48.アイキャンフライとか正気を疑う
ヨシカは言った、
「昇ったとしてどうやって下りるんですか?」
と。今となっては、実に正しい指摘だった。
螺旋階段が終わると、ただ直立の細い塔が続く。
上からなにか落とされたら、下りる側は対策のしようがない。
「タガロ、早く下りよう!」
ゼスは梯子に取りつこうとするが、国樹は止めた。
焦りから怪訝な顔を向けてくるゼスに、
「真っ直ぐ下りたら確実に報復を受ける」
「そうかもしれないけど、でも梯子あるし、真っ直ぐなにか落とすのって、案外難しいんじゃない?」
ゼスの主張は、通常ならある程度正しい。
だがここは違う。
確かに、物体は梯子に邪魔され、安定しないかもしれない。
しかし液体ならどうだ? 想定するのも馬鹿馬鹿しいが、例えば熱湯なら? これは時間と共に冷めるだろう。では薬品だったら? 梯子に沿うようなにかを垂らしてみたら?
それが大量の液体であるとすれば、ただの水でも洒落にならない。
そして水は豊富に存在している。
どうであれ、一番厄介なのは帝石と魔石だ。
なら、もう方法はひとつしかない。
「ゼスちょっと階段上がれ」
「なんで!? どうしたの?」
「爆破する」
「え゛?」
「この螺旋階段と梯子の繋ぎ目に風穴空けるんだよ」
恐らくだが、気圧が安定している。この中は航空機内部のようになっている。でなければ、高山病の症状が消えた説明がつかない。
正確を期するなら、そもそも症状自体思い込みで、勘違いだったのではないか?
そうなると、これから起きる事態は容易に想定出来る。
「爆破すると、空気が外部に流れ、俺達も外に吸い出される」
「た、タガロ。僕はここから落ちた時の痛みに耐える自信ない」
そうなんだ、まあそうか。死なない、という自信はあるのが凄い。ゼスが珍しく身震いし、問いかけてくる。
「タガロはどうするの? 耐えられる?」
「いや無理」
「やめよう」
「準備するぞ」
「石使うの? 使ったことあるの? 僕のルビーなの?」
慌てふためくゼスに、ニタリと笑みをつくり告げる。
「グーシーお手製のパラシュートだよ」
ずっと背負っていたリュックをポンっと叩く。
「カバンさんと呼べ。伊達でこんな嵩張るもん持って来るわけねーだろ」
欠片は設置した。少し熱して、すぐに離れる。タイミングは正直分からない。いつもより大きな欠片で、まともに使ったことがない。
抱えるよう、ゼスを前にして自分と繋ぐ。ベルトでロックするが、念のため安全帯のフックもかけておいた。
まさかお空を飛ぶ羽目になるとは……ゴーグルをかけ、ひとつ息を吐いた。
片手でゼスを抱え、もう片方は銃を握る。螺旋階段の上がうるさくなってきた。いきなり帝石や魔石で攻撃されたら、洒落にならない。所詮威嚇だが、ベレッタは一応機能していた。そう信じるしかない。
息を呑むよう待ち構えていると「パチッ」と、火花が飛ぶような音がした。
「アイキャンフライとか正気じゃないよ! タガロ、僕やっぱり梯子がいい!」
「お前は平気かもしれんが俺が死ぬだろ黙れ!」
ゼスが駄々をこねたので、つい大声を出してしまった。上階から、
「いるな日本人!」
アナスタシアの怒声が届く。
ヤバい、時間ないのに欠片にはもう近づけない! 早くしてくれ!
国樹の祈りと、アナスタシアの到着、そして欠片の爆破は同時に起こった――。
だから、
「フラッシュバンはお好きかね!」
「二度も同じ手を食うか!」
「アイキャンフライとか正気を疑う! 僕はくぼづーじゃない!」
三人の叫びと爆破音、加えて強烈な発光が重なり合った。
国樹とゼスは、空気の流れと共に、屋外へ吐き出されるよう飛び出していく。
正に一瞬の出来事、二人は中央アジアの空を舞っていた。




