2:拠点と秘密
『お帰りなさいませ、オーナー。』
「えぇただいま。特に問題ありませんので、すぐに作業を。」
『かしこまり。』
私達の拠点に帰って来てすぐに迎えてくれるのは、何体もの人型ドロイドたち。
キャタピラの脚部と4本の腕が特徴的な私達の家族とも呼べるような子たちです。『私』の作品の一つで、完全自立型。既に仕事のため倉庫の方から何体も出てきているのが見て取れます。
そんな様子に微笑ましさを覚えながらも、最初に声をかけてくれた子にドレッドのスピーカーで返答。ここまで牽引して来たミミズの肉体をいつもの場所に転がしながら、解体作業をお願いしておきます。
「……最初は殺風景な場所でしたが、色々と増えましたよねぇ。」
(だな! 人は『アタシら』だけだけど!)
この場所の名は、『給油所』。
私達の拠点であり、前世で言う所のガソリンスタンドのような場所です。オーナーを自身が勤め、『私』がメカニック全般。それ以外をドロイドが担当する店という感じですね。
まぁ前世でいう所の原油がミミズの血なので、ガソリンを売っているわけではありません。さらにミミズ肉の販売や、ドレッドによる害獣駆除などの依頼も受付中。自宅も兼ねているため純粋な『給油所』ではないのですが……。客の全員がこの名で認識している以上、そうなのでしょう。
『サイシュサイシュ、血集メ。』
『らじゃらじゃ』
『オーナー、もっとキレイに倒せ。弾痕の処理メンドイ。神経狙エ。』
「今日は外してしまいまして。すみませんがよろしく頼みます。」
『メンドイ』
『わかる』
『休ミクレ、週休7日』
(……コイツら生意気だな。バラすか?)
「すぐ解体しようとしない。」
っと、私も仕事をしなければ。
自身の胸に刺し込まれていたコード群を引き抜き、コックピット内へと格納し隠蔽。一度全て確認し終わった後に、ハッチを開き外へと顔を出します。地上へと降りるリフトに足を掛けながら店の様子を眺めてみれば、見慣れた景色をドロイドたちが様々な声を上げながら走り回っている。
そんな賑やかな様子を楽しんでいると、ようやく地上へ。
ゆっくりと降り立ち、少しだけ伸び。体に付着した砂を払いながら歩いていると、此方に走り寄って来る影。わざわざ用意してくれたのだろう、一体のドロイドがタオルとタブレット、そして水の入ったボトルを運んでくるのが見える。
『お疲れでしょう。冷やしておきました。』
「わざわざすいま (もらいッ!) あ、ちょッ!?」
それに礼を言い受け取ろうとするが……、急に操作権が私から『私』へ。
全身を動かすのが面倒だったのでしょう。右腕だけを動かしボトルを奪い取った彼女が、無理矢理に飲み口を口へと叩き込もうとする。急なことで反応が遅れたが、何とか受け入れ喉を動かすことに成功。内心ほっと息を吐き出しながら、もう片方の手でドロイドの言葉を促しておく。
『業者が一件、個人が三件。ご指示通り血油を販売。詳細はデータで送りますか?』
「んっ、っと。えぇ、そのようにお願いします。それと業者は、いつもの方で?」
『ですです。生活物資等の受け取り、及び次回注文データ受け渡し済み。』
私達が経営するここは、人々の居住地からかなり離れた場所にあります。
元々の持ち主である母や、『私』。彼女達が他人と話すことを好まないこと。そしてミミズなどの現住生物を保管するのに広大な土地がいることから、何もない砂漠の真ん中に居を構えている形ですね。
人や物が集まる町から離れているため、不便を感じることもありますが……。
先ほど言った業者。私達が血や肉を卸している者に頼めば運んで来てくれるし、細々としたものであればドロイドに買い出しを任せれば問題はありません。割増料金となりますが、配送もあるのです。生活に困るレベルではないでしょう。
まぁ私個人としては、“彼女”のコミュニケーション能力向上のため、もっと多くのに人間と触れ合って欲しいと思っているのですが……。
(うるせ。……あとアタシ、変わるぞ。)
「えぇどうぞ。」
そう返答し、全身の主導権を彼女に手渡してみれば、ドロイドの頭部のボタンを押し発声用のスピーカーをメガホン代わりに。その声が作業員として働くドロイドたち全員に届くよう、声を張る彼女。
「おいお前ら! アタシが食べる分の肉取っとけ! あと血は残ってるから全部処理してタンクぶち込んどけよ!」
『らじゃらじゃ。肉は何日分ですか?』
「前の分もう食い切っちまったから冷蔵庫一杯に!」
そういうと、すぐに主導権を私に返してくる彼女。
言われてみれば確かに食料が切れていたはず。わざわざありがとう『私』。
……でもいくら肉が好きでもそれだけ食べるのはいけませんよ? いくら遺伝子を書き換えられ元の人類を超越した私達でも、必要栄養素が足りなければ体を壊すのです。まともな医療にありつけないのですから、普段から気を付けなければなりません。
確かに私と『私』は同じ体なので、残した野菜などを全て押し付けても問題はないと思いますが、好き嫌いは良くない……。あ、まただんまり? 都合が悪くなるといつも引っ込みますよね。
「はぁ、まぁいいですけど。……失礼、ドレッドの方も並行して行えますか?」
『可能、問題なしなし。』
お願いするのは、私達が先ほどまで乗っていた機体。『鐵山』改。
正確にいうなれば“風防社製・第十三世代型ドレッド”。防塵特化作業機『鐵山』の改造機です。といっても、もう一人の私によって本来とは比べ物にならない程の改造が施されているので、この名を使っていいのか解りませんが。
まぁ元々ただの作業機を戦闘用に改造しているので仕方ない所はあるのですが……。
そんなことを考えながら、いつも通りドロイドにお願いするのは、補給と作業準備。
彼らは『私』が生み出したドロイドなので高性能なのですが、流石に“修理”までは出来ません。担当である『私』が自身の作品にあまり他人の手を入れたくないこと、そして私がハッキングなどを警戒するため、このような形になっています。
「ではいつも通りコックピットには触れないように。弾薬の補充を。あと右足が不調の様でしたので、その整備の用意もお願いします。それが終われば店番の子以外は休憩してもらって大丈夫ですので。」
『かしこまり。』
「私は自室で書類整理などをしているので、何かあれば連絡してくださいね。」
そう頼み軽い会釈を送りながら、店舗の中。そしてその中にある私たちの居住スペースに入って行きます。
幾つかの数字を打ち込み、更に物理キーで開錠。扉を開けた後は再度カギをかけ、しっかりと閉まっているかどうかを確認する。そしてこの部屋に誰も侵入していないことを見た後は……。
やっと一息。
「お疲れ様です、“私”。」
(お~う。先にコアの調整終わらせようぜ。)
「ですね。」
彼女と会話しながら、向かうのは部屋の中央に置かれた手術台のような場所。
そこに腰かけ手元のボタンを押してみれば……、ドレッドにて自身の胸に刺し込まれたようなコード達が伸び出てきて、この身に刺し込まれていきます。
「……やっぱ慣れませんね。」
(そうか?)
この時代における人類は遺伝子操作により肉体性能及び強度の向上や、エネルギー摂取効率の向上。放射能含めた様々な環境への強い耐性を獲得しましたが……。人の手によって作り替えたせいか、時たま持つべきものを持たぬ子が生まれることがあります。
早い話、それが私たちです。
(なぁアタシ。心臓とか肺ってどんな感じなんだ?)
「以前と勝手が同じですし、内臓って普通に生きていて認識できるものではないですよ? 言うとすれば脈動、一定のリズムが刻まれる程度でしょうか。」
(へぇ~。)
私たちが生まれながらに失ったのは、心臓を始めとした大半の臓器。
生存に必要なソレを持たない私達はそのまま死を待つのみでした。しかし『私』同様に優秀な技術者であったらしい母はその代替手段を製作。ひとつの動力源、この西暦4000年であってもオーパーツと呼べるような驚異的な炉心を、埋め込んだのです。
「“グリオナイト”、この惑星のみで採取できる緑色に発光する放射性物質。発見当初は新たな動力源として期待されたが、その加工の難しさから研究は破棄され今では石ころ同然の鉱石。」
(それを炉心に仕上げた母ちゃんはやっぱすげよなぁ!)
「……まぁ研究資料を残さずに亡くなられたので結構ピンチなのですが。」
名を『グリオナイト・コア』。
安直な名ですが、その性能はこれまでの人類の作品を軽く凌駕。ドレッドに乗せる様な最新の大型核融合炉と比べても、その性能は数万倍。人の胸に収まる拳大の存在が、規格外の数値を示していて、手持ちの計器では正確な出力数値が測れないレベル。
これのお陰様で私たちは生きていますし、余剰エネルギーをドレッドにつなげて動かすこともできます。
ただ。
この世に生れ落ちて15年。それだけ使い続ければ、少々ガタがくるもので……。
【検査完了シマシタ。先週ト比べ、出力0.02%減少。初期データト比ベルト、14%ノ出力低下ガ見受ケラレマス。スペアノ作成ガオススメデスネ。】
「それが出来れば苦労はしないんですがねぇ。」
(だよねぇ。)
グリオナイト・コアによるエネルギー供給と、遺伝子操作による驚異的な成長。そして私の前世の記憶のおかげか生まれてから1年ほどで母が死んでも、生き残ることは出来ました。
けれど母がこのコアの作成方法を残さず、いえ正確に言えばその作成途中でなくなってしまったため、複製は困難。
『私』が技術方面への興味を持ち、前世の名立たる天才たちが可愛く見える速度で習熟していったため『欠片も解らない』状況ではないのですが……、今だその道筋は見えていません。まだ余裕があるのは確かですが、こう徐々に首を絞めつけられるような感覚は苦手なんですよねぇ。
(コア以外のさ、エネルギー吸い上げて血を循環させたり酸素製造したり水にしたりカロリーに変換する機構はもう複製できるんだよ。簡単だし。)
「簡単とは……?」
(そこまで難しくねぇぞ? んでも肝心のグリオナイト自体の加工が意味不明過ぎて全く解んねぇ。どんだけやっても最終的に爆散しやがる。マジで母ちゃんどうやって安定させたんだ?)
「物が物ですし、気軽に余所へ相談できませんしねぇ。バレれば確実に殺して奪おうとする方々が出てくるでしょうし。」
この西暦4000年の時代でも、このグリオナイト・コアの出力は異様の一言。
鉄器時代の者に核兵器をプレゼントするかのような技術差が、このコアには存在するのです。
そんなオーパーツを手に入れられるとなれば、小娘一人の命などどうにでも出来るでしょう。これ一つで星のエネルギーの大半を賄えてもおかしくありませんし、ドレッドに乗せれば半永久的に動かせる巨大ロボ、宇宙戦艦に乗せてしまえば星も砕ける超兵器の完成。
確実に、欲しがる者がいます。それも私達では対処できない強大な存在が。
私も『私』も好き好んでモルモットになる様な趣味はありませんし、バラバラにされてコアだけ抜き取られるつもりもありません。故に隠す必要があり、同時に身を護る力が必要でした。
それに、可能ならこのオーパーツをもって母の名を全宇宙に知らしめ、その劣化版を生み出すことでより豊かな生活を手に入れたいんですよね。
いまの収入では地球に旅行に行くことすら不可能ですし……。
「まぁいくら思い悩んでもアイデアが出ない時は出ないのです。先ほどタブレットで確認しましたが、業者の方々が大量の水を運んできてくれたご様子。どうです、シャワーでも浴びてリフレッシュというのは。」
(いいな! ……でも一回ぐらい風呂って奴に入ってみてぇ。)
「流石にそれはちょっと……。」
砂漠の惑星ですから、水が高いんですよ。
流石に数百リットルもお風呂に使っちゃうのはもったいないといいますか、まだ手が出せないといいますか。
飲み水はもちろんドレッドの整備やミミズ関連の処理にも水って必要ですからねぇ。もうちょっと経営がうまく行けば色々と事業を拡大できると思いますので、それまで我慢してくださいな。
(ちぇっ。りょうかーい。んじゃ今日はアタシの番だったから変わるぞ?)
「えぇ、ごゆっくり。」
〇主人公・肉体名“セファ”
先月15になったばかりの銀髪の少女。
遺伝子操作による成長速度の向上により、成人年齢が大幅に引き下げられているため既に成人済み。
『私』と『アタシ』の二つの人格が存在し、『私』の方は過去から体に入り込んでしまった存在、『アタシ』がその肉体に元々いた人格だと彼女たちは判断している。産まれた時からずっと一緒だったせいか、人格間の仲は良好。『私』が前世の経験を元にした経営系のスキル、『アタシ』が純粋な才能による工学系のスキルを保有している。また人格ごとに瞳の色が若干変化し、『私』が赤、『アタシ』が緑となっている。
肉体強度・出力共にこの時代のトップレベルになるよう遺伝子操作が行われたが、彼女たちの母の記録によると事故により内臓器官の大半を失った状態で生れ落ちた。それをグリオナイト・コアを始めとした機械類で補っているため、分類的にはサイボーグに位置する。
現在の夢は地球旅行、出来たら移住。けれど宇宙船のチケットが高すぎる上に地球自体の物価も凄いことになっているためかなりの額の資金が必要となっている。現代の感覚に合わせると一般人が一人でアメリカの国家予算用意しようとする感じ。
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