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2.『死者』

―書き直し地点―(1話は変動なし)


 この時代、世界にはあやかし、魑魅魍魎が跋扈していた。

 悪鬼、怨霊、妖怪、等。

 その中でも、火楽は別格だった。

 人とそっくりの美しい容姿を持ち炎を自在に操る彼らは、死者に偽りの命の火を吹き込み、火車という存在を作り出すことができた。その力に焦がれ、彼らを神と崇める人間までいた。

 しかし、状況は変化する。

 人と関わるも、関わらぬも、他の妖怪たちと同じように気まぐれだった彼ら。

 そんな火楽の手による時の帝の殺害。

 同時期に各所に火楽が現れては、人を襲うようになった。

 火楽、そしてその尖兵たる火車たちは恐怖の象徴となった。

 さらに大きな事件が起きる。国の南端に位置する冬国で、大量の火楽たちが集まり、国へ戦争をしかけてきたのだ。

 数は人間より圧倒的に少なくとも、強大な力を持ち、火車を作り出せる彼らは、かつてない恐るべき敵となった。

 国は掃火という組織を作り、彼らを殲滅せんとした。

 そして戦争がはじまった。

 人と火楽による、長い、永い、ながきに渡る戦争が…。


―↓これから書き直す場所―


(急がなきゃ…)

 舞は心の中で呟いた。

 乱れる呼吸を必死で整え、一生懸命ひたすら地を蹴る。

(早く戻らなきゃ)

 胸で呟く言葉は、舞を急かす。でも、その速度はお世辞にいっても早いとはいえなかった。

 それでも舞は走る。自らの目指す掃火の基地へ少しでも早くつこうと。

 呼吸を整えるために立ち止まり、息が整うとすぐにでも走り出す。舞はこの場所に至るまでも、それを繰り返し続けていた。

 そんな舞の目に小さな村が見えてきたとき、舞の耳に悲鳴が届いてきた。

「火車だあああああ!」

「はやく逃げろ!殺されるぞ!」

 立ち並ぶ家屋の向こうから、村人たちが青い顔をしてこちらへ逃げていくのが見える。

(火車…)

 舞の鼓動がざわついた。

 『火車』(かしゃ)、それは人間の遺体が、『火楽』(かぐら)によって偽りの命を与えられ動き出したもの。火楽の命に従い人を襲い殺してまわるその存在は、人間の間では恐怖の象徴だった。

 舞の所属する組織『掃火』(そうび)は、それを倒すための存在だった。

(見過ごすわけにはいかないよね)

 舞は胸元から短銃型の霊具をとりだした。

 舞は掃火の一員とはいえ、とても弱い掃火だった。最弱としってもいい。能力の級は最低のてい級。掃火は志願したものすべて受け入れるからこそ掃火になれたものの、本来なら決して志願しようとは思わないほどの資質の無さだった。

 だからなるべく一人では戦うなと言われていた。特に同じ掃火である幼なじみたちからは、舞が戦いにかかわることすら止めたがる節があった。

 でも、今、この場には自分しかいなかった。

(大丈夫、訓練どおりにやればちゃんとできるはず)

 舞は覚悟を決めるように銃を握りしめた。自分も掃火の一人なのだ、訓練を受けたのだと、不安を堪える心に言い聞かせる。

 自分とは違い、二人の幼なじみは強かった。もっとも将来を期待される若手と言ってもいい。

 ふたりは自分を守ろうとしてくれていた。でも、それじゃあだめなのだ。舞自身も強い掃火にならなければ、ふたりとは一緒にいられない。

 だから舞は強くなりたかった。

 強くなって掃火の一員として認められたい。そしてできることなら、二人の助けになるような強い掃火になりたかった。

 舞は掃火の証である霊具を手に持ち、村へと駆け出す。村の中には、人はいなかった。無事逃げられたのだろう。少し安堵する。

 そんな舞の耳に、剣戟の音が聞こえてきた。

 舞が視線を向けた先に、巫女の服を着た少女が刀持ち、人の形をした化物たちと打ち合っていた。ここらを守る神道者なのだろう。彼女たちは掃火とは違うが、危険な化物たちから、そこに住む人たちを守る役目を負っていた。

 年かさは舞よりちょっと上程度にしか見えないが、それなりの強さらしく3体もの火車を一人で相手し耐えていた。村人に犠牲が無かったのは、彼女が食い止めていたからなのだろうと悟る。

 そして彼女と戦う人の形をした化物。いや、それは人間であることは間違いない。だが、一目見れば異常さがわかる。腕や背中を走る本来なら致命傷の傷痕、それを体に負ったまま獣のような俊敏な動きで少女へと襲い掛かる。死体となんら変わらぬままに動き人を襲う化物。それが火車だ。

 火楽によって偽りの命を与えられたその体には。霊視をすれば彼らの胸に宿らされた偽りの命のともし火、幻炎が確認することができた。

 少女はなんとか三体相手にしのいでいるが、反撃をすることはできていない。このままでは体力が尽きるか、隙を見せてやられてしまう。

 そう思い、舞は動き出した。

「私にも協力させてください」

 舞はそう言って少女に声をかけると。

「こっち!」

 そう叫び銃を両手で構え、一匹の火車に狙いをつけ引き金を絞った。パンッ、と軽い銃声が鳴り響き、弾が発射される。敵の胸に吸い込まれた銃弾は、火車の体をわずかに傷つけただけだった。質量の小さな銃弾は、わずかな霊力しか宿せず火車のような化物にはあまり効果が無い。

 それでも注意を引くには十分だったらしい、火車の濁った瞳がこちらのほうへと向く。

「ぎぎっ…?ぐ、ぐおおおおおおおお!」

 そのうち一体が叫び声をあげ、こちらへと向かってきた。

 少女の方は火車の動きが止まった一瞬に、こちらをちらっと見たがすぐに視線を戻し戦いを再開した。

 こちらに注意が行き動きの止まった一体の足を切りつけ、獣じみた機動力を奪う。敵が一匹減り、残りの二匹のうち一匹に大きなダメージを負わせた。少女の実力なら、もう負けることはないだろう。

 舞は自分へと向かってくる火車に意識を戻す。火車は舞へと標的を変えたそのままの勢いで突撃してきた。原始的な攻撃だが、とにかく速い。舞にとっては十分な脅威だった。

 咄嗟に横に身を投げ出す。

 姿勢を考える余裕はなかった。

 少し無理な動きをしただけで舞の足首は悲鳴をあげ、体は受身もとれずに地面に投げ出される。だが、火車の攻撃を回避できた。舞は地面に倒れた状態のまま、横を通り過ぎた火車の背中に向かって銃弾を打ち込む。晒された背中に吸い込まれたそれは、火車の体を数度揺らしたが、致命的な損傷を与えることはできない。

 舞はそこでやっと、訓練のとき受けた言葉を思い出す。

『銃は火車に対しては威力が小さすぎる。戦うときは四肢か頭部を狙え』

 舞は慌てて狙いを切り替えようとしたが、火車はすでにこちらへと向き直っていた。

 はやく立ち上がらなければ次の攻撃がくる。

 体を起こそうとしたとき、足からぐねっとした感触が伝わる。

(あっ…)

 さきほどの動きで足首を痛めたらしかった。うまく立ち上がることができない。顔から血の気が引く。

(まずいっ…)

 舞の視線の先で、火車が膝を深く曲げ高く飛び上がった。そして急降下しながら腕を振り下ろしてくる。狙いはもちろん自分だ。

「くぅ!」

 短いうめき声をあげ痛む足と手を使い、なんとか体を横に転がす。さっきまで舞がいた場所に、火車の振り上げられた両腕が文字通り突き刺さった。人の膂力では到底無理な力で叩きつけられたそれは、轟音を立て地面に穴を開ける。もし直撃すれば、肉片になっていたかもしれない。

 滅茶苦茶な膂力でそんな攻撃をしたから、火車の腕も無事ではすまなかった。立ち上がった火車は、手首が奇妙な方向に捻じ曲がり、骨が砕け、肩が外れ、腕そのものが柳の枝のように上半身から垂れ下がっていた。

 しかし火車はそれに痛みを感じる様子も無く、こちらへと向く。

 舞はまだ立ち上がれずにいる。

 舞の目の前でゆらりと体を揺らした火車は、今度はまるで獣のように口を開け、動けない舞へと襲い掛かってきた。本来の稼動域を無視して大きく開いた口が、舞の顔を噛み砕こう迫ってくる。

 舞は必死で膝を立て、舞と火車の体の間に挟みこむ。

「ぐふっ」

 筋肉は役にたちもしなかった。ただ舞の細い骨の分だけ、火車の攻撃をとどめることに成功する。自らの太ももが腹にめり込み、舞はうめき声をあげた。

 火車の顔は舞の眼前で止まった。しかし、ものすごい凄い力で足が押されている。ミシミシと骨の軋む音が、舞の体の内部から鼓膜まで響いてきた。

 股関節が抜けてしまいそうになる。膝の骨もこのまま砕けてしまいそうだった。

 そうなってしまえばあの大きくひらけた口が舞の顔を容易く食い千切るだろう。

 舞の額の五寸ほど前で、火車の歯がカチカチと音を立てて踊る。

(わたし死んじゃうの…?)

 舞の目に涙が滲んだ。

 しかし舞は諦めなかった。痛みで意識が飛びそうになりながら、腕を動かし転がっていた銃を取る。痛みで飛びそうになる意識を、必死で保ちながら、火車の顔へと銃口を向けた。

 パンッと銃声が響き、火車の顔の一部が弾け飛ぶ。しかし、まだ化物の動きは止まらない。舞はもう一度、引き金を引いた。銃弾は火車の目を貫き、動きが少し鈍くなった。

「わあああああああああああああ!」

 舞は絶叫をあげ涙を零しながら、引き金をありったけ引いた。銃声が何度も何度も鳴り響いた。

 カチッカチッと銃が空の音を響かせるころ、火車は動きを止めていた。

「はぁはぁはぁ…。倒せた……?」

 舞は重くのしかかってくる火車の体からなんとか這い出し、もう動かなくなったそれを茫然と見つめる。火車の、いや人間の遺体へと戻ったそれは、さきほどまで恐ろしい化け物として動いていたのが嘘のように、静かに地面に横たわっていた。

 胸に灯っていた禍々しい炎も消えている。

 体からどっと力が抜ける。いまさら指先が小刻みに震えだした。

 恐ろしかった…。もし火車を倒す前に銃弾が尽きていたら殺されていたかもしれない。

 倒せたのは偶然に近かった。でも、倒すことができたのだ。

 そこまで自分のことで精一杯だった舞だが、はっと少女のことを思い出す。まだ、火車も二体いるはず。

 しかし振り向いた先で舞が見たのは、倒れ伏した二体の火車と、しっかりと地面に立っている少女だった。一体でもあんなに苦戦した舞に対して、少女の方はあっさりと二体を相手に、労せず倒してしまったらしい。

 それを少し羨ましく思うが、今度こそ本当に安堵することができた。

「良かった。無事に倒せたんですね」

 緊張がほどけ少し淡い笑みを浮かべた舞の顔に、少女は鋭い目をしたまま冷たく言い放つ。

「いや、まだだ」

「えっ…」

 舞の口から茫然とした声が漏れた。

 舞の首に少女の持っていた剣が突きつけられていた。

「な、なにするの…?」

 いきなり首もとに当てられた冷たい刃に、舞の口からかすれた声が漏れる。

「それはこっちのセリフだ。貴様一体何をたくらんでいる!」

 舞はわけがわからなかった。ただ掃火として火車として戦おうとしただけなのに。少女を少しでも助けようとしたはずなのに、一体なぜ、こんなことをされるのか。

「私はただ村が襲われていたから、私は掃火だから、そこにいる人を助けようとして…」

 火車を倒し人々を守るのが掃火の使命。だから、舞も精一杯戦った。幼なじみである二人の掃火に少しでも追いつきたいから。

 しかし少女の冷たい表情は変わらなかった。はき捨てるようにいう。

「しらばっくれるな!貴様も火車だろう!生者そっくりの姿でこの村に近づいて、いったい何を企んでる!」

 舞は少女の言った言葉の意味がわからなかった。

「わたしが…火車…?」

「そうだ!そうでないなら、その胸にともる幻炎はなんだ!言ってみるがいい!」

 舞はその言葉に従うように下を向いた。見えたのは自分の胸元。

 刃が首筋に食い込み、一滴の血がそこから流れる。

 舞の胸に燃えていたのは、先ほどの火車たちと同じ淡く揺れる幻炎。


 そう…。私は死んだのだ…。


「ようやく見つけた」

 声が響いた。涼やかで竪琴の音色のような。

 その声に振り返った舞の目に映ったのは、一人の男だった。

 青く水のように流れる美しい髪に、紅玉のように輝く赤く透き通った瞳。雪のように真っ白な肌は、天女もかくやという美しさを描き、人ではありえない色を持つ髪と目に彩られている。

 舞はその存在を知っていた。火車などとは桁が違う圧倒的な脅威を持った、掃火の真の敵と呼べる存在。もっとも恐るべき力を持った人類の敵。

「か、ぐ、ら」

 舞に刀を突きつけていた少女の声が、その存在の名を語る。その顔は恐怖しているのに、どこか見惚れるようにその声は震え、舞の首元にあてられていた刃が力無くからりと音をたてて地面に落ちた。

 火楽かぐら。人の遺体に偽りの火を吹き込み火車として蘇らせ、とてつもない霊力により炎を自在に操る化物。

 まるで幻影のようにそこに現れた火楽は、その美しい瞳に舞を映して言った。

「さがしたんだよ。僕の小鳥しえな

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