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77番目の使徒  作者: ふわむ
第一章
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二組の冒険者パーティー


中庭にいた先生と私が屋敷に戻ると、控えていた使用人さんがそのままガルナガンテさんの部屋まで案内してくれた。

どうやらすぐに会えるらしい。

部屋に入るとガルナガンテさん一人だった。父さんはどこに行ったんだろう。


「ランダルフ殿、エルナ。指導は終わったようだね」

「ああ、村長。ちゃんと教えてきたぜ。な?」

「はい。先生にたくさんご指導頂きました」

「ふむ、そうか」


ガルナガンテさんは満足そうに頷き、先生を見た。


「では後日、オルカーテの冒険者ギルドに達成後報告依頼を出しておくので、報酬はそこで受け取ってくれ」

「ああ。それじゃ失礼するぜ、村長」


そう言うと、先生は私の方を向いた。


「エルナ、またな」

「はい、先生」


先生は私の横を通り、部屋から出て行った。

第一印象でぶっきら棒なおじさんかと思ったけど、そんなことはなかったよ。優しくて情がある気さくな人だった。指導を受けている内にだいぶ打ち解けたと思う。


「エルナ。ドナンはこちらで用意した部屋に通している。今日の宿泊部屋だ」

「そうでしたか」


父さんは泊めてもらう部屋に案内されていたのか。


「そういえば、ガルナガンテ村長」

「ん、何かね」

「輸送部隊とランダルフ先生のパーティーは明日到着と聞いていたのですが」

「ああ、ランダルフ殿は先触れの使者殿に同行してきたのだ」


先触れの使者とは、『明日ここに輸送部隊が到着しますよ』ということを前もって知らせる人のことだそうだ。


「詳しい事情は聞いていないが、彼はここに着いたら、そのまま宿へ行く予定だったのだ。ちょうどエルナが来ていたから、宿に行く前に会ってやってくれ、と頼んだのだよ」


どうやら偶然一日早く到着したところを、ガルナガンテさんが融通を利かせて引き合わせてくれたようだ。

私、色んな人に良くして頂いているなぁ。


「ありがとうございます、ガルナガンテ村長」

「気にしなくてよい。では宿泊部屋へ案内させよう」


私はガルナガンテさんの部屋を出て、使用人さんに付いていく。広い屋敷なのに階段や廊下はいつ来ても綺麗に掃除されている。

この屋敷は三階建てだが、二階の部屋を貸して頂けるようだ。


父さんと案内された部屋で合流し、夕食を取るため村の食事処に向かう。

この村はうちの村より人が多く賑やかだ。村のあちこちでかがり火が焚かれ、蝋燭なしでも歩けるのは嬉しい。

目に留まった食事処で夕食を取りながら、私は父さんに魔法のことを話す。


「父さん。今日から私、魔法の練習をすることにしたの。これから帰って寝る前に、少しだけ練習していい?」

「ああ、いいよ。だけど少しだけにしておきなさい」


確かに、ガルナガンテさんの屋敷で夜に大きな声を出す訳にはいかない。


「うん。教わったことの確認程度にしとくよ」

「・・・エルナ」

「ん?」

「魔法、使えるようになるといいな」

「そうだね。こればかりはやってみないと分からないけど、使えたら嬉しいな」

「そういえば・・・」


ふと、父さんは思い出したように言う。


「ここに来た用事は済んだんだよな」

「あ」


確かにそうだ。

予定では、明日もこの村に泊まるつもりで来たけど、どうしよう。


「用事が済んだ以上、素直に帰るのがいいだろう。明日の朝、ガルナガンテ村長に挨拶しよう。それで朝食と買い物をしたら家に帰ろう」

「うん、わかった」


ガルナガンテさんの屋敷に戻った私は、部屋に入るとさっそく今日のことを思い出しながら復習をしていたが、程無く使用人さんが来て、温いお湯の入った桶を運んできてくれた。

お湯を使って身体を拭ける!

今日は暑かったからなぁ。

先に私が上半身裸になってさっさと済ませ、父さんにバトンタッチする。


父さんの背中をごしごししてあげよう、と思った矢先。

あ、ダメだ。眠気が・・・。


「ごめん、父さん、眠くなってきた」

「ああ、いいよ。おやすみ」

「・・・うん」


七歳のこの身体は食後の眠気が特に強い。私は毛布を掴んで木のベッドに横になる。

まだこの世界で、お湯のお風呂に入ったことないんだよなぁ。いつも水浴びか、水で湿らせた布で身体を拭くか、だったからなぁ。

疲れていたこともあるけど、お湯を使って身体を拭いたら気持ち良くて一気に眠気が襲ってきたよ。たまには家でもお湯使いたいな・・・。

そんなことを考えながら私は眠りについた。


翌朝、私と父さんは、ガルナガンテさんにうちの村に戻ることを伝え、礼を言って屋敷を出た。

夏の陽射しが朝から眩しい。今日も暑くなりそうだ。

朝食後、父さんは買い物をすると言っていつもの雑貨屋へ向かい、私は先にこの村の門の前で待っていることにした。


門に向かうと、軽装備の男が四人いて話し声がこっちまで聞こえる。

若い男三人と、おじさん・・・あれ?あのおじさん、ランダルフ先生だ。

ちょっとご挨拶しにいこっと。

そう思って私はすぐ横まで近づいていった。


「だからよぉ、おっさんは何の役にも立ってなかったろ!なんで取り分が一緒なんだよ」

「いや、キーガル。だからさ、仕事請けるときに言ったじゃねぇか。道中の獲物は頭割りだって」

「でもよぉ、ダルセン、おっさんは何もしてねぇぜ?全部俺らの戦果だったじゃねぇか」


んんー?揉めてるっぽい?他の三人も先生と同じ冒険者かなぁ?

お仕事中だとすると、声を掛けるの遠慮した方がいいかな。


「あ」


・・・そう思って離れようとしたら、先生と目が合ってしまった。

こうなると、何も挨拶しないのもそれはそれで気まずい。

よし、挨拶しよう。


「先生、おはようございます」

「おう、エルナか」


先生も少し渋い顔をしている。

とその時、先生の隣の冒険者が寄ってきて、私に向かって低い声を飛ばした。


「ん、なんだこのガキ」


ひぇっ!

私は笑顔を引き攣らせつつ、私を見下ろしてる冒険者に向く。

直感的に乱暴そうな人だ。怖い。


「あの、私、ランダルフ先生の生徒でエルナといいます。お仕事中に声掛けてしまってごめんなさい」

「おい、キーガル。俺の生徒だ。絡むのはよせ」

「ああ?おっさんの生徒だぁ?役立たずのおっさんに何を教わるってんだよ!」


ひぃぃ!だから怖いんだってば!凄まないでよー!


「よせって言ってんだろ!・・・わかった。さっきの件な、昨日の獲物は全部そっちの取り分でいいよ」

「お、なんだ、ようやくかよ。ったく、最初っからそう言えばいいんだよ」

「だがなキーガル、国境砦に行くまではちゃんと一緒に仕事してもらうぞ」

「ああ、いいぜ。そっちもちゃんと役に立てよ。ロキッド、行くぞ」


先生からキーガルと呼ばれた乱暴そうな冒険者は、ロキッドという男を伴って村の中に入っていった。

門の前に残っているのは、先生と私と、もう一人若い冒険者っぽい人だ。


はぁ・・・あの乱暴そうな人、先生のことを役立たず、って・・・。どれだけ凄い冒険者か知らないけど、こんな場所で人を悪し様に言うなんて。酷いよ!

・・・などと口に出して言えないので、心の内に留める。


「あ、あの・・・お仕事中にごめんなさい」


私は先生と若い冒険者さんに向かって頭を下げる。


「いや、うちらの連れが悪かったな。それにみっともないところ見られちまった」

「エルナ、だっけ?悪ぃな、怖い思いさせちまった」

「い、いえ・・・」


先生と冒険者さんに気遣われてしまった。


「エルナ、こいつはダルセン。俺の連れで、『翠青の風』っていうパーティーを組んでいる。というか今はコンビだがな」

「六等冒険者ダルセンだ。ランダルフさんと共に冒険者をやっている。エルナ、よろしくな」


ああ、なるほど。『翠青の風』ってパーティー名だったんだ。

門の前だし、会釈だけにしておこうかと思ったが、礼儀は大事だ。

私は立礼した。


「エルナです。先生にお世話になってます。ダルセンさん、よろしくお願いします」

「おっと、エルナ。楽にしときな」


挨拶したのはダルセンさんに対してだったが、すぐに横から先生の声が掛かり、私は姿勢を戻す。


「おや?エルナは良いとこのお嬢さんだったかい?」

「いえ、第七ホラス村の村人です。父さんは狩人です」

「ふーん」


もちろん、父さんの仕事を卑下しているわけではない。

良いとこのお嬢さん、つまり裕福な商家や貴族の生まれか、と聞かれたのでそれを否定しただけだ。

わたしはそのままダルセンさんに尋ねる。


「さっきの、村に入っていったお二人は?」

「俺たちと一緒に仕事を請け負った冒険者でキーガル、ロキッドだ。『餓狼の牙』っていう二人組のパーティーさ」


私に絡んできたキーガルさんは違うパーティーの人だったのか。

ダルセンさんの話を受けて先生も続ける。


「ちょいと一緒に仕事したら揉めちまってな。まぁ冒険者ならよくある事だ」

「そうでしたか」

「エルナは・・・その格好だと第七ホラス村に帰るところ、か」

「はい、ここで父さんと待ち合わせです・・・あ」


ちょうど村の方から買い物が終わったであろう父さんがこちらへ歩いてきた。

私は父さんに軽く手を振る。


「父さんが来ました」


門の前で私がダルセンさんに父さんを紹介し終わると、先生とダルセンさんは村の方へ去っていった。

冒険者パーティー、か・・・。

私は去っていく先生の背中を見送って、姿が見えなくなったところで父さんに向く。


「待たせたな。それじゃ、うちの村に帰ろう」

「うん」


予定より一日早く帰ることになる。

たぶんリンは寂しがっているだろう。今日帰ったら驚くに違いない。

家で待つ母さんやリンを思い浮かべながら、父さんと第四ホラス村の門を通り抜けた。


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