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Transparent Dark  作者: 文字塚
陸:境界の在り処。アジアハイウェイ
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94/160

93.第二の襲撃者2

 小声で伝え充希と共にバギーを降りる。振り返りヨシカ、グーシーと目を合わせる。少しのお別れだ。ゼスはこちらを一瞥しただけでまるで興味がないらしい。


 歩を進め四つ辻を右折。どう考えてもおかしな存在の充希と並び、裏路地へと入り込む。充分目立った、つけられてもおかしくない。

 二つ目の曲がり角を左折、二人して周囲を見回し誰もいないことを確認。物陰から元来た道、そしてバギーの様子を窺う。

 ヨシカは我々の姿が消えたのを見て、ようやくアクセルを踏もうとしていた。そこに男が数人寄って来る。やはり待ち伏せ、いや獲物が通るかもと待ち構えていた。印象だけなら完全に賞金首狙いだ。


「アッサム通ったらそらこうなるわな」

「こちらには誰も来ませんね」


 確かに地元民の姿も見えない。裏路地を真っ直ぐ行けばこの町は抜けられる。しかしどこを見ても誰もいない。田舎過ぎる。町というより村だ。


「アメ車の男もそうだが目印のひとつはバギーだな。手配書にもあるんだ。バギーと日本人、恐らくこれで判断してる」

「確かにヨシカ殿も日本人ではありますね。しかし女性です」


「それは……」と言い淀んだが、視線の先を見ていれば分かる。

 男達にはまるで緊張感がない。人数は増えたがなぜか談笑している。


「リラックスしてるな、完全に」

「どうやら言葉も通じませぬ。日本語や英語を使える者いませんようで」


 ヨシカは英語話せるのか、なるほど知らなかった。

 バギーは動かず、男達は暴力も恫喝も行わない。

 そして対応するのはゼスだ。通訳とも言うが、あいつが大人しくそんな役割引き受けるわけない。案の定、


「あーもううるさいな! どけよ動かせないだろ!」


 ゼスの苛立った声が響いた。しかし男達は動じない。ヨシカの肩に触れ気安く話しかけている。ヨシカは手を払い冷たい視線を向けるが、これまた効果がなかった。

 国樹は改めて周囲を見回した。こちらは変化なし。誰も来ず人気すら感じない。


「……どういうつもりだ。俺らがバギーに戻るの待つつもりか?」

「女性と子供を人質に、手配書の人物か確認するつもりなのでしょう」


 確かにそうも見える、見えるが……国樹は目を細め言葉にする。


「なあ、俺にはナンパしてるようにしか見えないんだが」

「はい、そちらを優先しているのかもしれません」


 思わず充希を見つめると、目が合った。明確に充希が頷くので、思わず深く項垂れてしまう。そういうことか、仕方ない。

 戻って対応しようと思ったその時、


「いい加減にして下さい」


 微かだが日本語が聴こえてきた。ヨシカの声だ。

 人垣染みたものが出来つつある中、バギーの三人に動きが見えた。


「国樹さん、目を閉じ耳を塞いで下さい」


「ん?」国樹が充希に顔を向けると分厚い手で目を塞がれた。その瞬間、強烈な爆発音が鳴り響いた――。

 連続する爆発音と白い閃光、どう考えてもフラッシュバン、スタングレネードだ。挙句発煙弾で煙幕まで張りやがった。

 あんのバカ共、そんなもん使う相手じゃないだろうに!

 耳が痛い。充希が伝えてくれなければ、どうなっていただろう。

 充希曰くバギーは走り去ったらしい。舌打ちひとつ、国樹は充希と共に裏路地へと歩を進めた。



 表通りの騒ぎとは隔絶されたかのようだった。裏通りは簡素な家屋に挟まれ、静けさを保っている。事件現場から声は届くが、通りを振り返っても誰も来ない。

 誤算が多過ぎる、ヨシカが男達を引き寄せ過ぎた。完全に彼女の美貌を甘く見ていた。情けない、ずっと傍にいたのに。

 なによりグーシーの対応にしては雑だ。恐らくゼスがやらかした。あのガキマジで……。


「三人は今どこだ? いっそ中で合流するか?」

「いえ、目視はしていませんが音で大体。もう町は出てしまいます」


 音で距離を測る……本当か? 隣を歩く充希はのんびりしたもので、全く急ごうとしない。国樹はそれを見て歩調を合わせた。不安はあるが事実関係は(じき)分かる。


「予定外だし想定外だ。まあ、それを確認するためなんだが」

「はい。緊張感のほどは知れていましたので、大事になることはありません」


 ならやはり、スタングレネードなど使わずともよかった。といってこれで緊張感が高まるわけでもないらしい。ホントに誰も来ない。

 目の前の光景は牧歌的だ。仏教国家ミャンマーらしく穏やかな日常が流れている。好んで裏路地に迷い込む観光客、感覚的にはそれが近い。地元の生活感を味わいたいという奴だ。

 頭を切り換え充希に尋ねる。


「君は連中をどう思う?」

「さて、のんびり過ぎます。正直やる気はなかった。あとはご覧の通りヨシカ殿に夢中で、そもそもの目的を忘れていたように見えました」

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