93.第二の襲撃者2
小声で伝え充希と共にバギーを降りる。振り返りヨシカ、グーシーと目を合わせる。少しのお別れだ。ゼスはこちらを一瞥しただけでまるで興味がないらしい。
歩を進め四つ辻を右折。どう考えてもおかしな存在の充希と並び、裏路地へと入り込む。充分目立った、つけられてもおかしくない。
二つ目の曲がり角を左折、二人して周囲を見回し誰もいないことを確認。物陰から元来た道、そしてバギーの様子を窺う。
ヨシカは我々の姿が消えたのを見て、ようやくアクセルを踏もうとしていた。そこに男が数人寄って来る。やはり待ち伏せ、いや獲物が通るかもと待ち構えていた。印象だけなら完全に賞金首狙いだ。
「アッサム通ったらそらこうなるわな」
「こちらには誰も来ませんね」
確かに地元民の姿も見えない。裏路地を真っ直ぐ行けばこの町は抜けられる。しかしどこを見ても誰もいない。田舎過ぎる。町というより村だ。
「アメ車の男もそうだが目印のひとつはバギーだな。手配書にもあるんだ。バギーと日本人、恐らくこれで判断してる」
「確かにヨシカ殿も日本人ではありますね。しかし女性です」
「それは……」と言い淀んだが、視線の先を見ていれば分かる。
男達にはまるで緊張感がない。人数は増えたがなぜか談笑している。
「リラックスしてるな、完全に」
「どうやら言葉も通じませぬ。日本語や英語を使える者いませんようで」
ヨシカは英語話せるのか、なるほど知らなかった。
バギーは動かず、男達は暴力も恫喝も行わない。
そして対応するのはゼスだ。通訳とも言うが、あいつが大人しくそんな役割引き受けるわけない。案の定、
「あーもううるさいな! どけよ動かせないだろ!」
ゼスの苛立った声が響いた。しかし男達は動じない。ヨシカの肩に触れ気安く話しかけている。ヨシカは手を払い冷たい視線を向けるが、これまた効果がなかった。
国樹は改めて周囲を見回した。こちらは変化なし。誰も来ず人気すら感じない。
「……どういうつもりだ。俺らがバギーに戻るの待つつもりか?」
「女性と子供を人質に、手配書の人物か確認するつもりなのでしょう」
確かにそうも見える、見えるが……国樹は目を細め言葉にする。
「なあ、俺にはナンパしてるようにしか見えないんだが」
「はい、そちらを優先しているのかもしれません」
思わず充希を見つめると、目が合った。明確に充希が頷くので、思わず深く項垂れてしまう。そういうことか、仕方ない。
戻って対応しようと思ったその時、
「いい加減にして下さい」
微かだが日本語が聴こえてきた。ヨシカの声だ。
人垣染みたものが出来つつある中、バギーの三人に動きが見えた。
「国樹さん、目を閉じ耳を塞いで下さい」
「ん?」国樹が充希に顔を向けると分厚い手で目を塞がれた。その瞬間、強烈な爆発音が鳴り響いた――。
連続する爆発音と白い閃光、どう考えてもフラッシュバン、スタングレネードだ。挙句発煙弾で煙幕まで張りやがった。
あんのバカ共、そんなもん使う相手じゃないだろうに!
耳が痛い。充希が伝えてくれなければ、どうなっていただろう。
充希曰くバギーは走り去ったらしい。舌打ちひとつ、国樹は充希と共に裏路地へと歩を進めた。
表通りの騒ぎとは隔絶されたかのようだった。裏通りは簡素な家屋に挟まれ、静けさを保っている。事件現場から声は届くが、通りを振り返っても誰も来ない。
誤算が多過ぎる、ヨシカが男達を引き寄せ過ぎた。完全に彼女の美貌を甘く見ていた。情けない、ずっと傍にいたのに。
なによりグーシーの対応にしては雑だ。恐らくゼスがやらかした。あのガキマジで……。
「三人は今どこだ? いっそ中で合流するか?」
「いえ、目視はしていませんが音で大体。もう町は出てしまいます」
音で距離を測る……本当か? 隣を歩く充希はのんびりしたもので、全く急ごうとしない。国樹はそれを見て歩調を合わせた。不安はあるが事実関係は直分かる。
「予定外だし想定外だ。まあ、それを確認するためなんだが」
「はい。緊張感のほどは知れていましたので、大事になることはありません」
ならやはり、スタングレネードなど使わずともよかった。といってこれで緊張感が高まるわけでもないらしい。ホントに誰も来ない。
目の前の光景は牧歌的だ。仏教国家ミャンマーらしく穏やかな日常が流れている。好んで裏路地に迷い込む観光客、感覚的にはそれが近い。地元の生活感を味わいたいという奴だ。
頭を切り換え充希に尋ねる。
「君は連中をどう思う?」
「さて、のんびり過ぎます。正直やる気はなかった。あとはご覧の通りヨシカ殿に夢中で、そもそもの目的を忘れていたように見えました」




