95.女の戦い、申し上げ候2
そりゃ全て理解しているとは思わない。まだ短い付き合いだ。なら充希はヨシカを理解出来ているのか。理解しているとして、それはデータとしての話だろう。タイプX-07、AIの特徴を把握しているだけではないのか。
「君はあの型の人工知能を知っているのか? どうせ軍機だと言うんだろう?」
「いえ、ご本人から相談というか話題を持ち掛けられ、少々考えることがありました」
今度は頭を悩ませるよう首を捻っている。
「なんの話題だ。聞いていいのか知らんが」
「難しいところです。内密にして頂けるなら」
参ったな。躊躇いはあるが、気になるので分かったと頷く。充希は受け入れたようで、にこりと笑みを浮かべた。
そして「こう言われました」と前置きし、話し始めた。
「充希さん、ひとつお聞きしてもいいですか。あなたは女として、この濡れたゼスさんに勝てる自信はおありですか?」
――なんだそれ。一瞬時が止まり思わず絶句していた。充希が声色を真似したことではない。ヨシカがあのゼスを意識していることに戸惑いを覚えたのだ。挙句充希にその話題を持ち掛けるのか。
やり取りが映像として浮かぶ。カメラを手に、二人が「あのゼス」について論じ……ダメだ思い浮かべたくない。
「そ、そう。そりゃまあなんだ、あれは俗に言う"奇跡の一枚"みたいなもんだから、どうでもいいんじゃないかな」
困惑から話を終わらせようとしたが充希は続ける。
「私も少し戸惑いました。しかし至って真剣な眼差しでじっと見つめられ、これは答えざるを得ない、そう結論づけたのです」
いやそこは適当にいなせよ。と言ってももう遅い、過去だ。
「そう。で、なんて答えたの」
「女学生のゼスさんならわたくしめ、相手に不足なしと答えました」
なるほど、確かにいい勝負……って俺まで考えてる!
まずい巻き込まれる、巻き込み事故過ぎる。やめようと言いかけたが充希は止まらない。
「問題は成人女性のゼスさんです。こう言ってはなんですが、畑が違うと思うのです。しかしヨシカさんは納得しない。言わば無差別級でどうなのか知りたいのです」
充希は興が乗ってきたという具合で舌も滑らかだ。
「これは事実上"あなたと私、どちらが美しいのかしら"と、言っているのと変わらない。そう指摘すると"充希さんはとても可愛らしくて羨ましいです"と仰り、やんわりかわされます」
確かに畑が違うというか好みの方向性が違い過ぎる。事実「可愛いくつくり過ぎではないか」と、以前指摘した。
「当方自分の容姿には些か自信を持っております。ですので素直に褒められている、と捉えました。女同士で勘の鈍い、と思われるやもしれませんが、そこを掘り下げる理由は私にはありません」
そうなんだ。で、どう答えたのだ。既に強い興味を覚えているという自覚はあった。あのヨシカがそんなことを考えていたなんて。
その様子を見てか、充希はこちらをしっかりと見た。
「しかし結論は出ません。やはり分野が違う。ですので最終的に"濡れて動くゼスさんを知る、国樹さんに尋ねられては?"と答えておきました」
「……は?」
国樹は思わず立ち止まってしまった。呆気に取られ思考が一時的に固まり、それから激しく動き出す。
……おい……なにして、なんてことしてくれた、してくれてんだ。
このクソ軍用機なに考えてんだ!
お前そんなの、マジで聞かれた時なんて答えりゃいい!
こいつマジ!
憤激と狼狽、充希は反応を見て立ち止まり、
「はてやはり、濡れたゼスさんはお気に入りなのですね」
身体ごと振り向き悪質な笑みを向けてきた。ふざけやがって!
「ああ? ちげーよびっくりして驚いただけだ! あんなもん誰でも混乱するだろ! グーシーだって理解してくれた!」
口角泡を飛ばし、身振り手振りも加え必死の抗弁。すると、
「ヨシカ殿とは友好関係を保たねばなりません。"協調性を持って接してくれると嬉しい"でしたね。わたくしめ、国樹殿の期待に沿うよう鋭意努力致します。どうかお見守り下さい」
充希はぺこりと頭を下げてきた。
こいつ人の話を……聞く気がない。
ふと気がつくと、町を出るところに着いていた。遠くに件の人影が見える。なんか、今は正直会いたくない。その様子を見てか充希が促してきた。
「国樹様合流しましょう。吾輩協調性も護衛も見事こなし、お褒めに預かりたく申し上げ候」
だからいつの時代だよ……。
もうなんか、切腹申しつけてやろうか候だ。




