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77番目の使徒  作者: ふわむ
第二章
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魔道具の使い道5


朝の長い打ち合わせはひとまず終了となり、この後はいつも通り仕事をこなした。

とはいえ、いつも通り、というには雑念が入り過ぎていたので、いつも以上に作業前の確認をしたんだけど。こういう時ってミスしやすいの知っているんだよ。


その甲斐あってか何もミスすることはなく、昼前に今日の仕事は片付いた。


「昼食にしよう。ダルに何か伝える事はあるかい?」

「ギルド長に・・・。そうですね、昨日の魔道具の持ち出し許可について、ありがとうございました、と。それから、追加で確認が必要になったので街の外へ持ち出すことができないか聞いてみてもらえませんか」

「へぇ・・・。街の外かい。つまりエルナは街の中に留まらず、街から街へ合図を送れるか試したいわけかー」


流石としか言い様がない。

ラミアノさんは理解が早いなぁ。


「その通りです。現段階ではあくまで可能かどうかの確認ですけど。・・・駄目でしょうか」


正直なところ私の期待度は、オルカーテから一番近い村までならなんとか届かないかなぁ、くらいのものなんだけどね。

ラミアノさんは少し考えて口を開いた。


「それは食堂では話せないね。エルナ、付いといで。場所を借りてそこで一緒に昼食だ」


えっ!ラミアノさんと一緒に昼食!?

それは嬉しい。

職場の先輩と一緒に昼食を取る。そんな何気ない事をできないのが今の私の立場だ。

両手をぐっと握り満面の笑みで答えた。


「喜んでお供しますっ!」


一瞬目をぱちくりさせたラミアノさんだったが、すぐに表情を崩すと私の頭を軽く撫でてくれた。

そのまま部屋を出るのかと思ったら、箱の魔道具一号を抱え、台座の魔道具に被せている遮光の布を箱の魔道具に被せた。

ああ、なるほど。ギルド長に説明するために、一応箱の魔道具も持っていくのか。


「じゃ、行こっかー。エルナ。魔道具抱えているから代わりに部屋の鍵掛けといて」

「はーい」


箱の魔道具を抱えたラミアノさんと一緒に本館の食堂まで移動すると、いつものように奥のテーブルに座っていたギルド長が軽く手を挙げる。

ラミアノさんは魔道具を抱えたままギルド長の元へ寄って行った。

その間、私はカウンター前で一旦待機だ。


ラミアノさんは座っていたギルド長に立ったままを交えると、今度は私のいるカウンターの方に戻ってきた。


「エルナ、場所変えるよ」


こくりと頷き、歩き出すラミアノさんに付いていく。

辿り着いた先は、一昨日、代筆を請け負ったときに使った空き部屋だ。

魔道具を両手で持っていたラミアノさんは脇に抱え込み直すと、空いた手で扉に掛かっていた札を『空き』から『使用中』に裏返した。

ああ、言ってくれれば私が裏返したのに。


「中に入ったら椅子を用意しといて。副長も来るから四脚だよ」


私が手持ち無沙汰にしていたのを察したのか、さり気なく作業を振ってくれた。

ラミアノさんのこういうところが男前だと思う。

部屋の壁際に置かれている椅子を長机の周りに運ぶ。

ラミアノさんの指示に従い、部屋の扉に対して左右両側に二脚ずつ配置。これでよし。


二人で座ってしばらくしていると、扉がノックされ、部屋に配膳台ワゴンが運び込まれた。

運んできたのはいつも食堂のカウンターにいるアドロックさんだ。

アドロックさんは料理が盛られたお皿を長机の上に手際よく並べていく。

こういうのは下手に手伝おうとすると邪魔になるので、私はラミアノさんの隣で座ったままでいた。


いつもの弁当と違ってお皿に盛られているので、見た目の印象が違って楽しい。

職員さんが食堂で食べてる定食より、たぶん少しだけグレードアップしている。あとスープも付いている。嬉しい。


アドロックさんは配膳し終えると、胸に手を当てて立礼し退室していった。

冒険者ギルドにはたくさんの冒険者が出入りするが、時には偉い人達も来たりするだろうから、こういう食事会っぽいセッティングもよくあるお仕事なのだろう。

ちなみに配膳台ワゴンは部屋の隅に置きっ放しだ。食器を返却するときにまた使うからだと思う。


それからあまり間を置かず、ノックと同時に扉が開かれた。

もうわかる。この入室の仕方はギルド長だ。後に続いて副長も部屋に入って、扉を閉め、内鍵を掛けた。

私は立ち上がって挨拶しようとしたが、ギルド長に軽く手を挙げて制されてしまった。そのまま座っとけ、ということのようだ。ギルド長と副長は、私達の正面の位置に並んで座る。


「何やら面白い報告が聞けそうで楽しみだ。まずは昼食にしよう」


ギルド長の言葉に皆頷き、目の前に並べられた昼食を取り始めた。


「エルナ。フォークとスプーンは使えるか?」

「あ、副長。たぶん大丈夫です。無作法になるかもしれないですけど、使うだけなら」


この世界では村人の食事は手掴みが普通だ。

なので副長は気を使ってくれたようだ。

・・・もぐもぐ。美味しい。


ここに同席している子供の私は、はたから見れば場違いだったであろう。

私自身は気負うことは何も無いのだが。まぁそれでも最初は若干居心地が悪いものである。

一昨日ラミアノさんがお休みだったときに、私とギルド長、副長の三人で弁当を食べたことがあったが、今日はラミアノさんもいるからまだ気楽かな。


なんやかんやで軽い会話を交えながら食事をしていたら、徐々に気持ちがほぐれてくる。

周りの大人達はそんな頃合いを見計らってか、いつしか話題を本題に誘導し、私はギルド長と副長に箱の魔道具の説明をしていた。


「・・・というわけで、箱の魔道具を『通信』の用途で利用できるのではと思い、引き続き通信可能範囲を知るための調査をしたいんですよ」


始めはふんふんと面白そうに聞いていたギルド長、副長だったが、徐々に眉間にしわが寄り、遂には腕を組んでうーんと唸った。


「既にラミアノの屋敷と冒険者ギルドまでは通信できることが確認できた、ってわけか。・・・どう見る、副長」

「どうもこうも、色々使えそうではありますね。その距離で連絡を取り合うなら、領軍がやっているような手旗信号や光の魔道具を使った合図、あるいは狼煙のろしを上げたり、鐘を鳴らすことでも何とかなるんでしょう。ですが、それらは天候や昼夜の時間帯によって使用が制限されてしまう。箱の魔道具は、そういった制限がない、ってだけでも大きな利点でしょう」


私は知っている。

箱の魔道具でやる通信には、もっと大きな利点があることを。

それは何かというと、通信する者同士にだけ伝わりそれ以外の者には伝わりにくいこと。

すなわち機密性が高いということだ。

でも、それを私の口から言っていいものかどうか・・・。

その内に気付く人は気付くだろうし、今は黙っておこう。


「まぁ、調査する価値は十分にあるんじゃないか?副長、どうだろうか。明後日からの出張に携帯してみれば」

「出張先って、先日話に出てた王都の冒険者ギルドですか?」


王都の冒険者ギルドで行う会合には副長に出向いてもらっている、というのは、たしかラミアノさんが休日だった日に聞いた話だった。

ギルド長と副長の会話に思わず口を挟んでしまったが、副長は特に気にせず答えてくれる。


「ああ、そうだよ」

「王都って遠いんですよね」

「馬車で片道三日だな。会合は七日後なんだがね。明後日にはここを立つ予定なんだ」


出張することを特に気にした風でもなく、副長は笑いながら話す。

王都に着くまで三日も掛かるのか。大変だなぁ。

うちの村からこのオルカーテまで来たときは、馬車で朝から夕方まで掛かった。単純な比較はできないだろうが、その二、三倍くらいの距離はあるんじゃないだろうか。


副長は王都出身で実家が貴族だ。

王都の会合に出席するときは、二、三日前に実家に帰り、会合後も二、三日休んでからこっちに戻ってくるのが常らしい。

なので一度出張に出ると、ざっくり行きで三日、王都に滞在五日、帰りで三日として、次に戻ってくるのは十一日後くらいになる。


「それじゃあ副長、調査の協力を頼まれてくれるか」

「面白そうだし、いいですよ。どうせ道中暇ですしねぇ」


出張の合間に仕事が増えた勘定だが、ギルド長からの依頼を副長は気前よく引き受けた。


「エルナは調査方法を明日までに副長に説明してくれ」

「あ、はい。わかりました」


おっと、こっちにも仕事が割り振られたよ。

でもまぁ、調査方法といっても基本的には仕事場に残す方の魔道具に無属性の魔石を乗せっ放しにしておくだけだ。

副長には携帯した魔道具を道すがら確認してもらって、往路では光が消える地点を大まかに記録してもらい、できれば復路で光が灯る地点も記録を取ってもらえればいいな、と思ってる。

そうすれば、その地点近辺がオルカーテから魔力を送信できる限界距離ということになるからだ。


それでも、余裕があれば属性を変えてみたり、副長の方からも送信してもらったり、っていうのはアリかもしれないなぁ。説明のときまでに考ればいいか。


「エルナ。他には特にないか?」


ギルド長の問い掛けに、そういえばと思い出し、ぽんと手を打つ。


「あのー、別件になるんですけど、マルティーナさんから代筆の仕事の手伝いを誘われているんですけど・・・」

「なに?現段階でこの魔道具の調査もやっているのに、そんな時間ないだろう?」

「頼まれたときは魔道具の調査をする予定は無かったので、空いた時間ならいいかと前向きに考えていたんですよ。でも今はギルド長の言う通り時間が足りなくて。なので私以外で誰か字を書ける人を補充してあげてほしいのと・・・」


そこで言葉を一旦区切ったので、ギルド長は怪訝けげんな顔をした。


「なんだ?続き、言ってみろ」


先を促され、私は少し上目遣いで言ってみる。


「私も字を書く手伝いができる人を雇いたいんですけど」

「はぁぁぁ?」


ギルド長とその隣の副長があっけに取られたような顔をしたその一方で、ラミアノさんは楽しそうに口角を上げている。


やがて椅子に座り直したギルド長は胡乱うろんげな目で私を見てきた。


「エルナ。お前さんが人を雇おうっていうのか?」


冗談と思われないよう、ちゃんと姿勢を正して真剣モードで答えよう。

私は背筋をピッと伸ばした。


「実は・・・現時点でも既にこの魔道具は、ギルドにとって非常に利用価値がある、と思ってるんですよね。言葉を飾らずに言うとですね、もし私がこの魔道具を運用したならお金をたくさん稼ぐことができます」


ギルド長はじっと私の目を見る。こちらも視線を外したりはしない。

一呼吸置いてギルド長が質問を続ける。


「・・・一応聞いておくがお前さん。金を稼いでどうしたい、とかあるか?」

「具体的には何も決めてないんですが、でも、いつか自分の魔道具や魔石を手に入れたいかなぁ。そうなるとやっぱりお金はたくさん稼いでおきたいですかね。それとお金ではなく、後付けのような理由なんですけれど・・・」


一旦言葉を区切り、一呼吸置く。

ギルド長の目が、もったいぶらずにさっさと言え、と訴えている。

でもね、これは落ち着いて言いたいんだよ。


「私、まだ十数日ですけど、ここでの仕事をこなしてきて、ラミアノさんを始め、ギルドの皆さんに色々お世話になって・・・。それで私も、何かギルドのお役に立ちたいんです」

「ほう」

「ふむ」「へぇ」


ギルド長と、横で聞いていた副長、ラミアノさんからも同時に感嘆の声が漏れた。


ここで仕事をしてきて、ずっと感じていたのだ。

私は故郷の村で、両親だけでなく、村長のマーカスさん、司祭見習いのワッツさんをはじめたくさんの大人からお世話をしてもらった。

そしてその流れはまだ続いていて、この冒険者ギルドでも私が関わる大人達はみんな良くしてくれている。もちろんギルドにとっての打算もあるだろう。だが明らかに情を掛けられているのだ。


私としては一方的に施されるのは精神衛生上よろしくない。だからこちらからも何かギルドの利益になるような事でお返しをしたい、と漠然と考えるようになっていた。


「この調査はその一環なんですけれど、調査が進んだら次の段階で人手が必要になってくるので、今のうちに言っておいた方がいいかなって」

「ふぅむ・・・」


ギルド長は腕を組んで私をじっと見る。

私が言った『人手が必要になる次の段階』とは何かについて考えていたのかもしれない。

だがギルド長はそこには触れずに話を先に進めた。


「字が書ける人材を確保することはできるが、お前さんが雇うとなると状況が特殊になるな。お前さんのことを外部に漏らさないように努めている現状で、外部の人間を雇うことは厳しい」

「まぁ、そうですよねぇ。むしろ信用のおける人物であれば、現段階で字の読み書きができなくても構わないくらいなんですが」

「む・・・。ならば多少は探しやすくはなるな。いずれにしても具体的な話ができるのは調査が進んでからなのだろう?」

「今はまだ不確定な部分が多いので、確かにそうですね。仕事の内容も変化するかもしれませんし、副長が出張から帰ってから改めて話をさせてください。それと・・・」

「ん?まだなんかあるのか?」


お金を使うにあたって許可を得ておかなければならない。

私は視線をギルド長からラミアノさんに移した。

ラミアノさんは待っていたかのように上機嫌でこちらに向く。


「ラミアノさん。人を雇うのにお金を使いたいんですけどいいですか?」

「いいよ!エルナの好きにしなっ」


即答だった。

そしてその言い回しが父さんにそっくりだったため、私は瞬間どきっとする。

私が父さんにやりたい事を伝えたとき、父さんはよく「エルナの好きにしなさい」と言ってくれたことを思い出した。

少しずつ胸の奥がじわっとしてくる・・・。


「ん?エルナ、どうかしたかい」

「あ、ラミアノさん。んーん、なんでもないです」


手をぱたぱたと振って誤魔化す。

そんな私をラミアノさんは優しい目で見るのだった。


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