47.天空の中4
簡潔に説明し、国樹の解釈もほんの少し混ぜる。当然、こちらの素性は詳しく明かせない。
ザドキエは何度も頷いて、
「そんなことが上で……」
零し、それから、
「仲を取り持ちたいです」
と提案してきた。不可能だ、あの女の警戒心はリミットを超えている。
「タガロ、下で話すっていうのはどう?」
一理ある。頭を冷やせば……可能性もなくはない。だがどうする、こっちはフラッシュバン投げつけたんだぞ? でなきゃとっくに降りて来てる。
「ひとつだけ方法がある」
「ホントですか! 聞かせて下さい!」
子供のものか天使的なものか、ザドキエは純粋で汚れない目を向けてくるが、
「二重スパイだ」
「お断りします」
破談した。
「つまり、こっちに来たり戻ったりみたいな?」
「それしかないだろ。次いつ会えるんだ。ある程度決めごとすれば、事実上二重スパイだ。こっちにとってもだけどな」
それぐらいしか方法が浮かばない。それと、たぶんまただが、時間がやばい。嫌な予感がする……。
「そんな、やですお別れは……ゼスさんだってそうでしょう?」
水を向けられたゼスは「うん?」とひと思案してから、応じた。
「そう……でもないかな?」
「へ? なんでぇぇぇ! なんでですか!?」
確かに、なんでそんな塩対応なんだ。「酷いです!」とザドキエは悲痛の声を上げるが、この寸劇を毎日見せられるのはさすがに苦痛か。二重スパイ案はなしだな。
膝を突き、国樹はザドキエに言い聞かせる。
「たぶんもう会うこともないだろう」
「何度も言わないで下さい、心が割れます……」
そんな落ち込まれても、と思うが、
「ただし、そっちがこちらを見つける分には、自由だ。自分で決めるといい」
そんな国樹の言葉で、少しだけ静寂が訪れた。そうして、
「タガロ……ありがとう」
なぜかゼスがお礼言うので、苦笑してしまう。ザドキエはしばし呆然としていたが、理解出来たか、しようと努力している。
なにかを決意するのは、常に自分自身でなければならない。
「その時は声かけろよ。他愛ない会話は人間関係の基本だ。お互い近況を報告し合うといい。それはあれだ、な、ゼス?」
国樹の意図を拾い上げ、
「ああ! 天使でも同じさ!」
ゼスは胸を張る。
心を決めたのか、ザドキエは眩しそうにそれを見つめていた。
両手を組み合わせ、まるで、天界のカリスマ少年モデルを崇めるかのように――。
別れの時は、唐突に訪れる。
背後から妙な音が聴こえ、続いて人影が現れる。
「いるな貴様!」
遠くから響く声は、案の定アナスタシアだ。
「解放しろと言ったはずだ!」
そしてこちらに向かい、駆けて来る。
「尋問するなとは言われてねーんだけどなあ」
独り言ち、それからザドキエを確かめる。恐らくこれが、最後の会話になるだろう。
「アナスタシアは帝石や魔石を使いこなせるんだよな?」
正直、別に答えは期待していなかった。
「えっと……」
と躊躇う姿も、もうさすがに気の毒だ。
最後だしハグでもしてやれ、とゼスに促すと、
「お別れだね。別れだけが人生なんて言うけどさ、僕らはそうでもないよ、きっと」
軽く引き寄せ、優しく諭すよう囁いている。
ゼス、お前その年で色男みたいな真似しやがって。まったく、成長した日にゃどうなってしまうのか。
ザドキエは、悲哀に満ちた表情でゼスを強く抱きしめ、国樹の手を握った。それから、ひとつ頷いている。
視線だけで「ありがとう」と伝え、
「くそが! 宇宙人が来やがったぞゼス!」
「最悪の気分だよタガロ! なんなのあいつ!」
二人して声を張り、駆けだす。
ゼスは振り返らなかった。
国樹が背後を窺うと、バレないよう小さく手を振る少女の姿が目に留まった。
後で教えてやらないと。
そう思い、国樹は階下、螺旋階段の入口へと速度を上げた。




