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Transparent Dark  作者: 文字塚
参:蜘蛛の糸
49/160

48.アイキャンフライとか正気を疑う

 ヨシカは言った、


「昇ったとしてどうやって下りるんですか?」


 と。今となっては、実に正しい指摘だった。

 螺旋階段が終わると、ただ直立の細い塔が続く。

 上からなにか落とされたら、下りる側は対策のしようがない。


「タガロ、早く下りよう!」


 ゼスは梯子に取りつこうとするが、国樹は止めた。

 焦りから怪訝な顔を向けてくるゼスに、


「真っ直ぐ下りたら確実に報復を受ける」

「そうかもしれないけど、でも梯子あるし、真っ直ぐなにか落とすのって、案外難しいんじゃない?」


 ゼスの主張は、通常ならある程度正しい。

 だがここは違う。

 確かに、物体は梯子に邪魔され、安定しないかもしれない。


 しかし液体ならどうだ? 想定するのも馬鹿馬鹿しいが、例えば熱湯なら? これは時間と共に冷めるだろう。では薬品だったら? 梯子に沿うようなにかを垂らしてみたら?


 それが大量の液体であるとすれば、ただの水でも洒落にならない。

 そして水は豊富に存在している。

 どうであれ、一番厄介なのは帝石と魔石だ。

 なら、もう方法はひとつしかない。


「ゼスちょっと階段上がれ」

「なんで!? どうしたの?」

「爆破する」

「え゛?」

「この螺旋階段と梯子の繋ぎ目に風穴空けるんだよ」


 恐らくだが、気圧が安定している。この中は航空機内部のようになっている。でなければ、高山病の症状が消えた説明がつかない。

 正確を期するなら、そもそも症状自体思い込みで、勘違いだったのではないか?

 そうなると、これから起きる事態は容易に想定出来る。


「爆破すると、空気が外部に流れ、俺達も外に吸い出される」

「た、タガロ。僕はここから落ちた時の痛みに耐える自信ない」


 そうなんだ、まあそうか。死なない、という自信はあるのが凄い。ゼスが珍しく身震いし、問いかけてくる。


「タガロはどうするの? 耐えられる?」

「いや無理」

「やめよう」

「準備するぞ」

「石使うの? 使ったことあるの? 僕のルビーなの?」


 慌てふためくゼスに、ニタリと笑みをつくり告げる。


「グーシーお手製のパラシュートだよ」


 ずっと背負っていたリュックをポンっと叩く。


「カバンさんと呼べ。伊達でこんな嵩張るもん持って来るわけねーだろ」



 欠片は設置した。少し熱して、すぐに離れる。タイミングは正直分からない。いつもより大きな欠片で、まともに使ったことがない。

 抱えるよう、ゼスを前にして自分と繋ぐ。ベルトでロックするが、念のため安全帯のフックもかけておいた。


 まさかお空を飛ぶ羽目になるとは……ゴーグルをかけ、ひとつ息を吐いた。

 片手でゼスを抱え、もう片方は銃を握る。螺旋階段の上がうるさくなってきた。いきなり帝石や魔石で攻撃されたら、洒落にならない。所詮威嚇だが、ベレッタは一応機能していた。そう信じるしかない。


 息を呑むよう待ち構えていると「パチッ」と、火花が飛ぶような音がした。


「アイキャンフライとか正気じゃないよ! タガロ、僕やっぱり梯子がいい!」

「お前は平気かもしれんが俺が死ぬだろ黙れ!」


 ゼスが駄々をこねたので、つい大声を出してしまった。上階から、


「いるな日本人!」


 アナスタシアの怒声が届く。

 ヤバい、時間ないのに欠片にはもう近づけない! 早くしてくれ!

 国樹の祈りと、アナスタシアの到着、そして欠片の爆破は同時に起こった――。

 だから、


「フラッシュバンはお好きかね!」

「二度も同じ手を食うか!」

「アイキャンフライとか正気を疑う! 僕はくぼづーじゃない!」


 三人の叫びと爆破音、加えて強烈な発光が重なり合った。

 国樹とゼスは、空気の流れと共に、屋外へ吐き出されるよう飛び出していく。

 正に一瞬の出来事、二人は中央アジアの空を舞っていた。

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