意外な提案
家具は備え付けだが、日用品は当然無い。
近くにショッピングモールがあり、
シャンプーや歯ブラシ、その他最低限の物を買いに行った。
そしてそこのスーパーには、食パンや水が無料で提供されるコーナーが設けられていた。
学生証を見せ、所持マネーを確認後提供されるとのこと。一定額持っていると貰えないみたいだ。
幸いにも単価が安いので、五万もあれば満足に生活できることが分かった。
人混みのなかなんとか買い物を済ませて帰宅。
現在時刻は午後二時前。
暇だな。タワマン内の探索でもしてみるか。
探索とはいっても俺が興味あるのは主に二つの場所だ。とりあえずはそこをまわろうと思う。
スマホからタワマンの案内を確認し、最初に
向かったのはライブラリーラウンジ。
エレベーターを降りると、居住区とは違い、開放的な空間が広がっていた。
至る所に本棚と人をダメにしそうな椅子が置かれている。というか既に何人かの生徒が本も読まず昼寝をかましている。
っとそうだ。マナーモードにしとかないとな。
誰の連絡先もないが、専用アプリからの通知が来る可能性はある。
授業中に鳴るとヤバいし、このままにしておこう。
景色が比較的良さそうな場所があったのでそこに
少年漫画を持って向かった。
「…………ふぅ」
確かにこの椅子はヤバいな。少し気を抜けば寝てしまいそうだ。読書どころではない。
「……こんにちは」
物静かで聞き覚えのある声がこちらに話しかけてきた。
黒いタイツを履いた足が横目に見える。
もしかして……。
声のした方を向くと、学園に来てから唯一会話した隣人ことイヴがいた。
「あ……よ、よう」
「急にごめんなさい。邪魔しちゃいましたよね……」
「あいや、まさかこんな俺に話しかけてくるとは思わなかったからびっくりしてるだけだ」
「じゃあ横、いいですか?」
「あ、ああ」
気持ち悪い感想だが、彼女からめちゃくちゃいい匂いがした。鼻にツンとくるわけではなく、優しい感じのやつだ。言い表すのが難しい。
いや、それより、何故俺の横に来たんだ?
「えっと……何読むんだ?」
「人との付き合い方に関する心理学の本です」
「……人と話すの苦手か?」
「得意ではないですね。初日からたくさんの方が話しかけてくれたんですけどおどおどしちゃって……上手く話せないんです」
「そうか……まあ、お互い頑張ろう。俺も苦手だ。慣れていくしかない」
「そうですね…………あ、あの、」
「ん?」
「えぇっと……」
何やら彼女は落ち着かない様子だ。
「その……連絡先……交換しませんか?」
彼女から意外な提案がきた。
「あ、ああ……ええと、俺なんかでいいのか?」
「はい。……たまにで良いので会話の練習をさせてほしいなって思って。もちろん、お互いにメリットはあると思うのですが」
「なるほど。一理あるな」
思いがけない提案により、彼女と連絡先を交換した。
まさか初日からこんな展開になるとは。
ていうか、俺なんかよりよっぽど勇気あるよな。
同性ならまだしも、異性に連絡先なんて軽々しく聞けないと思う。
俺はこのとき、自分自身を心の中で情けないと罵倒した。
「では、改めてよろしくお願いします」
「ああ。よろしく」




