#597 「そりゃ厄介だ」
遅れたぜ!( ‘ᾥ’ )
「不確定な未来を前にこの世の終わりみたい顔をするのはそれくらいにして、現実的な話をされてはいかがでしょう? 時間は有限ですよ、皆様」
「急に現実を突きつけてくるじゃん……まぁ言うことは尤もか。お義父さん、とりあえずこの件については可能な限り回避する、ということにして俺達の物騒かもしれないハネムーンとやらの話をしませんかね」
ミロが血も涙もない機械みたいな事を言って俺達を現実に引き戻してきたので、それに乗って話を進めることにする。実際に血も涙もないけどな、機械知性だから。まぁ、敢えてそういう言動をしただけだろうけれども。今回は。
「そうだな……頭が痛い問題なのはこちらも同じだが、解決できなくもないだけマシか」
絶望して天を仰いでいたお義父さんがそう言って溜め息を吐きながら応接テーブルに組み込まれているホロディスプレイを起動した。ホロディスプレイに表示されたのはホールズ侯爵領の銀河地図であった。つまり、ホールズ侯爵領を構成する十二恒星系である。
「見ての通り、ホールズ侯爵領は十二星系で構成されており、その全てをホールズ侯爵家が支配下に置いている。とは言っても、その全てを当主の私が差配しているわけではない。各星系には居住可能惑星や有人コロニーが複数存在しており、その全てに対して私が直接指示を出すのは現実的ではないからね」
各星系を示す光点からいくつかの球体や多面体などがポップアップしてくる。恐らく、ポップアップしてきたオブジェクトがそれぞれ居住惑星やコロニーを示しているのだろう。
まぁ、お義父さんの言うことも納得できる話だ。星系一つを支配する、といってもピンとこないだろうが、地球、というか太陽系一つを一人の人間が支配する、と考えるととんでもないことだというのが理解できる。地球人なんて星一つどころか、列島一つ、大陸の一区画の支配やその差配について右往左往していたわけだからな。
「基本的には一門衆が総督として各星系を支配し、当主が一門をまとめる形で領地を統治しているわけだけど、各星系を治める総督は更に人を使って各コロニーや居住惑星を管理しているんだ。概ね航宙コロニー一つにつき一人、より規模の小さいステーション数個につき一人、居住可能惑星一つにつき四人ほどの部下を使っている形だね。その他に当主直属の監察組織が存在する。この監察組織が各星系の総督や管理者を監視しているわけだね」
今度はホロディスプレイにホールズ侯爵家の組織図らしきものが投影される。まぁ、概ねわかりやすいピラミッド型の組織構造になっている感じみたいだな。所謂トップダウン形式の権力構造というやつだ。
「当主は直接総督達を指揮するのと同時に、監察組織の指揮も行っている。簡単に言えば領全体の方向性を決めつつ、綱紀粛正行う組織の運営を行っているわけだね。監察組織が主に監視するのは各総督と管理者、それと領軍の上層部といったところかな。大まかにはね」
「大まかには、ですか」
つまりそれ以外の場所も監視はしているというわけだ。実質的にその監察組織っていうのが領主であるお義父さんの懐刀ってことになるのかな。
「この監察組織は性質上、それなりの武力も有している。場合によっては実力で問題を解決する必要が出てくることもあるからね。今回、婿殿にはこの監察組織の一員として領内の監察任務をこなして欲しい」
「なるほど、官憲の真似事をしろというわけで?」
要は悪代官をとかを成敗する部署だよな、これ。
「まぁ、有り体に言うとそうだね。実は、ちょっと戦力面に不安があって手が出せていない案件がいくつかあるんだよ。基本的に監察部の仕事は不正を行っている人員の捕縛や証拠の確保でね。そのために実力を行使することはままあるんだ。ただ、その場合に行使される実力というのは大体の場合において生身の、所謂白兵戦力というやつでね。航宙戦力はあまり大きくなくて、そういうのが必要な場合は領軍や各星系の星系軍を使うんだけど……」
「何か使えない事情があると?」
「大きな戦力を動かそうとすると逃げられるんだよ。これまで三回、解決のために軍を動かしたけど全部空振りだ。調査はしているんだが、どこから情報が漏れているのか特定には至っていない」
お義父さんが苦笑いを浮かべる。フットワークが軽いタイプの敵なのか。そりゃ厄介だ。小回りの効く手駒だと逆に潰されかねず、だからといって大駒を繰り出すと逃げるってのは面倒だな。
「それで、相手は何なんです? 話の流れからすると宙賊ってわけじゃないんですよね?」
「それは『宙賊』の定義によるね。身元不明の有象無象が略奪した船を再武装化して略奪行為を繰り返す集団、という定義には当てはまらない。航宙艦で武装した賊、という広義の意味でなら彼らは間違いなく宙賊だ」
「ああ……レイダーか。そりゃ厄介だ」
レイダーというのはつまり、宙賊である。ただ、普通の宙賊とは違って真っ当な戦闘艦で武装している連中で、その脅威度は段違いだ。要は、以前やり合ったピンク髪のクソビッチ。奴が直属で率いていたレッドフラッグの親衛隊みたいな連中のことだ。まぁ、あいつらは表向きは合法の傭兵集団でもあったから、少し違うが。イメージとしてはそんな感じだ。
奴らはまともな戦闘艦で武装しているだけでなく、しっかりと軍事訓練を受けており、組織の運用そのものもより慎重で、狡猾だ。放棄されたステーションや改造した小惑星などの複数の拠点を運用して拠点の位置が露見した時には速やかにその拠点を放棄して逃げることがある。
SOLでは高難易度、参加艦艇数に制限のあるレイドイベントだったのだが、こっちではこういう感じになるのか。
「レイダー? 傭兵ギルドではそう呼ぶのかい?」
「まぁそんなところです。つまり身元がはっきりしていて、普通の宙賊とは比べ物にならない戦闘力を持つ航宙艦を運用していて、自分達を殲滅するような戦力が動いた際には逃げるだけの練度と理性がある……離反した軍人か何かですか?」
俺がそう問うと、お義父さんは苦虫を噛み潰したような顔をした。まぁそういう表情にもなるよな。大貴族として醜聞以外の何物でもないだろう。自分のお膝元で軍の一部が離反して宙賊行為を行っていますとか、醜聞以外の何物でもない。
「どうしてそんなことに? いや、聞かないほうが良いなら聞きませんけど」
「監察部がやらかしてね。宙賊と繋がって違法な物品の密輸を行っていた星系軍のとあるグループを検挙し損ねて、そのまま脱走して宙賊化した、というパターンさ」
「それはなんというか……ご愁傷さまというか」
監察部のミスだったのか、それとも相手が一枚上手だったのかはわからないが、どちらにせよやらかしには違いない。
「討伐の情報が漏れる経路も特定できていなくてね。情けない話なんだが」
「まぁ、難しいんじゃないですかね。普通の宙賊でも星系軍の動きを察知して逃げる連中がいるくらいですし」
どこのコロニーにも宙賊との繋がりを持つ連中は潜んでいる。監察部とやらにマークされて検挙されかけるまで『上手く』やっていた連中なら、当然そういう伝手を元々活動していたコロニーや、下手したら星系軍や領軍にすら残している可能性があるだろう。そして、そういう連中というのはあぶり出すのが大変に難しい。
一応そういう連中をあぶり出して狩り立てるコンテンツもSOLにはあったが、面倒過ぎてあまり人気はなかった。俺もやらなかった。面倒な割に報酬が渋かったからな!
「流石に詳しいね。頼らせてもらっても良いかな?」
「勿論。パパっと解決してみせますよ」
そういうのは得意なんだ。戦闘力で解決できるからな。
明日の夜辺りからアニメ放送が始まります。
やったぜ!( ˘ω˘ )




