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1.『桜』


永遠とわの命を――。」


***


 ゆっくりと風に桜の花びらが舞う。

 揺れるその桃色の影を、舞は目で追った。風に乗せられた花びらは、ひらひらと空へ空へと舞い上がっていく。

 桜の花びらが消えていった青空は、仰向けに倒れた舞の目にまぶしく輝き続ける。

 ただ呼吸をするのに吐いた息が、血のつまった喉を通り抜け、ごぽりと音をたてた。

 毎年、春が訪れる今の頃は、幼馴染の京也と千香とともに花見にでかけていた。あまりお金もなく、もっていけるものといったら雑穀のおむすびぐらいだったけど、三人でそれを食べるととてもおいしかった。

 暖かい春風が、舞の頬を撫でる。

 なのに体はとてつもない寒さに震えた。

「きょうちゃん…ちーちゃん…」

 かすれた声が、ずっとずっと幼いころから一緒だったふたりのあざなを呼ぶ。

「さむい…いたいよ…」

 一輪の山桜の根元、青空の下、咲き誇る満開の花、景色はとても明るいはずなのに、視界は暗くかすれていく。

 痛いと口ずさんだ胸に響く鈍痛ですらも、そこにある肉、臓器のようにぐちゃぐちゃで、本当は痛いのかもわからない。

「こわい」

 ぽつり。

 ろくに息すらできない喉から、つぶやきのような悲鳴が漏れる。

 すべてが暗く沈んでいく感覚に、恐怖を覚える。

 なのにふと気づくと、その恐怖すら意識から消え去っていることがあり、それがとてつもなく怖い。

 体のふるえすら止まり、ただ舞い散る桜だけが、彼女の体を雪のように覆い隠す。彼女の胸に刻まれた袈裟につけられた傷跡も一緒に。

 きれいな白にかぎりなく薄く紅色を宿したその雪は、胸に降り積もるたび、彼女の身から流れ出る血で赤い花びらへと変わった。しかし、やがて振り続けるうちに、もとのように白くなり、少女の体をまっさらな雪化粧で染めていく。

「たすけて…誰か…おねがい…」

 埋もれいく中で、少女の願いを宿した声がひびいた。

 弱々しく動く唇が絞り出した、小さな声。

 彼女をその根元に横たえさせた桜だけが、その声を聞いたかもしれない。

 やがて涙をこぼした瞳は冷たく渇き、細く小さな指先はかたく固まっていく。

 だんだんと寒さも、恐怖も心から消え去り。目に映った光もやがて消えて。

 固まった唇が最後に震えた。

「生きたい…」

 一番愛おしい人の面影が、まぶたの裏をよぎる。

「会いたいよ…京ちゃん…」

 そうして舞は息を引き取った。


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