休日出勤3
「ギルド長。豆、出てきましたよ」
「埃まみれだな・・・。エルナ」
「はーい。ちり取りに入れちゃいます」
副長が指示を出し、ギルド長が木箱を移動させていき、私が箒で履く。
食後のお掃除延長戦にて、ようやく行方不明だった豆を発見。身柄を確保した。
「よし。後は元の位置に戻して終わりだな」
そう言ってギルド長は移動させたときの逆の手順で木箱を戻していたが、ふと動きが止まる。それを見て副長が声を掛けた。
「ギルド長。どうしたんですか?」
「副長。これ魔道具だよな」
「え?そんなところにまだありましたか?」
ギルド長が木箱の中身を見ているところに、さらに副長が覗き込むような状況になっている。
どうやら想定外のところから魔道具が出てきたようだ。
力仕事しているギルド長の邪魔にならないよう距離を取っていたが、出てきた魔道具とやらが気になって、私は二人の側に近寄り横から覗き込んだ。
ぱっと見、詰め合わせクッキーの箱みたい。それが二つ。
ギルド長が右手と左手にそれぞれ持ってるので、片手で掴めるくらいの重さだとわかる。
でも表面に描かれているのは魔法陣だ。しかも私の知っている唯一の魔法陣そっくりである。思わず呟く。
「これ・・・もしかして転送魔法陣じゃないですか」
「なにっ・・・!」
ギルド長は驚きの表情で私を見た後、両の手に持った魔道具の魔法陣に視線を落とす。
「他の魔法陣を見た事ないので確信はないですけど、この紋様は仕事場の転送魔法陣と同じだと思いますよ」
記憶力には自信がある。そしてここ十日間くらい毎日見てきた紋様でもある。結構細かい部分まで一致しているはずだ。
気になる点といえば、ギルド長が持っている二つの魔道具は、形状も魔法陣の紋様も見分けがつかないくらいに一致していることだ。仮に転送魔法陣だとしたら、どっちが入力側でどっちが出力側なのか現時点ではさっぱりだ。
「ふーむ、転送魔法陣と同じ、か・・・。ん?副長、どうした?」
「・・・・・・」
ふと副長を見れば、顎に手を当てて何やら考え事をしている。
ギルド長が声を掛けてもしばらくその姿勢でいたが、突如副長はハッとした表情をして顔を上げた。
「それ・・・見覚えがありましたよ。このギルドに転送魔法陣を導入するにあたって事前説明会が開かれたんですが・・・。たぶん、その説明会で使われた転送魔法陣の試作品ですよ。ここにあった理由はわかりませんが、説明会で使ったきり持て余して仕舞っておいたんじゃないですかね」
なんと!?じゃあプレゼンテーション用のサンプルってこと!?
何それ、面白そう!動くのかなぁ?
・・・さ、触ってみたいっ。うずうず。
「すげぇ興味津々だな、オイ・・・」
「はっ・・・いえいえ、そんなことは」
魔道具を持ったギルド長が引き攣った顔になっていた。
知らぬ間に獲物を狙うような格好で両手をワキワキとしていたよ。
でもしょうがないじゃん。魔法陣カッコいいんだもん。
私は誤魔化すように咳払いを一つ。
「・・・こほん。ギルド長。ここではなんですから、仕事場の方で動作確認してみませんか。もし魔力充填に使えるようなら、仕事の効率が上がるかもしれないじゃないですか」
「まぁ・・・そうだな。どうだ、副長?」
「ええ、私も興味ありますし、片付けは一旦中断して移動しましょう。エルナ、掃除道具はひとまず端に寄せておきなさい。出るときに鍵も掛けるように」
かくして私の意見は承認され、転送魔法陣の試作品と称された箱の魔道具は仕事場に持ち込まれることになった。
仕事場にある大きな作業机の上に二つの箱が置かれ、各属性の魔石が用意されたところで動作確認開始となった。
普段私がやっている仕事では、入力側の転送室にあるのは無属性素材だ。植物だったり鉱物だったり獣の部位だったりするのだが、当然ながら魔石自身も魔力素材になり得る。
今回はただの動作確認だ。仕事場にある魔石を魔力素材として使えばいいだろう。
「箱がまったく同じ形状なので、こちらを一号、そちらを二号と呼称しますね。まずは一号に無属性の魔石を置きます」
どちらが入力側かわからないので、試して判断するしかない。
私から見て手前側にある箱、すなわち一号の上に魔石を乗せた。
「わぉ!」
するとすぐに魔法陣が白く光り輝いた。
しかも、一号二号の両方の魔法陣が、ほぼ同時に光り輝いたのだ。
「ちゃんと動くな・・・大したものだ」
「そうですね。十年は使われていなかったはずですが、壊れてないようですな」
ギルド長と副長も感心している。
私なんか感動で胸がドキドキしているよ。
いや、これ、凄い、凄いよ。
まず、魔力を与えてすぐに動作していることが凄い。
十年も使われていなかった道具が、第三者の『魔石を乗せる』という一動作によって即座に起動してるんだよ?
道具というのは用途にもよるが、繰り返し使うことを前提とするものがほとんどだ。
従って使うたびに発生する起動時間というのは道具のクリティカルなテーマの一つであり、起動時間を短くするために余分な機能を削ったり構造を単純化したりと様々な工夫が加えられていく。結果、道具として洗練されていくものだ。
だから私は直感的に思った。
この魔道具は洗練されている、と。
まぁ試作品ゆえに機能、構造がシンプルなのかもしれないけどね。
次に凄いと思ったこと。一号が入力側で二号が出力側だと思うが、一号が光ってから二号が光るのがほぼ同時だった。つまりタイムラグがほとんど無かったのだ。
転送魔法陣って、本当にどうなってんの!?
しばし感動の海に浸っていたが、だいぶ落ち着いてきたところで次の段階を提案してみる。
「空の魔石に充填してみましょうか?」
ギルド長と副長もハッと我に返り、私の方を見る。
「そうだな。やってみてくれ」
ギルド長に促され、空の魔石を二号の魔法陣に乗せる。二号が本当に出力側であるならば、これで二号に魔力を通せば充填できるんじゃなかろうか。
えーと、箱の側面でいいのかな?
そう思って側面に手を当てて魔力を通そうとしてみるが、何も起こらない。
箱を90度ずつ回転させて別の側面から魔力を通そうとするが、全ての側面から試しても二号に魔力は通らなかった。
ギルド長に箱を持ち上げてもらって、裏面からやってみたがやはり結果は同じ。箱に魔力が通らない。仕事場にある転送魔法陣の台座とは異なる仕様なのだろうか。
「一体どうやって充填するんだろう・・・」
「やはりそうですか・・・」
私が呟いたとき、副長も同時に呟いていた。
私は思わず副長を見る。
ギルド長は訝しげに意味を尋ねた。
「副長。やはり、とは?」
「ようやく当時の事前説明会のこと、思い出してきたんですよ。この魔道具は、魔力の転送を見せるためのもので、魔力を充填する機能は備わっていないんだと思います。そもそも魔力弁が付いていなくて、箱の中に魔力を蓄えることができなかったはずです」
な、なんですとーっ!
そりゃあ余分な機能を削って洗練されているのでは、とか思ったりしたよ?
でも充填する機能までもが削られているなんて・・・。
「当時、私も事前説明会に参加しましてね。この魔道具を議論の叩き台にして、魔道具のサイズをどうするのか、どの場所に設置するのか、を決めていったんですよ」
「なるほどな。導入前は王都の冒険者ギルドにしか転送魔法陣はなかった。俺もギルド長としてここに勤めるまでは、転送魔法陣と言われても全然わからなかったからな。起動しているところを、ましてや実物すらも見た事ない者にとっては、その箱はだいぶわかりやすい」
確かに魔力の転送って、実際に見ないと何のことかわかんないよね。
でも、そっかー。この箱の魔道具じゃ魔石に充填できないのか。残念。何か他の機能とかないのかなぁ。
ギルド長と副長の会話を横で聞いてテンションが落ち着いてきた私は、軽い気持ちで聞いてみる。
「ギルド長、副長。この箱の魔道具、しばらくこの仕事場に置いておいていいですか?お仕事に使えるかもしれないし時間あるときに触ってみたいです」
「ん・・・まぁいいだろう。だが今日はまだ不許可だ。明日ラミアノに説明した上で、なおかつギルドの仕事の役に立つ見込みがありそうならお前さんの好きに使って構わない。副長もそれでいいだろう?」
え?好きに使っていいの?
目を丸くする私にギルド長と副長が頷く。
「わかりました。ありがとうございます!」
「ではここらで解散しておくか」
ひゃっほーい!
明日ラミアノさんに待機室のことも含めてお話しようっと。
・・・ん?待機室といえば・・・。
「思い出しました。待機室、木箱を戻す途中でしたよね」
「・・・・・・」「はぁ・・・そうでしたね」
ギルド長は苦い顔して無言でこっちを見てくる。そんな顔されても困るんですけど!?
そんなギルド長を、やれやれといった表情で副長が窘める。
「さ、大人なんですから子供の前くらいはカッコいい姿を見せてくださいね」
副長の言葉でギルド長は今度は何とも言えない顔になるのであった。




