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第五遊技場の主  作者: ぺたぴとん
第三章
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閑話~その後、そして一言~


 アグレナス王国王都では未だに喧騒が収まっていなかった。

 先程暴れた『第五遊技場』の主を捕らえることは出来ず、逆に天ヶ上達は醜態をさらしてしまった。伸びている勇者や手も足も出なかったために泣き続ける上級神に周囲の視線が集い、誰もが口々に囁いている。


「まさかこうなるとは思わなんだ。我々と同じ主なら実力は互角、そう思っていたのだが」

「第五はどうやら別みたい、ですね。まぁ、神を相手にしているという仮定から何となく納得してしまいますが」


 女性陣が天ヶ上の傍に寄り添って口々に心配の言葉をかけている。その様子を見ながら岩久良と大ヶ島はどこか疲れた様子で話していた。

 先程の戦闘は明らかに自分達のような主とは思えない強さである。岩久良は情報、大ヶ島は道具とそれぞれ秀でた部分があるが、それを用いて第五の主と正面から対決することは無謀に思えた。

 出来るとしたら力に頼らない、相手を嵌める方法を考えることだろう。けれど捕らえたとしても先程の様子ではすぐに逃げられるのも想像できた。

 加えて今回の失態が今後に影響することも二人は薄っすらと感じている。下手をすれば捕らえようという策さえ、一旦消えてしまいかねない。

 今後どうすればよいのか、どうしてもその想像が出来ない。

 そもそも、最低限『第五遊技場』の主が誰なのか分かりたかった。けれどその情報さえも無い。せっかく退路を断ったにも関わらず、全て第五の主に計画を破綻させられたのだ。

 諦めと共に微かな怒りが大ヶ島の胸中を乱す。

 策に策で負けたのならまだしも、相手は純粋に正面突破をして、そして負けた。慎重にと思っていたが機会が巡ってきたのでとばかりに今回の作戦に参加した彼自身にとって、当初考えていたことと違う方法ではあったのだ。

 それで納得など出来ない。口にも顔にも出さないけれど、確かな怒りが渦巻いている。

 そんな時だった。喧騒で満ちた広場に確かに天ヶ上の呟きが二人の耳朶を打った。


「あ、あいつは……」

「勇気、喋らないで! 今は安静にしていて!」


 意識をどうにかこうにか取り戻した天ヶ上に橘は焦ったようにそう言った。

 あのフードを深くかぶった奴相手に天ヶ上は手も足も出ず、かなりの大怪我を負わせられた。膝蹴りを受けた箇所は腫れ、痛々しくあざが出来ている。

 どれだけ治癒魔法をかけてもどうにか意識を取り戻すところまでしか出来ない。完治には程遠かった。


「由美、あいつは……」

「逃げちゃった……。勇気、お願い、安静にしていて」


 薄っすらと開けた目を橘へと向けながら問う天ヶ上。橘は半ば泣きながら言葉を紡いだ。

 そうか、と小さく呟いて天ヶ上は視線を上へと向ける。広がっているのはもう暗くなりかけた空だ。先程から腹だけでなく背中からも痛みが襲ってくる。

 痛む場所は熱を持っているようなのに、流れる汗が体を冷やす。自然と荒くなった息は、空中に白い息として現れていた。

 もう気を失ってしまいたい、けれどその前にしなければならないことがある。


「由美、校長とエリオット君を……」

「え? わ、分かった」


 息も荒くそう言う天ヶ上に橘は戸惑いながらそう返すと、件の二人を呼びに向かう。

 少しして大ヶ島と岩久良を連れて橘は戻ってきた。連れられた二人は一体なんだろうかと疲れの中に疑問の表情を浮かべている。


「二人とも、ローブのあいつは……」

「あぁ、残念ながら逃げられて――」

「違う、そうじゃ……ない……」

「ん? どういうことです?」

「あいつ、第五の主は……」


 岩久良が力なく項垂れながら答えた言葉を遮り、天ヶ上は何かを伝えようとしている。それを察した大ヶ島は尋ねながら耳をそばだてた。


「フードから、ちらりと見えた……忘れるなんて、出来るわけが無い、あの顔……」


 騒がしい広場に、下手をすれば天ヶ上の声はかき消されてしまいそうだ。

 けれどもそれを逃すまいと大ヶ島はさらに耳をそばだてる。誰もが無意識に息を呑んで天ヶ上の次の言葉を待っていた。


「『第五遊技場』の主は……」


 苦しくなってきた呼吸をどうにか落ち着かせようと、天ヶ上は大きく息を吸う。それが痛みに響いたのだろう、苦しげに呻きながら咳き込んでしまった。

 けれども言葉を紡ぐ。あと少し、これだけ伝えれば、これだけは伝えなければ。

 そうして、天ヶ上は最後の言葉を口に出した。


「――――神楽嶋だ」


 その言葉は広場に響くことは無く、未だに騒ぐ野次馬達や遠く離れた兵士の耳に届かない。それまでには喧騒で掻き消えてしまった。


 けれどその一言は確かに、彼の周りに集まった女性陣、そして二人の主の耳には届いたのだ。


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