最終話 漆黒の夜明けと、僕らの終わらない旋律
非常サイレンが鳴り響くホワイト・ガーデンの正面ゲート。
赤く点滅するライトが、雪のように白い壁をどす黒く染め上げていた。
「……逃がさないよ、太陽くん。君は、連盟にとっての劇薬だ。ここで中和されなければならない」
ゲートの前に立ちはだかったのは、数百人の武装した職員、そして中央に立つ一人の男だった。
真白の父親であり、連盟の頂点に君臨する男――天道ならぬ、神代総帥。
その姿は、俺の父さんにどこか似ていたが、瞳には血の通った温かみが一切なかった。
「お父さん……っ」
俺の腕の中で、真白が小さく震える。
俺は彼女の肩を強く抱き寄せ、冷徹な独裁者に向かって不敵に笑いかけた。
「神代総帥。あなたの娘さんは、もう『真っ白』じゃない。俺たちの毒で、これ以上ないほど鮮やかに染まっていますよ」
「……愚かな。色など、また白く塗り潰せばいいだけの話だ。排除しろ」
総帥の冷酷な合図とともに、職員たちが一斉に距離を詰めてくる。
絶体絶命。だが、俺の後ろに立つ仲間たちの瞳に、絶望の色は微塵もなかった。
「……たいようくん。合図を」
美桜が、手にしたハサミを月光に反射させ、恍惚とした表情で俺を見つめる。
「ぼくの鼓動は、もう誰にも止められない」
颯太が大地を蹴り、空気を震わせるような重低音を響かせた。
「わたしの歌で、この偽りの静寂を、粉々に砕いてあげる!」
小春の咆哮が、防壁を突き破らんばかりに響き渡る。
「……私はもう、隠れない。太陽くんの隣で、世界一の華になってみせるわ」
陽菜が、かつてないほど気高く、本物の笑顔で舞う。
「脚本は、書き換えました。……ここからは、私たちの逆襲の物語です」
月乃が、千の感情を宿した瞳で総帥を射抜いた。
俺というプロデューサー(太陽)を中心に、六人の異能たちが、一つの完璧な『星座』を描き出す。
美桜が投げ放った赤いインクが、月光の下で花火のように弾けた。
小春の歌声が風を巻き起こし、颯太のリズムが大人たちの歩調を狂わせる。
陽菜と月乃の演舞が、連盟の兵隊たちを幻惑し、その戦意を根こそぎ奪い去っていく。
「……馬鹿な……。子供……たかだか子供数人のパフォーマンスで、連盟の規律が……っ!」
神代総帥が、初めてその端正な顔を驚愕に歪めた。
俺は混乱の渦中、ゲートの隙間から見える「外の世界」――眠らない街の灯りを見つめた。
このインキャだらけの世界。目立つことが罪であり、才能が病だと呼ばれるこの狂った社会。
「神代さん。覚えておいてください。俺たちは、あなたの作った檻には収まらない」
俺は真白の手を引き、一歩、光の届かない夜の街へと踏み出した。
「俺たちが大学生になり、本物のエンタメを世界に叩きつけるその日まで……せいぜい、その高い椅子で震えて待っていてください」
背後で、美桜が楽しそうに笑い声を上げる。
彼女の執着も、仲間たちの情熱も、すべてを飲み込んで、俺は『二度目の人生』の真の目的へと走り出す。
大人たちが築き上げた偽りの秩序を、俺たちの原色の毒で塗り潰すために。
朝日が、地平線の彼方からゆっくりと顔を出し始めた。
それは、連盟が定義する「正しい太陽」ではなく、すべてを焼き尽くす、俺たちだけの「漆黒の夜明け」だった。
「……さあ、行こう。俺たちの本番は、これからだ」
夜明けの街へと消えていく六人の背中。
その物語の続きは、まだ誰にも予測できない。




