表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
みずがめ市場の白黒ねこ  作者: リッチー
9/9

8.みずがめ市場の春

8.みずがめ市場の春



 ホーリー郡に春がやってきました。

 ビリーには待ちに待った春の訪れです。小屋の前の小さな池に住む3匹のマスの姉妹たちも元気になってきました。

 ビリーは早速毛針をたくさん作るとマスの姉妹に食べたい針を探して貰い、みずがめ市場へ向かいます。

 「やあ、ビリー。暖かくなってきたね。」

 金物屋のトマソンさんは店の奥からパイプをくわえて言いました。

 ビリーはトマソンさんの店先に毛針屋さんを開きます。

 「うん。そろそろマス釣りもいい時期になってきたから、たくさん毛針を作ってきたよ。」

 「そうかい、しっかりがんばりなよ。」

 ビリーは軒先に絨毯を広げると右側に毛針の入った箱を、左にアクセサリーの入った箱を置いて真ん中に座りました。

 冬の間に色々なアクセサリーを作りシンプソンおばさんに預けて売って貰っていたのが、たくさんのお客さんが着いたので、毛針と一緒に春からも売り続けることにしたのです。

 早速お隣のシンプソンおばさんがやってきました。

 「おはようビリー。」

 胸にはビリーが作った水色に光る石が着いたネックレスをしています。白いふわふわの毛によく似合っていました。

 「おはようございます。シンプソンさん。はいこれ。」

 ビリーは赤いリュックサックから一つひとつ箱に入れたネックレスを3つ取り出すとシンプソンおばさんに渡しました。

 今ではシンプソンおばさんを通じてビリーのアクセサリーを買ってくれるお客さんがたくさんに増えていました。値段はシンプソンおばさんが決めて売ってくれました。

 シンプソンおばさんは、ビリーが少しびっくりするくらいの高い値段でアクセサリーを売ってくれました。その代わりお客さんの注文にあわせたものを特別に作るように約束をしました。

 ビリーのお店ではもっと安いものを売っていましたが、若い女の子は安いものでも十分喜んで買っていきました。その理由は・・・。

 「おはようビリー。」   

 エルザです。

 エルザの胸にはシンプルで品のいいネックレスが揺れています。

 「おはようございます。シンプソンさん。」

 「おはようエルザ。今日も似合ってるねぇ。そのピンクの石はエルザにぴったりだよ。」

 シンプソンおばさんは目を細めてエルザを見ました。

 エルザ・ローザ・アンナはみずがめ市場の人気者。特に若い女の子たちのあこがれです。彼女たちが身につけているアクセサリーはあっという間に人気の商品になりました。

 ビリーは別にそんなつもりで彼女たちにプレゼントしたのではないのだけれど。

 と言うことで、この頃は毛針を売って稼ぐお金よりも、アクセサリーの方がたくさん売れて、不思議な気持ちのビリーでしたが、みんなが喜んでくれることが一番と。もう悩んだりはしませんでした。

 「エルザ、仕事は?」

 ビリーは言いました。

 「うん。ちょっとお野菜が足らなくなりそうなので、シンプソンさんのお店に買いに来たの。」

 「なんだ、そうか。」

 そんなやりとりをシンプソンおばさんは言いました。

 「ビリー、たくさん稼ぐんだよ。結婚するのには結構お金がいるからね。」

 「シンプソンさん!」

 ビリーは赤くなって言いましたが、エルザは黙ってうつむいただけでした。



 お昼過ぎになり、ビリーがお昼のサンドイッチを食べているとエルザのお母さんのメアリーさんがやってきました。

 「こんにちは、メアリーさん。今日は何か?」

 「いや、別にアクセサリーを見に来たんじゃないんだよ。エルザのことなんだ。」

 ビリーは食べていたサンドイッチを喉に詰まらせるくらいビックリしました。

 「ビリー大丈夫かい?」

 メアリーさんはビリーの背中を叩いてやりました。

 「だ、大丈夫・・・。」

 「そんなにビックリすることないじゃないか。」

 メアリーさんは笑いながら言いました。

 「突然エルザの名前が出たから・・・。みんなにも冷やかされっぱなしだし。」

 メアリーさんが一息ついてから言いました。

 「それはね、ビリー。あんたが煮え切らない態度を取っているからさ。まぁ、いいさね。ビリーの気持ちもわからない訳じゃないから。ただ一つだけ言っとくよ。うちの娘を泣かしたりするんじゃないよ。」

 そう言って、メアリーさんは帰っていきました。

 ビリーは少し考えてから、今日は早じまいにして家に帰ることにしました。

 「おや、今日は早いね?」

 シンプソンさんが帰り支度のビリーに言いました。

 「ええ、ちょっと用事があって・・・。」

 ビリーが答えると、シンプソンさんはゆっくり頷いて言いました。

 「そうかい。がんばりな。」

 「はい。」

 ビリーは意味もわからず返事をして急いで家へ向かいました。

 家に帰るとビリーは急いで指輪を作り始めました。

 戸棚の中から材料を取り出します。その中に特別な石が入っていました。

 少し前にジェスと釣りに行ったときに見つけた緑色に光る石。

 ビリーはずっとこの特別な石は特別なときに使おうと思っていました。



 一生懸命に指輪を作って気がついたときにはもう夜も更けていました。

 「ああ、そう言えば牛乳もなにも買ってきてないや。」

 ビリーは胸がどきどきして夕飯も、そして翌朝の朝食もたぶん食べられないだろうと思いながらベッドに入りましたがなかなか寝れませんでした。



 そしていつの間にか朝になっていました。

 ビリーはクネクネ川の水で顔を洗い、ひげをピンとなるように整えました。

 そして、今日は仕事道具を持たずにいつもより朝早くにみずがめ市場へ向かいました。



 みずがめ市場へ着くとなぜかいつも店の準備を始めているはずのお店が一軒も店を開けていません。

 ビリーはそんなことにも気がつかないほど、胸のどきどきが大きくなっていました。

 ただ一軒開いているのはスチュワートさんのお肉屋さんです。

 「お、おはようございます。スチュワートさん。」

 店先で仕込みをするでもなく椅子に腰掛けていたスチュワートさんにビリーは挨拶をしました。

 「やあ、ビリーおはよう。どうしたんだい?こんな朝早くから。」

 「あの・・・エルザはいますか?」

 「ああ、いるよ。ちょっと待ってなさい。 エルザ、ビリーが来たよ。」

 スチュワートさんは店の奥に向かって声をかけました。

 少しざわざわと店の奥で騒ぎがあって、押し出されるようにしてエルザが店先に飛び出してきました。

 「お、おはようビリー。ずいぶん早いのね・・・。」

 すこしうつむき加減のエルザは両手をおなかの前でもじもじとあわせていました。

 「エルザ・・・話があるんだけど・・・。」

 「な、なぁに?」

 「これを・・・」

 ビリーは昨日作ったばかりのとびきりきれいな指輪をエルザに見せました。

 「これを?」

 エルザが聞き返します。

 「これを受け取って・・・・僕と結婚してくれないか?」

 ビリーは市場中に聞こえそうな大きな声で言いました。

 「・・・ありがとうビリー・・・よろこんで。」

 エルザの返事が終わった同時に市場中にワッと歓声が上がりました。

 市場のみんなはこのビリーのプロポーズが今朝あるだろうとシンプソンさんから聞いて静かに見守っていたのでした。

 市場中のお店の扉が開いてみんなが飛び出してきました。

 「み、みんな!どうして?」

 ジェスがビリーの隣に来て言いました。

 「何言ってんだいビリー。みんなビリーがいつまでたってもエルザにプロポーズしないんで、やきもきしていたのさ。」

 「そうだよビリー。」

 スチュワートさんがメアリーさんと一緒にビリーの後ろに立っていました。

 「スチュワートさん」

 「ああ、ビリー。うちの娘のことをよろしくたのむよ。」

 「は、はいっ!」

 エルザは他の姉妹に花束をもらってうれし涙で頬を濡らしていました。

 ビリーはそんな姿を見て、さらにエルザが好きになりました。

 「やあ、ビリーおめでとう。」

 「トマソンさん。ありがとう。」

 パイプを持ったアリクイのトマソンさんがにこにこしながらビリーの肩を叩きました。

 「さあ、これから色々大変だぞ。頑張らないとな。」

 「はい。」

 そう答えたものの、ビリーには何が大変なのか見当が付きませんでした。

 

 みずがめ市場に春が来ました。

 ビリーとエルザにも待ちに待った春が来ました。

 暖かい日差しが町中を照らしていました。

 おめでとう。おめでとう。

 あちこちで、お祝いの声が聞こえます。

 「さあパーティーの準備だ!」

 誰かが叫ぶと、ワッと歓声が上がりました。

 市場の広場はそのままビリーとエルザのウェディングパーティーの会場になりました。

 ジェスも既に用意してあったのか、広場の真ん中にテーブルを並べて即席のバーコーナーを設えています。

 「さあ、みんな飲んでくれよ!お代はビリーとエルザへのご祝儀だ!」

 どこからか音楽まで流れ始め、あちこちではダンスをする輪が出来ていたり、もうお祭り騒ぎです。

 ビリーは沢山の人たちからお祝いのお酒を飲まされて真っ赤になって

 「ありがとう」とばかり言っています。

 エルザの周りには沢山の女の子が集まり、お花を手渡していました。



 ホーリー郡のみずがめ市場はいつもの春よりも、ずっと暖かい風が吹き抜けたような気がしました。

    

 「あれ?ここはどこ?」

 ビリーが目を覚ましました。

 「やっと王子様のお目覚めかね?」

 そう言ったのはトマソンさんでした。

 場所はジェスのレストランバーです。

 「ビリーったら沢山お酒を飲まされてすぐに酔っぱらっちゃったんだから」

 隣にはエルザがいました。

 ジェスのお店には広場に出していたテーブルも戻ってきて、いつもと変わらない様子になっていました。

 そして、いつもの人たち。

 茶色い犬のジェス

 ツキノワグマのランディーさん

 オオアリクイのトマソンさん

 キツネのピーター

 うさぎのシンプソンさん

 そして

 隣には奥さんになったエルザがいました。



 「みんな・・・ありがとう。これからも・・・」

 ビリーはそれだけ言うと言葉が出なくなってしまいました。







さて、白黒猫のビリー達のお話はこれでひとまずおしまいです。



ビリーはエルザと仲良く暮らしていくでしょうし

ジェスは釣りを楽しみつつレストランでお酒や美味しい料理を作り続けるでしょう。

ホーリー郡には爽やかな風が吹き抜け、季節折々の顔を見せることでしょう。

ホーリー群の日常におつきあいいただいた皆様にも素敵に毎日が訪れるよう祈りつつ、またの機会にお会出来ることを楽しみにしています。

ひとまず一度完結です。

ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ