておこっと。


副長に耳を貸すよう腰を曲げてもらい、私は小声でささやいた。


「・・・副長には後で面白い使い方を教えますね」

「・・・わかった。後でな」


副長も小声で返す。

そこから先の会話は普通のトーンに戻した。


「それとだな、この組み合わせ一覧、書写しょしゃしてもいいか?」

「いいですよ。一号側と二号側で必要でしょうから最低でも二部書写するといいんじゃないでしょうか。ただ、企画書同様に副長が管理する必要はあると思いますよ」

「それは当然だな。彼らにも扱いに気を付けるよう言っておく。その辺りは任せてくれ」


何事も最初の取っ掛かりは難しいものだ。だが、そこさえ過ぎれば後は流れるように進む、という事もまたよくある。新しい事は特に、だ。


企画書を作っていた時、予想していたことがある。最初の誰かに教えるところが一番時間が掛かるだろうということ。そして、それは一筋縄ではいかないだろうということだ。

ところが、副長が連れてきた身内の方々は優秀だった。

受付嬢のマルティーナさんも加わって皆それぞれ仲が良さそう。向上心もある。教えたことに対して楽しく取り組んでいる。何よりも、子爵家の肩書を借りているとはいえ、子供の私を見下すようなことはしない。

これは思ったより早く形になるんじゃないかなぁ。


私自身はどうだろうか。

確かに仕事は増えた。忙しくなったけど、結構自由で楽しい。

でも私が好き放題やれているのは、責任がない立場だからなんだろうな。

周りの大人達が責任を持ってくれているからこそ、私は気楽にお仕事できているのだ。


いずれ自分が責任を持つ立場になるかもしれない。でもそれまではこの立場を満喫させてもらおう。

それがどれだけ虫のいい話であることか。私は知っているのだけれども。


皆が楽しそうに取り組む姿を後方で眺めながら、そんなことを思うのだった。


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