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77番目の使徒  作者: ふわむ
第二章
37/123

属性の付与4


私の使える属性を確認した結果、ラミアノさんは頭を抱えることになった。


『火』と『水』は普通の出力だったらしいのだが、この時点でラミアノさんの表情は結構怪しかった。

その後の『風』と『土』は光属性に匹敵するくらいの出力であった。

全ての属性を使うことができて嬉しいな、と思っていたのだが、どうやらラミアノさんの想定を超えてしまったらしい。


「一番得意なのが『光』で、次が『風』と『土』。その三つの出力が飛び抜けて優秀。その三つに劣るとはいえ『火』と『水』も普通に使える・・・か。もう、なんか凄いねエルナ」

「あはは・・・」


そう言われて私は苦笑いするしかない。

光魔法以外、私が特別に何かをしたことなどないのだ。


魔法士は必然的に光が使える。なぜなら光魔法を練習して魔法士となるからだ。光魔法以外の『火』『水』『風』『土』の四属性は、魔術師になってから使えるかどうかがわかる。

ラミアノさんは『光』の他には『火』だけ使えるという。でも二つの属性を使えたら魔法士としては十分優秀なのだそうだ。


しばらく頭を抱えていたラミアノさんだったがその手を降ろし、真剣な面持ちで私を見る。

私も呼吸を合わせて姿勢を正した。


「エルナ。あんたは冒険者ギルドに勤めている間は身の安全が保障されている。でも裏を返せば、ギルドの外では動き方を相当気を付けなければならない。そんで、これは冒険者だったあたしの経験を踏まえた話でもあるんだが、あんたは自分の身を守る術を持つ必要がある。特に対人戦において、だ」


言いたいことはわかる。

今は八歳だからどうやっても大人に守ってもらわなければならないが、仮に成人する十五歳になってもギルドの外に出れません、という未来は私も望んではいない。


「昨日、今日と見てきたけれど、あんたはとびきり優秀だよ。魔法の才能もさることながら、物事を理解する力が大人顔負けだ」


この世界で私が出会った大人の中で、おそらくラミアノさんは一番と言っていいくらいハイスペックな人だ。加えて肩書も凄い。四等冒険者であり、魔法士であり、子爵夫人である。

そんなラミアノさんが私を高く評したのは、もちろん私を称えるためではなく忠告するためだ。


「あたしはね、あんたが将来的に貴族に関わる可能性が高いと思っている。仮に貴族から庇護を受ける立場になれば、自分に護衛をつけて解決だ。そうならないかもしれないし、そうなりたくないと思うかもしれないが、貴族とどう関わるか、いずれどこかで決めなきゃならない時が来るだろうよ。そん時に、自分の身は自分で守る、ってのができなきゃ選択の余地すらない。早々に一本道の人生になっちまうね。だから自衛の手段は持つべきだ」

「それは、例えば剣とか弓が使えるように、ということですか?」

「そうだね。そして魔法だ」


はー。そうきたか。

ということはあるんだろうなぁ、そういう魔法。


「ラミアノさん。対人用の魔法って、どこで学ぶんでしょうか」

「話が早いね。初級ならギルドでも学べるよ。まぁ有料だけどねー。あたしが教えてもいいけど、あたしゃ実戦で魔法使ったことないんだよね・・・。剣を教えるのと違って魔法ならタダで教えてもいいくらいなんだけど」

「いえ、それは駄目です。対価はお支払いします」


即答した。教えてもらうのに対価は必要だ。

それにしてもラミアノさん。この言い方だとおそらく対人実戦経験があるんだろうなぁ。実戦で魔法を使ったことがないというのは、魔法を使えるようになる前の出来事だったのか、あるいは剣などで対処して魔法を使う必要がなかった、といったところだろうか。


私の返答を聞いたラミアノさんは自嘲気味に笑う。


「まぁそうだよね。じゃあまずはエルナにお金を稼いでもらいますか。色々学べるように仕事やるよー」

「はい、お願いします!」


話がぐるっと回って、仕事の話に戻ってきた。

そうだ。私は魔法を学びたいからここに来たのだ。

そのためにお仕事してお金を稼がなきゃ!


「それじゃ『火』の仕事をやっちまおう。注文棚の赤の色札の数を教えてくれるかい」

「はーい」


『火』の仕事、つまり火属性の魔力を魔石に充填する仕事のことだ。

私は返事をすると同時に注文棚に向かう。機敏に動ける子供の身軽さって、やっぱりいいよね。こんなふとしたタイミングで気付くんだけどね。

注文棚の黄の色札の網袋が収めてあった列は空っぽになったが、その一段上の列に赤の色札の網袋が並んでいる。

踏み台に乗って数を数えるとしよう。よっこいせっと。


「赤の色札、七つです」

「三つ、二つ、二つ、の三回作業で行こうか。量が少なそうな方から三つ持ってきてー」

「わかりましたー」


転送魔法陣に赤の色札が付いた網袋が三つ乗った。

既に魔法陣の光は白になっている。準備完了だ。


「最初はあたしがやるよー。エルナは転送魔法陣の光の色、これが赤になるその色を覚えてもらうよ。それと、やる前に一応言っておくと、属性が溶け込むまでの時間は光魔法と同じくらい掛かるからね」

「はい!」


ラミアノさんは光属性の時は通しで三分くらい掛けていた。つまり、今回もそれくらい掛かるというわけだ。

ラミアノさんは台座の前に立ち、右手を台座の側面に構えて詠唱する。


《火よ、魔に、溶けよ》


魔法陣の光はおよそ十五秒くらいでほんのり赤みがかってきた。そのまま徐々に色が濃くなり鮮やかな赤となる。ここまで一分半くらいだ。

ラミアノさんは私に対してこくりと頷き、この色だと教える。

私が了解と頷き返したのを見て、ラミアノさんは台座に触れて魔力を通す。

転送魔法陣から魔力が魔石に注ぎ込まれ、やがて魔力が止まり、ラミアノさんが台座から手を離す。

これで三分くらいになる。


今回はじっくり観察できたので、振り返って自分の光魔法がおかしかったことを再認識した。今のが普通なのだとすれば、一瞬で完了してしまう私の光魔法は確かに異常だ。ラミアノさんが驚いたのも当然だと思う。


「お疲れ様です、ラミアノさん」


ラミアノさんの額には、光魔法の時と同じ様に汗が滲んでいる。

ハンカチで汗を拭きながらラミアノさんは私に指示を出す。


「うん。それじゃこれ運んで、次の持ってきてねー」

「はい!」


完了した網袋を納品棚に運び、注文棚から新しい網袋を持ってくる。

何度か繰り返してきたので、流石に慣れてきた。

でもね、私知ってるよ。慣れてきた頃が一番ミスしやすいんだよ。

色札を指差し確認。赤よーーし。扱いは丁寧にっと。


「準備できました」


ラミアノさんは水を飲んで一息ついていたが、立ち上がって作業前の確認する。


「問題なさそうだね。それじゃエルナに『火』の仕事をやってもらうよー」

「わかりました!」


私はビシッと返事をする。


「ふふ。エルナは元気でいい子だねぇ」

「あははっ。いい子はともかくとして、自分でもわかるんですけど、魔法が使えるって思うだけでわくわくしちゃって。今とても楽しいんです」


魔法を覚えて以来、目立たぬようここ半年間は家の中で光魔法だけを練習してきた。

今日初めて違う属性の魔法を教えてもらったのだ。テンションが上がらないわけがない。

しかもこれは仕事だ。私の魔法が誰かの役に立つということ、そして成果に対して評価を得られることが嬉しくて仕方ない。


「では、やりますね!」


台座の正面に立ち、詠唱する。


《火よ、魔に、溶けよ》


・・・こうしてラミアノさんが見守る中、火属性の魔力を魔石に充填した。

光属性のときのように派手な成果ではなかったが、特に失敗することもなく、二回繰り返して作業を終えた。


冒険者ギルドに勤めて二日目。

この日の仕事は午前中のうちに片付いてしまった。


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