18:試作品
「それで、どうです首尾は。」
(……形にはなったが、ドレッドに積めねぇ奴だ。失敗作だな。)
「形にしてるだけで凄いんですがねぇ?」
そんなことを言いながら、彼女が作り上げた箱を見上げる。
ドレッドよりは小さいですが、それでも一辺10mの立方体。そこから伸びたコードが20mほどの筒へと繋がり、その中を覗き込めば発射口になっています。
何かと言われれば、ビーム砲。
どうやらウチのメカニックは一晩でこれを作り上げてしまったようで……、驚愕でしかありません。というか町で物資を買い込んで食事して帰って来たのが夜8時ぐらい。その後は肉体操作を彼女に任せていましたが、徹夜で作業した形跡は見られません。つまり実働は数時間程度。
いくら一旦設計図をデータ化してしまえば、後の作成はドロイドに丸投げ出来るとはいえ……。
「ヤバくない? というか昨日の夜『このままじゃ砲身が溶けるッ!』とか言ってませんでしたか? ……もしかして解決した?」
(まぁ一応。)
……やっぱウチの子はバケモノですね。はい。
こ、こういう技術開発みたいのって多くの人間が数か月、数年かけて形にしていく奴ですよね? た、たしかに“ビーム兵器”自体は宇宙戦用のものが実在するらしいですが、地上ではまだ使えないって話でしたよね? な、なんで一晩で形にしてるんですか……? い、いや『私』の腕を信用していないわけでは無いのですが……。
(でも全然だぞ、コレ。荷電粒子砲の『空気による減衰』は解消出来てねぇし、サイズダウンもまだ。重すぎてホバーじゃ運べねぇ。デカい、重い、威力低い。タダの的だなこりゃ。)
「いやそれでも“撃てる”んでしょう? 十分凄いですよ……。」
あまり釈然としない『私』ですが、こっちは違います。
自身の前世である2000年代では、ビーム兵器など欠片も存在しませんでした。そしてこの星から出たことのない私達にとっても、未だ射撃武器と言うのは“実弾”によるものです。説明を聞く限りまだまだ未完成なのは理解できますが、これまでの常識がひっくり返るような雰囲気を醸し出しています。
彼女の技術力が並外れているのは理解していましたが……。母も母ですし、娘も娘ですね。何ですかこの人たち。バカみたいな出力の動力源作ってるし、ビーム兵器を1から作ってるし。
(いやお前も娘だろうが。ウチの経営支えてんのお前だぞ? 『アタシ』いなかったら今頃餓死してるぞ私? だって稼げねぇもん。だから胸張れ胸。)
「うぅ、『私』が優しい……! っとまぁ茶番はここまでにして。“ドレッド戦”で使えないのは儘ならないモノですね。」
(だな、拠点防衛にも使えねぇだろうし。)
現在の私達は、『軍』もしくは『商会』との戦に備えている状況です。
確かに回避できるのであればそうしますが、そう簡単に行かないのが現実というもの。両者ともにメンツを重要視しますし、私達が『彼らは砂賊と繋がっている』というスキャンダルの証拠を握っている限り、殺しに来るのは間違い無いでしょう。
頭を下げ靴を嘗めることで生き残る道が開けるかもしれませんが、“この胸”には誰にも明かせない秘密があるのです。
ならば“殺しに来る敵”を殺す以外の選択肢はありません。
故に戦力の増強は必須。そのために彼女も“ビーム兵器”という新しい力に手を伸ばしたのですが……。
「固定砲台、のような使い方も難しいのですか? このビームは。」
(あぁ。アタシらのコア前提で設計してるせいで消費電力がヤバい。こっちと繋げれば砲身焼き溶けるまで連射自体は出来るだろうが、それ以外は無理だ。
「家の動力源、そこまで強いわけではないですものね……。」
私達の家である『給油所』には、複数の動力源が存在しています。
地下に埋まっている大型の原子炉や、外の家屋内部にある小型原子炉。あとはこれまで“採取”してきたドレッドたちの炉心あたりでしょうか。我が家ではそれをぶん回し、家の電気にしているのですが……。そのすべてがこの胸に納まるモノ。“グリオナイト・コア”の足元にも及びません。
もう一人の『私』が言うには、1度くらいの照射であれば耐えられる様ですが、撃つまでにかなりのチャージを必要とし、更に使った後は家の電源が全てストップ。再充電までにかなりの時間を必要とすることから、拠点において固定砲台とするのは難しいようで。
(バッテリーとかで電気溜めておけば何とかなるかもしれんが、そんな莫大な電力溜められる機構がねぇ。……宇宙でやってる奴ってもっと小型化してんのか? ドレッドの炉心で撃ててるってことはもっと燃費いいって事だろ? なんか根本的に間違えてる気がすんな……。)
「ま、まぁまぁ。今は形に出来たことを喜びましょう?」
そう口にしてみますが、根っからの技術者である彼女は満足いっていない様で。またうにゃうにゃと考えを口に出す機械と化してしまいました。既に専門的な話になっていて全く解らなくなって来ましたね……。
にしても、折角形になったモノが活用できないというのは色々と悲しいもの。
このままでは即座に『私』がばらして再利用コースにしてしまいそうです。折角のビーム兵器第一号なわけですし、私個人としては何かしら良い活用方法を見出し、好きなだけビームを乱射してみたい所なのですが……、
「あ、そうだ『私』。このビーム砲、“アタッチメント”にすることは可能ですか?」
(は?)
「いやほら、私達の“炉心”であれば電力の問題は解決するのでしょう? でしたらドレッドに装備として連結出来る様にして、遠距離から砲撃。敵が近づいて来たらパージ、みたいな。ほら一緒に見た昔のロボットアニメであったでしょう? 合体強化パーツみたいな。」
ガン〇ムのコア・ブースターとか。戦隊モノの後期搭乗ロボットとか。
なんかいい感じに装着したり取り外したり出来る強化パーツ。重くて的になるのならば、取り外してすぐに離脱できる感じの“武装”に落とし込めれば……
(……『アタシ』、天才か?)
「あ、お気に召しました?」
(もっちろん! あぁそうだよ! なんで思いつかなかったんだ! 無理なら無理なりの使い道あるじゃねぇか! 確かに大気中じゃ霧散しちまうせいでそこまで飛距離は伸びねぇが、大出力で撃っちまえばソレもひっくり返る! 莫大な電力で無理矢理に火力と飛距離を伸ばす! 普通じゃ不可能だが、アタシたちの“コア”なら……!!!)
お、なんかいい感じのサポートが出来たみたいですね。さっきよりもテンションが上がっていて何よりです。
……あ。そうそう、そう言えば。
前世の記憶と言いますか、2000年前の知識で申し訳ないのですが……、荷電粒子砲って砲弾になるレベルまで荷電させたら砲身どころか周囲巻き込んで大爆発したような気がするんですが。その辺り大丈夫なのですか? ガン〇ムの事象を実際にやってみようとしたら理論段階でそうなるからどうしようもない、って話を聞いたことが……。
あ。その辺りはもう解決してる。相変わらずヤバいですね『私』。
ま、まぁ一度形になったのです。貴女ならばその先もすぐにたどり着くことでしょう。なにせこんなところで止まる『私』ではありません。活用方法も思いついてくださったようなので、これからどんどんと躍進していくことでしょう。
それに、いくら力が必要と言っても、すぐにビーム兵器が必要な訳ではありません。昨日買い集めたドロイド用のミサイルランチャーは配備済みですし、出発前に設置した『プレゼント』もあります。ドレッド用の武器弾薬の補給も少量ながら完了済。
相手の“規模”がはっきりとしないので言い切ることはできませんが……。以前私達が消し飛ばした砂賊程度の規模であれば、秒で対処が可能です。倍以上でも『私』の手を煩わせることは無いでしょう。
貴女は何も気にせず、今ある“力”を更に高めて行って頂ければ。
(……だな! っし! 気合入れてくぞ『アタシ』! とりあえず一回試射してどれくらい威力減衰するのか確かめる! 理論と実地じゃ差が出るからな! みんな大好き実験タイムだッ! しゃァ! 気合入れてぶっ放す……)
「あ、すいません。それ明日でお願いします。」
出鼻をくじかれ、精神の中で思いっきりコケる彼女。
いやここから色々と試していく流れだろうが! と突っ込んできますが……。実はもう予定入っちゃってるんですよね。ほら貴女、昨日ずっと奥で設計とか研究してたから知らないでしょうけど。今日軍の方々が来るんですよ?
この前やって来た軍曹さんと少尉さん。あのコンビです。
(そ、そうなのか?)
「えぇ。実はあの後、夕食もご一緒させて頂いたのですが……。その時に許可が出たみたいでしてね。私たちの拠店周りのパトロールを実施してくれる様で。」
私達が倒した砂賊は、公的には『なんか近くにいる現住生物にでも食われたんじゃないですかね?』という形になっている。
何せ賊が軍のドレッドを使用していた以上、明らかに厄介ごとです。更に発信機が付いていたとなれば、その厄介度は跳ね上がります。“その現在地を把握していながら放置していた”ということは、砂賊とその後援者。『軍』か『商会』が裏で雇っていたということに他なりません。
本来ならその後残骸を売り払ったり、大本が解らなくなるまで改造する予定でしたが……、思ったより早く軍が“こんにちは”してきちゃいましたからね。
「話した感じ軍曹さんはすごくピュアな方だったので、大丈夫だとは思いますが……。あの少尉がどこと繋がっているかは解りません。急に軍団引き連れて殺しに来ないとは言えないのです。」
(だから更に力が必要、ってわけだな。流石にそこら辺は覚えてるぞ? ドロ猫じゃないんだし。)
「それは何より。」
してその後の話なのですが……。
何でも“レオネッタ”を名乗る軍曹さんからすれば『善良な市民が現住生物に困っている!』と感じたようで。私達が付いた嘘を信じ、『賊を粉砕出来る現住生物がセファさんの拠点近くに潜んでいるかもしれない』と推察。その討伐計画を考えたようです。
しかしまぁ一部支援者の私軍みたいな軍部から許可が出るわけないので、パトロールという名目で現住生物を探し、偶然遭遇して討伐。もしくは情報だけでも持って帰る、って形にしたいみたいです。
食事の席でお酒飲ませたらなんか愚痴ってくれました。
(なるほどなぁ。……いい奴みたいだし、なんか騙してるみたいでわりぃな。)
「えぇ。しかし私達の財産を守るためです、飲み込むしかないでしょう。それに、彼女の動きから『軍』の様子、そして軍に多額の寄付金を送っている『商会』の様子が探れるかもしれません。今はご厚意に甘え、繋がりを維持すべきでしょう。」
それに、本当に現住生物が潜んでいる可能性もあるでしょう?
今回の“砂賊関連”は私たちの仕業ですが、『この辺りに現住生物が潜んでいない』と言い切ることはできません。色々と対策を取ってはいますが、彼らは急に現れますからね。普段こちらで行っているパトロール作業を変わって下さるのであれば、拒む理由など無いでしょう。
実際、ミミズ以外にも危険な現住生物というのは多くいるのです。
手のひらサイズではありますが砂以外の全てを食い尽くすバッタや、固い甲殻に覆われ毒を持つサソリ、あとは倒しても何の価値もないゴミムシとか。虫系だけでなく獣系もいますので、本当に砂漠は生身で出歩くような場所ではありません。
「こちらから多少感謝の気持ち、金銭の支払いが必要でしょうが、払うものを払えば一定期間パトロールを続けてくれることでしょう。軍曹さんとはもう“仲良し”ですし……。」
(一定の投資で情報とパトロール要員を確保する、ってわけか。……まだ2回ぐらいしか顔合わせてないよな?)
「ふふ、接し方を変えれば落としやすい方でしたよ?」
食事をおごり、愚痴を吐き出し、善良な市民を演じる。
此方も既に彼女が愛するであろう軍規は抑えています。生き残るためにそれに反したことは確かにありますが、上手く隠せば彼女にとって『守るべき存在』になることは容易い。後は一定の恩を感じさせて、それを返す手段を整えさせる。
後は自分の口から、自分の意思で言って頂ければ……。
「ふふふ?」
(……いっつも思うんだけどさ、『アタシ』の前世って何の仕事してたんだ? いつの間にか商路開いてるし。業者と契約して食い扶持作ってるし。『給油所』の経営したと思ったら、足付かないように“裏マーケット”からパーツ買って来るし……。)
「技術は貴女のおかげで何とかなりますから。後は“ここ”の使いどころという奴です。」
ま、私より“上”の存在などごまんといるでしょうから、自慢なんて出来ないんですけど。
とまぁそんなわけで、ビームの発射試験は後日に回して頂けるとありがたく。流石にあちらも毎日は来ないでしょうし、おそらく予算的な関係から数回やって来て終わりになるでしょうが……。軍曹や少尉に金や物資。もしくは食事などを投げつけて良い感じに継続させる予定です。その合間にやって頂ければと、って感じですね。
(ん、了解。……継続させるってことは、“戦力”に数える、ってことか?)
「えぇまぁ。期待は出来ませんが、一応と言うやつです。」
彼らにパトロールしてもらうのは、伝手を保ちあちらの情報を仕入れること。パトロールによって周囲の安全を確保してもらう事。この2点がメインですが……。もう一つ理由が存在します。
もし『軍』か『商会』と戦になった時、その予備戦力ですね。
まだ顔を合わせたことのない少尉がどう行動するかは解りませんが……、軍曹さんは確実に味方になる事でしょう。もし軍や商会が善良な市民である私を抹殺しに来れば、彼女は止めにいくタイプの人間です。その後、彼女がどうなるかは解りませんが……。
少なくとも味方のドレッドが1機増えるのは確かです。
相手はどちらも大勢力、味方が増えるのは喜ばしいですし、相手の動きを鈍らせる存在がいるのであれば使わない手はありません。
(……ん。まぁその辺は任せるわ。んじゃその軍曹とやらが来ないタイミングで実験するとして……、これからドレッドの方はいつでも出撃できるようにスクランブル態勢維持させとくわ。ドロイドたちの仕事が増えるが、まぁいいだろ。)
「えぇ、そのように。」
(りょ。)
〇この世界における人類の歴史
大半がこの世界(現実)と同じだが、1940年代にとある出来事が起き、幾つかのオーバーテクノロジーが生まれている。ドレッドの第一世代(旧名:特機)が生み出されたのもちょうどそのころ。
それから着実に技術を積み上げ、2200年代に太陽系の外に入植をし始めるようになり、どんどんとその生活圏を広げていった。ちなみに未だ異星人は発見されておらず、現在の銀河系における知的生命体は人類だけ。
セファが言うように統治体制などに起因する星間戦争が何度か起きており、2200~4000年の間で5度ほど人類が絶滅しかけている。そのせいでそれまでの文化・歴史・技術が何度も失伝しており、ドレッドに置いても第十二世代と第十三世代の間に大きな溝が存在している。既に稼働している機体は存在しないらしいが、第十二世代ドレッドは現在の最新鋭機よりも高スペックだったとのこと。
一応これまでの技術などを全て記録・保管し続けている企業があるそうだが……。現在のセファたちには関係のない話。
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