属性の付与3
私がなぜ魔女様と聞いてこんなにも衝撃を受けたのか。
魔族。不老不死あるいはそれに近しい存在。
ゆえに、得ている知識や技術はヒト族の及ぶところではないことが容易に想像できる。
そんな魔族のうち、ヒト族と係わりのある一部の魔族には呼び名が付いているという。
それが魔女様。私が聞いたのは『始まりの魔女』様、『放浪の魔女』様だ。
ランダルフ先生からそう教わって以来、知らず知らずのうちに私は魔女様に対して敬意を持つようになっていった。同時に、絶対に逆らってはいけないものとして心に深く刻まれていったのだ。
この感情を表現するなら、まさしく『畏怖』であった。
「・・・この転送魔法陣の魔道具、魔女様が設計されたんですか」
「そう聞いているよー。組み立てたり設置したりしたのはオルカーテの職人達だったらしいけど、魔法陣に関わるものは基本的に魔女様が作るって話さね。この辺のことは、たぶん副長が一番詳しいんじゃないかなー」
「副長・・・確かストワーレさんでしたっけ。二日前オルカーテに着いて初めてギルドに挨拶に来た時、ギルド長と一緒にお会いしました」
「そう、ストワーレさん。あの人、凄い優秀なんだよー」
副長はしゅっとした体格で、第一印象から頭の良さそうな雰囲気を纏っていたけどギルド長のように強そうには見えなかった。
ただ、そうは言っても冒険者ギルドの副長だ。見た目とは違って実は物凄く強いかもしれないよね。
魔道具や魔女様の話、機会があったら聞いてみたいな。
それにしても、この魔道具・・・。
初めて見たときに違和感を感じたんだけど、その違和感の正体が少しわかった気がする。
この世界において、技術力というか、文明レベルというか、そういうものが一線を画している。そう、これは『オーバーテクノロジー』と言うべきものだ。
でも、設計者が魔女様と聞いてなんだか納得できた。
納得できたんだけど、違和感は完全に解消されていないなぁ。まだ何かモヤモヤと残っているんだよ・・・。なんだろうね。
まぁ、残ったモヤモヤもきっとその内わかるだろう。
話が一段落してラミアノさんはコップの水に口を付け、私も水筒の水を飲む。
ふー。気持ちもすっかり落ち着いた。
「さてと・・・。長々と説明したけど、仕事に関しては何の問題もないさ。エルナ、魔法を使って気分が悪くなってたり疲れが残っていたりするかい?」
「いえ、なんか一瞬のことだったんで、まだ何もやってないくらいの感覚です」
「なら良し!教えた通りに続けてみな」
「はい!」
初めはどうなることかと思ったけど、何の問題もないなら良し、だ。
私は隣の机に一旦置かれた網袋を持って納品棚に収めた。そして注文棚から黄の色札が付いた網袋を確認する。残りは三つだがこの量なら全部一度に充填できそうだ。転送魔方陣に一度で乗せる必要はないので、注文棚を二往復して転送魔方陣に三つの網袋を乗せた。
そんな風に仕事場をちょこまかと動き回る私を微笑ましく思ったのか、ラミアノさんは腕を組んでにこにこしながら見守ってくれている。
「準備できました。魔法使います」
ラミアノさんが頷くのを確認して、私は台座の側面に右手を近づける。
今、転送魔方陣の光は白だ。
《光よ、魔に、溶けよ》
転送魔方陣の光が一瞬にして黄色になる。
余裕がなかった一回目と異なり、今度は自分でもしっかり変化を見た。
よし、色の濃さに問題はない。このまま魔力を通す。
台座の側面に右手を当てると、魔力が吹き上がり魔石へ吸い込まれる。そしてやはり一瞬で流れが止まる。
私はゆっくり右手を離した。
「ふー。終わりました」
ラミアノさんは少しだけ反応が遅れたが、はっとしてから笑顔を向けてくれた。
「うんうん、上出来。本当に凄いねぇ」
褒められて、私も思わず笑顔になる。
「じゃ、これ納品棚に収めてきますね。ラミアノさん、次は予定通り火属性やりますか?」
「そうだねー。火属性をやる前に、エルナが火、水、風、土のどの属性が得意なのか一通り確認しよっかー。あんたの『光』の仕事を見ちゃったら、事前に確認しとく方が気が楽だし。ちょっと待っててねー」
そういうと、ラミアノさんは部屋の戸棚から小さな箱を取り出して持ってきた。
「なんですか、それ?」
「放出の魔道具だよ」
そう言って箱の蓋をパカっと開けて私に見せた。中には野球のボールくらいの魔石が一個だけ入っている。
放出の魔道具。
意図的に魔石の魔力を空っぽにしたいときに使う魔道具で、例えば魔石に充填する属性を間違えてやり直しをしたいときに使うらしい。
「魔道具なんて魔力の属性が合ってなくても一応動くものさ。効率が大きく落ちるけどねー。実際この仕事では、充填する属性を間違えた場合でも客に事情を説明だけしてやり直しはしない方が多いよ。だからこの魔道具、それほど出番無いんだ。でもそんな放出の魔道具だけど、この仕事場では別の用途で使うことがあるのさ」
そこまで説明するとラミアノさんは箱の蓋を閉じ、転送魔法陣の台座の前に立った。
あ、もしかして・・・。
「台座の魔力を放出するため、ですか」
「本当にエルナは鋭いねぇ。その通りさ」
ラミアノさんはにっこりと笑って、放出の魔道具を転送魔法陣に乗せた。
「さ、エルナ。火属性から試してみよう。乗っている放出の魔道具は魔石が入った網袋の代わりだと思えばいいよ」
「はい!」
既に魔法陣の光は白になっている。
ラミアノさんに指示に従って、私は台座の側面に手をかざし詠唱した。
《火よ、魔に、溶けよ》
十秒ほど待つと、白い光は徐々に赤くなっていく。
「うん、もういいよー」
私は魔力を遮断する。
「火属性も使えるね。光属性が凄すぎてびっくりしたけど、こっちは私と同じくらいじゃないかな。それじゃ台座に魔力を通して中の魔力を抜いてくれるかなー」
「わかりました」
ラミアノさんの言葉に心の中でガッツポーズする。
良し!私には火属性の素養があったようだ。
台座の側面に手を触れて魔力を通す。
魔法陣から吹き上がった魔力がたちまち放出の魔道具に吸い込まれた。
やがて魔法陣からの魔力の流れが止まる。台座の中の魔力が抜けたのだろう。
私が台座の側面から手を離すのとほぼ同時に魔法陣の光が消えた。
「魔法陣の光が消えたということは、魔力がないってことですか」
「うん。しばらく待てば魔力弁が開いて台座に魔力が供給されてくるから、また白く光るはずだよー」
「魔力を使い捨てるのはちょっともったいないですね」
「必要経費さ。ちなみに今使い捨てた魔力で銀貨三枚分くらいかね」
「ひええっ!」
もったいなや、もったいなや。
私はつい手を合わせて拝んでしまい、ラミアノさんに妙な目で見られてしまう。
・・・あれ?それじゃ、一回作業すると銀貨三枚分くらいの利益が上がっているってことなんだろうか。聞くのが怖いなぁ。
そう思っていたら魔法陣が白く光り出した。魔力を抜いてから大体一分くらい経っていたかな。
うん、利益のことは一旦置いておこう。頭からぽいっとな。
「さあ、次は水属性を試そうか」
「はい!」
・・・そんな感じで水属性、風属性、土属性と順番に試してみたのだが。
ラミアノさんは徐々に怪訝な顔付きになり、全部試し終えたところでとうとう頭を抱えた。
「はぁ・・・。まさか全部の属性を使えるとはねぇ。あたしゃこんなの聞いたことないよ」




