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77番目の使徒  作者: ふわむ
第二章
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魔道具の使い道7


待機室でかなり早目の昼食を取り終えた私は、再び仕事場に戻ってきていた。

箱の魔道具一号の前に座っている私を、同じく昼食を済ませて食堂から戻ったラミアノさんは楽しそうに横から見ている。

その隣には調査に立ち合うためラミアノさんと一緒に仕事場へやって来たギルド長がいる。私と軽く言葉を交わしてから、ギルド長は懐から一枚の紙を取り出し、私の近くに置いた。


「エルナ。副長の移動経路はこんな感じだ。一応言っておくと『ファリス』って書いてあるのが王都の名前な」

「ありがとうございます、ギルド長。ふむふむ・・・」


非常に簡略化された経路図だがわかりやすい。

オルカーテからファリスまで線がにょろにょろっと引かれ、道中で通過する村や街が記載されている。

王都ファリス。普段は単に『王都』と呼ぶことが多いが、街の名前は『ファリス』である。


副長の乗った馬車は今頃、ホラス領内の南西にあるポナタフ村で休憩を取っているはずだという。

オルカーテからポナタフ村までの距離は、うちの村から隣村と同じか少し長いくらいらしい。

そんなギルド長の説明に耳を傾け、経路図の上で指を滑らせながら思う。

もしもうちの村と隣村でこの通信ができたなら、どれだけ便利なことか。配達の仕事をしてきた私には容易に想像が付いた。だが・・・。


「・・・まぁ、過度な期待はしない方がいいか」

「ん?どうした?」

「あ、いえ、なんでもないです。あはは」


思わず漏れた私の小さな呟きをギルド長が拾ってしまったが、私は両手をぱたぱたと振りつつ笑って誤魔化した。

ちょうどその時。


カーン。


待っていた昼の鐘が鳴った。

時間だ。

ラミアノさんとギルド長がこちらを見つめて頷いた。


「それじゃ操作始めまーす」


一号の魔法陣には無属性の小さな魔石が一つ乗っており、魔法陣は白く光り輝いている。


えーと、裏蓋が外れる順番は使わないように決めたんだったね。

というわけで光の波長の短い順。青からっと。

水属性の魔石を魔法陣の上に乗せ、隣の無属性の魔石を摘まみ取る。

光の色が変化したのを確認し、風属性、光属性、土属性、火属性と順番に置き換える。

そして最初の無属性の魔石を乗せた状態に戻して、こちらからの送信作業は完了だ。

色の遷移でみると、最初が白で、青→緑→黄→橙→赤。最後にまた白に戻した格好だ。


「これで終わりです」

「ん、なんだ。それだけか?」


操作を始める宣言をしてからわずか1分あまりしか経っていない。

もっと複雑な作業を時間を掛けてやると思っていたギルド長は、拍子抜けしたような表情をしていた。


「はい。これだけですよ。後は副長からの応答を待ちます」

「ふむ、そうか・・・。エルナ、光の色が変わったぞ」

「え?」


ギルド長が腕組みをほどいて、魔道具一号をぴっと指差す。

はっとして、ギルド長から指された魔道具に視線を戻すと、魔法陣は青い光を発しているではないか。

私は唖然としてしまった。


「う、嘘ぉ・・・」

「なんか問題でもあったのか?」

「いや・・・その、問題がなかったんです。まさか応答が返ってくるなんて思わなかったので」


前世の知識で無線LANの電波範囲はせいぜい数十から数百メートルだったし、さらに範囲を広げようとしたら、電波塔を建てたり受信アンテナを設置したりして設備規模を大きくする必要があった。

だからこんなお菓子箱サイズの魔道具が、10キロメートルは離れているであろう場所まで送受信できる機能を備えているとは思いもしなかったのだ。


固まっている私を置いてきぼりにしたまま、青い光は緑に変わり、黄、橙、赤、そして元の白い輝きに戻った。

副長からの応答が一通り無事に届いて、めでたしめでたし・・・。

・・・いやいやいや。ちょっと待ってよ。


「信じられない・・・。どうなってんの?この魔道具」

「調査を提案したお前さんが、なんで信じてないんだよ?」

「え・・・。まぁ、提案したのはそうなんですけど、私、絶対無理だって思ってたんですよ」


ギルド長は理解できないという表情をしてラミアノさんを見る。そんなギルド長にラミアノさんは肩をすくめてふっと笑った。


「エルナは失敗することを確認するつもりだったんだろうよ。ただ想定よりもこの魔道具が高性能だったってことさね」

「ふーむ、そんなもんかね。俺は魔力がよく分からんから、むしろうまくいくものだと思っていたがな。で、今日の調査はこれで終わりだよな。明日もやるんだろ?また見に来るからな」


見るもんは見た、とばかりにギルド長は席を立ち、仕事場から去っていった。

楽しそうにこちらを見るラミアノさん。


「調査して良かったじゃん。わからなかったことがわかるってのは大事だよー」

「あはは。確かにそうですね」

「ちょいと早いが午後の訓練始めるかい。あんたは机の上を軽く片づけな。あたしも着替えてくるから仕事場を閉めるよー」

「はーい」


待機室を与えられてからというもの、着替えて座っていれば昼食を終えたラミアノさんが呼びに来てくれる。楽ちんになったものだ。

今日はまだ二人とも仕事着だからラミアノさんはギルド職員の更衣室で、私は待機室でそれぞれ着替えてから訓練場へ行く。


そこからはいつも通りの日常となった。

調査の初日はこうして過ぎていった。







調査二日目となる翌日。

前日と同じ様に仕事を早目に開始して早々に片づける。

そして昼食を早目に済ませたギルド長、ラミアノさん、私の三人は仕事場に集まり、調査の準備を整えた状態で昼の鐘を待っていた。


「副長は昨日の内にホラス領から王領へ入っているはずだ。そして二日目となる今日の昼にはこのリュカーボ村で休憩を取る手筈になっている」


待機している間、ギルド長が経路図を指して説明したり、雑談をしてくれる。

今日副長が昼休憩するリュカーボ村は、所謂いわゆる宿場として発展した村だそうだ。

街と呼べる規模ではないが、宿屋が建ち並び食事処も充実しているらしい。

そんな話を聞かされると、なんか出張も楽しそうだと思っちゃうよね。


カーン。


おっと、昼の鐘だ。お仕事お仕事。


「ではこれより始めまーす!」

「おや?昨日より気持ちが入ってるじゃないのさ」


ラミアノさんにそう突っ込まれた私は、両手をぐっと握って勢いよく頷く。

ぶっちゃけてしまうと、昨日通信ができてしまったことで今日は心の準備ができていた。

私は開き直ることにしたのだ。

これは畏れ多き魔女様の設計した魔道具。

ならば私の常識なんぞどんどん突破してきてもらいたい。


さぁ、来い。もう何が来ても驚かないぞ。


果たして・・・。

私が魔石を順番に入れ替えて光の色を変えると、続いて副長からの応答が返ってきた。

ほ、ほーらね。うまくいくと思ってましたよ。こんちくしょー。


「今日もちゃんとやり取りができましたね。なんかもう、このまま王都までいけちゃいそうな気がしてきましたよ」

「エルナ。この調査いつまでやるんだ」

「最大で四日間。明後日までです。やる前は初日で終わるだろうと思ってたんですけどね・・・」


副長の旅程が順調なら、三日目の夜に王都の実家に到着する。四日目の昼に実家からやり取りすればそれ以上の調査は必要ない。

ギルド長はそれを聞いてふむと頷き、初日と同じ様に「明日も来る」と言って仕事場を去っていった。






さらに二日が経過して・・・。

調査は順調そのものであった。

昨日の三日目も、そして最終日となる本日、四日目も、副長からの応答を確認することができた。

もう、どーにでもなーあれ。


「今日、副長は王都の実家から応答したはずです。つまりこの魔道具は、オルカーテと王都までやり取りできることがわかりました」


四日間、調査に立ち会ってくれたギルド長とラミアノさんを前にして、本当は驚きを通り越して呆れている内心を隠しながら、努めて冷静に調査結果を総括する。


「調査は完了したわけだが、次は何をするんだ」

「そうですね・・・。当初考えていた通り人を雇いたいんですが、少し条件を追加しなきゃいけなくなりました」


顎をくいっと上げて、言ってみろと促してきたギルド長。

ギルド長の目を見て、私は一つ頷く。


「王都に出張できる人を雇いたいです」

「ほほう」


ギルド長は驚きと楽しさが混じった声を上げ、ラミアノさんはいつもの様に面白そうににこにこしている。


「最初はギルドの建物内の連絡とか、オルカーテの街の中でギルドと職員の間の連絡に使えないかと考えていたんですよ。でも箱の魔道具が王都まで通信可能であるとわかった以上、それではもったいなくて。ギルドで一つ、事業を立ち上げませんか」


私は立ち上がり、自分の背負い袋から紙の束を取り出すと、ギルド長の前にそっと置いた。


「む、これは・・・?」


置かれた紙束をいぶかしげに手に取るギルド長。私は、よくぞ聞いてくれましたとばかりに胸を張って答えるのだった。


「箱の魔道具を使った通信の企画書です!」


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