92.第二の襲撃者
奪い取った銃の薬室から銃弾を取り出し、カートリッジも取り外す。話が長くなった、そろそろ通行する車が出てくるだろう。
「あなたの銃はトカレフ、ソ連製です。せっかくアメ車に乗るなら揃えましょう。銃はどこで手に入れました?」
言葉遣いを改め、国樹は視線だけでグーシーを確かめる。周囲は平気かと。先に男が問いかけに応じた。
「ああ? それは言えねえ。言うわけないだろ」
「手配書回した連中ならお気をつけを。奴隷商人やその仲間と繋がっていても不思議じゃありません。恐らく報酬も払わないでしょう」
沈黙が生まれ、男は窺うようこちらを見ている。そして分かりやすくたじろぎながら、問いかけてきた。
「お前、それマジで言ってんの……?」
国樹は戸惑いを受け止めず、こちらの事情を優先させる。
「初めて手配書を見たのはいつ頃です? 今どの程度出回ってるか分かりますか?」
「あ、ああ結構最近だぜ。二週間ぐらい前か。他は知らねえ、いややっぱ出回ってそうだな」
なるほど。最後と考え、国樹は銃を後ろ手に向かい合う。
「地元のご出身だそうで、ひとつビルマ語を聞かせて下さい」
男は口を開け、顔には意味が分からないと書いてある。それでも一言だけ呟いた。グーシーを経てゼスが拾い上げる。
「タガロ"クソ野郎"だって」
男はまたゼスを見て驚くが付き合えない。
「もう少し長く話して下さい。さっきの手配書の話とかを地元の言葉で」
「はあ? なんでそんなことさせんだ、お前暇か?」
「この手配書は正しくありません。罪状を間違えてる」
紙切れを指で挟むと、男が初めて真剣な顔つきを見せた。
「俺は無実だ、とは言わないんだな」
「はい。正確な罪状は強盗殺人。強盗と殺人です。彼らからすれば商品を強奪され、船を沈められたわけですし」
どう捉えるかは立場で変わる。
「まあ別件別人かもしれないですが」
「いやでもお前、こんなジープに乗ってる日本人なんて――」
最後まで聞かず国樹は銃と弾丸、カートリッジを遠くに投げ捨てた。
「おい! いやまあ仕方ねえか……」
男は一瞬怒り、それから受け入れたらしい。続けて車のキーを遠くに投げ捨てると一転、彼は大声で喚いた。
「てっめえふざけんな! 冗談じゃねえ仕事用なんだぞ! マジクソッたれがどこだよ!」
そうして許可もなくキーを探しに駆けだした。走りながら何事かまた大きな声を出している。しかし聞き取れない。国樹は苦笑いを浮かべバギーへと戻った。そして皆を見回し声をかける。
「彼はまあ無害、という君らの言い分は正しかったな」
『"ここらは危ない。手配書はまだあるぞ。クソッたれが死ぬなよ"だそうだ』
律儀にもビルマ語を使ってくれたらしい。全く調子が狂う。
「なるほど。んじゃ行こうか」
そうしてバギーをアクセルを踏んだ。
太陽はもう完全に顔を出していた。アジアハイウェイ一号線、そしてサガイン管区の水田が朝陽に照らされている。この調子なら、どうやら雨は降りそうにない。
時刻は九時を回っていた。サガイン管区の町カレーミョを出たのは六時頃、ミャンマー第二の都市マンダレーまでは約十時間かかる。ハイウェイ一号線を外れれば近道だが、山間部を通るのはごめんだ。とはいえこの南に下るルートも山間で、危険度は大して変わらない。
ハイウェイを走って三時間。ガンゴーという小さな町が近いはずだ。車の通りは少なく道のりは順調だった。
「国樹殿、町の入口に人が見えます」
もう九時を過ぎている。そりゃいるだろうと頷くが、充希が無意味に話すわけもない。
「懐に銃を忍ばせていますな。複数おります、いかがなさいます?」
町は微かに見えるほどでまだ距離はある。にも関わらず、どこに銃を仕舞っているかまで見分けるとは。
「何人だ、待ち伏せか?」
「いえ、待ち伏せとは思えません。見張っている程度でしょう。しかし複数人、内部は更に人がおります」
ゼスはともかくグーシーがなにも言わない。どうやら事実らしい。ひとつ息を吐き出し国樹は告げる。
「気にせず通る。ただ町の中で少し様子を見たい」
「心得ました」
充希はそう言ったきり静かになった。横目でヨシカを見ると小さく頷き、ゼスをしっかり抱きかかえている。
ガンゴー入口には複数の男達がたむろしていた。遠目では牧歌的に見えたが、こちらを確かめると明らかに目つきが変わった。速度を落としゆっくりと進む。好奇心かハンター心理か、注目されていることだけは伝わってくる。
低い建物が並ぶ寂れた田舎町に入り、ひとつ目の小さな四つ辻手前でバギーを止めた。
「ヨシカ、このまま町の反対側まで運転してくれ。グーシー、二人を頼む」
『了解だ』
「はい。国樹さんは?」
ヨシカは幾分緊張の面持ちをしている。
「俺は充希と裏路地を回る。中に誘い込まれたとは思わないが様子を見たい。町を出てから合流しよう」




