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第五遊技場の主  作者: ぺたぴとん
第三章
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第47話~妨害、そして脱出~

 走りだす俺達。けれどそれを最も近くにいた天ヶ上はもちろん、他の主が許してくれるはずもない。

 最初に動きを見せたのは天ヶ上だった。動きだすのを見ると眉間に皺を寄せ、腰に携えた剣の柄へと手をかける。


「止まれっ!」


 立ちふさがるようにして立つ天ヶ上は鋭い声をこちらへと投げかける。けれど剣を抜くことは無い。逡巡するようなその表情から、攻撃をしては傷ついてしまうのではないかという考えが簡単に読み取れる。

 そんな天ヶ上の背中へと傍にいたツインテールの少女が焦燥を顔に少なからず浮かべながら口を開いた。


「相手は主だから遠慮はいらないわ!」

「分かった!」


 上級神である少女の言葉に頷いた天ヶ上は、剣を抜いて切りかかってくる。横薙ぎではなく突くことを意識したように剣先をこちらへと向け駆けていた。

 高さからして腹辺りを狙っているのだろう。それにしても少し慣れた人間が剣を持つようである。訓練はしてこなかったのか。

 どちらにせよ、通行の邪魔だ。

 その間にも俺と天ヶ上の距離は縮まっていく。目深にかぶったフードからはこちらへ近づく天ヶ上の姿が見えた。


「勇者を、なめるな!」


 距離が縮み、天ヶ上の攻撃範囲内に入る。威勢の良い声と共に天ヶ上は鋭く突きを放った。

 剣の切っ先が届くよりも早く、握りこぶしを作って片腕を横へと軽く振るう。拳に冷たい金属の感触がし、そのすぐ後にパキンと砕ける音が広場に響いた。

 天ヶ上の握る剣には柄だけを残して何も無い。ちらりとフードの隙間から視界の端で陽の光を受けて煌く砕けた剣の破片が宙を待っていた。眼前には呆けて間抜け顔をさらす天ヶ上の姿がある。

 そのまま、走る勢いを殺すことなく天ヶ上の腹に膝けりを軽く食らわせた。

 無防備なまま食らった天ヶ上は目を見開き血を吐きだすと、そのまま吹っ飛んでいく。暫く宙を浮くように飛んでいた体だが、重力に従って途中から地面をバウンドしてようやく止まる。止まったのは丁度野次馬の目と鼻の先だ。

 つぶれた蛙のように地面へと伸びている天ヶ上はピクリとも動かない。どうやらたった一撃で気絶したらしい。口の端からはよだれが垂れ、目は焦点があっておらずとても醜い顔である。勇者とは思えないような姿だ。気のせいだろうか、ズボンの股の部分が薄っすらと濃い色合いを成している。

 何とも惨めな姿を、天ヶ上は野次馬達の目の前にさらしていた。

 うん、軽くであれほど飛ぶとはどれだけ鍛えていないんだ。あぁ、でもリリアラとルルアラの攻撃を一発受けて吹っ飛ぶんだから良いのか?いや、あれから随分経つのに進歩が無かったらそれはそれでどうかと思うぞ。

 そんなことを考えてながら駆けている間にも広場の端に近くなる。

 このまま人垣に突っ込むわけにもいかないので強く地を蹴って大きく跳び上がると人垣を跳び越えて人の空いている石畳の大通りに着地した。

 広場の外であるここなら魔法を使えるだろう。そう思い足を止めると、追いついたオルブフとルルアラが傍に着地した。


「魔法は使えないのだろう、大ヶ島! 道具が壊れでもしているのか!」

「そんなわけないでしょう! ……これなら第一にも、いや、これじゃあ頼んでも無理か」

「ええい、早く第五の主を捕らえろ!」


 第二の主が声を荒げ、周りの兵士もこちらへ向かって来ようとする。それを尻目に転移の魔法を発動しようとしたときだ。


「でぇりゃあ!」


 頭上から大声と共に少女が降ってくる。両手に握っているのは両刃の巨大な剣だ。って、さっきの上級神少女じゃないか。

 

「勇気をよくも! てか、あんた逃げるなんて許さないわよ!」


 ツインテールをたなびかせて荒げた声を上げる。そして両手に持った大剣を大きく振り上げた。陽の光を受けて刃が金属独特の光を放つ。こりゃあ上級神との戦闘に入るか。それならば先にオルブフとルルアラを行かせないと。

 実質、この少女がいなければ二人は身動きが取れるのである。ここで追うのを不可能にさせれば後は悠々と『第五遊技場』に帰ることが出来る。……フラグみたいな思考だ、そんなことさせないけど。


「二人とも、王都の外に」

「了解っす」

「分かったのです」


 見上げたまま急いでルルアラとオルブフにそう指示すると、二人は短く言葉を返して屋根を跳んで王都の外へと向かう。

 

「せやぁ!」

 

 二人の気配が離れた瞬間、ツインテールの少女は落下しながら大剣を振り下ろした。瞬時に腕を上げて防御の体勢をとる。

 振り下ろした勢いに加えて落下のそれも加わり、大きな轟音がして辺りを土煙が覆った。


「ふふん」


 頭上で聞こえる勝ちを確信したような少女の声。相手の空気が怒りが清々しいものへと変わった。

 いやいや、勝ちを確信するのはまだ早いでしょうよ。

 先程の天ヶ上と同じく、刃を掴む右手に少しばかり力を入れる。さすがに天ヶ上が持っている剣と上級神の持つ剣は強度が違うが、こちらには関係無い。

 風に吹かれて土煙が姿を消すのと、少女の大剣が大きな音を立てて砕けたのはほぼ同時だった。


「へ?」


 勝ち誇った顔を呆けたそれに変えて、少女は思わずそんな言葉を口に出していた。しかしすぐに気を取り直すとこちらを睨みつけてくる。

 大剣が駄目ならば拳で、そう考えたのだろう。瞬時に少女の両手を白く輝く金属の篭手が覆った。丈夫なのだと一目で分かる代物である。


「冗談、じゃないわ!」


 声を荒げながら少女は勢いよく拳を突き出した。素早いその攻撃はまっすぐ俺の胸部を狙っている。

 それを外側に回るようにして避けながら攻撃を捌き、繰り出された拳側の手首を掴む。そして相手の勢いを殺さず、反対側へと投げ飛ばした。

 少しばかり角度を変えて、投げた先は空になっているのだが。


「ふざけないで!」


 飛ばされていた少女は怒りで顔を真っ赤にしてどうにかこうにか空中で踏みとどまろうとする。少しずつスピードが下がり、そしてようやく動きを止めた。

 すぐに少女の手に短剣が握られる。あの上級神は武器の神か何かか?

 いや、今はそれはおいておこう。相手に攻撃の隙は与えちゃいけない。幸い広場でないここならば、魔法を使うことが出来る。

 ≪ヴォルカス≫を取り出す暇なく、相手へ片手の手の平を向けた。


「【お化け屋敷】」


 小声で呟く『第五遊技場』特有の魔法。次の瞬間、少女の周りに薄っすらともやがかかり始めた。


「へ? 何?」


 困惑した顔で辺りを見回すツインテールの少女。逃げようとするのだが、途中でそれが塞がれてしまう。

 方向を変えても無理だった。まるで箱に閉じ込められたようである。まぁ、箱ではないのだが。

 少女の周りに漂っていたもやは少しずつ色と形をはっきりさせ、それが何かを周りに示すように上空に浮かび上がっていた。

 端的に言えば遊園地で見かけるお化け屋敷である。和風のおんぼろ家は見ているだけでこちらにどこか薄っすらとした寒気を感じさせる不気味さを漂わせていた。

 姿を見せたお化け屋敷とは反対に少女の姿は消える。中にいるのだろう、時折少女の声が中から漏れ聞こえていた。

 

 これで大丈夫、それじゃあ俺も二人の後を追うか。

 魔法が無事成功したのを見届け、その場を去り二人の後を追い始める。


「ちょっと、何よこれ! 壊れないじゃない! ちょっと! ちょ、え、ねぇ、嘘でしょ、嫌よ。来ないでよ、気持ち悪い! 気持ち悪、来な、いやあああああああああああっ!」


 後ろから聞こえてくる斬撃音と少女の怒号。

 けれどそれは少しずつ恐怖で引き攣り、最後には悲鳴となって王都の上空に響いた。広場のいる主二人も野次馬も呆然とした表情でそれを見ているのが横目で見える。

 大丈夫、怪我はしていない。中にいるのはお化けや妖怪だ。まぁ、少し妖怪がリアルというか色々とえげつないので精神的にくるものがあるかもしれないが。

 それに暫くすれば自然とあの屋敷も消える。まぁ、屋敷が消えるということは攻撃が完了したという意味合いでもあるのだが。 

 それにしても今日は朝の件に続いて今回の件とお化け屋敷が活躍しているようだなぁ。そんなことを考えながら屋根へと跳び上がり、<レーダー>を開いて二人の場所を目指す。


 夕暮れの王都には少女の悲鳴と人々の喧騒が響いていた。少し悪役のようだと思いながらも、後ろのそれを無視して突き進む。

 とにもかくにも今回の件は無事解決だが、これからより忙しくなるだろう。

 そんなことを考えていると、王都の外へと出た。<レーダー>に映された二人の反応は森からあり、そちらへと向かうと人に見つからないように木々の生い茂った中に二人の姿がある。


「おい、二人とも」

「あ、秋人様なのです!」


 呼びかけると先に振り向いたルルアラが嬉しそうな声を上げながらこちらに手を振ってきた。オルブフも小さく手を振ってくる。

 二人のもとに歩み寄ると、どちらも安堵の表情を顔に浮かべていた。


「本当に助かったのです……。あの勇者、最後なんてもう怖いやらなんやら……」

「ルルアラに賛同っすね。自分でも引き笑いしているって自覚があったっすよ」

「まぁ、変わってなかったんだろ、あの勇者は。とりあえず『第五遊技場』へ戻るか」


 アイテムボックスから≪魔銃・ヴォルカス≫を取り出しながらそう言うと、二人は肯定を示すように頷いた。

 それではと≪ヴォルカス≫の引き金を引いて転移の魔法を発動させる。

 一瞬景色が揺らいだと思ったら、目の前の風景は馴染みのある『第五遊技場』へと変わっていた。安心した空気を纏いながら、ルルアラとオルブフは安堵のため息をつく。

 そんな二人に微かに笑みが浮かぶも、小さく口を開いた。


「お帰り、二人とも」

「ただいま、なのです」

「うっす」


 どこかはにかみながらそう答える二人。空はもう暗い、今頃館でリリアラ達も心配しているだろう。オルブフとルルアラ、そして俺は館へと戻っていった。

 何はともあれ、今回の事件は二人を無事あの場から脱出させることが出来ている。胸を撫で下ろしながら、前を軽快な足取りで歩く二人に思わず笑みがこぼれてしまった。


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