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二重人格パイロット、銀河辺境砂漠型惑星にて  作者: サイリウム


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17/19

17:しろごとひ



「はぁ。なんで今日に限って非番なのでしょう。少尉殿もどこかに消えちゃいましたし。」



軍服ではなく私服で町を歩くのは、昨日セファの店に顔を出した『レオネッタ軍曹』。


彼女としては『善良な市民から軍の信頼を取り戻す』と息巻きセファの店舗周辺をパトロールしに行きたかったのだが……、上に止められ休みにされてしまったのだ。抗議しようと思った彼女だったが、『ちょっと調べたいことがあるし、ここはそのまま受け入れてくれないかい? ほらパトロールの申請すぐに通るよう動いておくし』と言う少尉に従った形である。


ちなみにその非番の理由だが、表向きは『ドレッドの連日搭乗はパイロットにもドレッドにも負担がかかる』というものだ。事実、軍の規定では長時間のドレッド搭乗を避ける様なモノがあるため、彼女としても断ることは難しい。その裏で軍上層部と『サンドライン商会』が動いていることを理解していても、だ。



(正直、軍が一商会の指示を受けるなど間違っています。ですが軍もお金がないのは確かで、支援がなければやっていけないのも確か。しかも軍規にはその辺りを指摘する文は一切ないですし……。)



この惑星ザイオラの軍の設立目的として市民の生活を守る、というものがある。


現住生物や砂賊といった外敵から民を守り、また町内部の犯罪に対しても取り締まり抑止力となる。しかし辺境で砂漠しかないこの星は軍も当初から資金不足に陥っており、『支援金』の受け取りに関してはかなりなぁなぁというか、むしろ推奨する様な文面がルールとして定められていた。


そのおかげで一部企業や資産家からの支援を受け、装備の拡充を行える軍。彼女も比較的新しいドレッド、第十四世代型ドレッドである『アヴァランス』に乗れているのはこのゆるゆるルールによるものなのだが……、公平に市民の安寧や財産を守れているのかと言うと首をかしげてしまうような状態。


普段は自分を厳しく律し表情筋すら動かさないように努めている彼女だが、非番ということも重なり酷く落ち込んだ表情を表に出してしまっていた。



「……はぁ。気にしても仕方ないですね。少尉殿もパトロールの件に関しては肯定してくださりました。今は休み次の任に備えるのが軍人として正しい行動。何か甘いものでも食べてリフレッシュしましょ。」



そう言いながらゆっくりと飲食店が並ぶ地区へと足を向ける軍曹。どうやら目的地は決まっているようで、その足取りは落ち込んだ顔とは対照的に、少々早め。


辺境の惑星の辺境都市というだけあってあまり物資も活気もない町ではあるが、甘味を提供するカフェのような店舗は存在している。少々高額ではあるが、品種改良を施したサボテンを凍らせ砕いた氷菓子が有名な純喫茶が彼女のお気に入り。


砂糖を少し焦がした香ばしいキャラメルソースをかけ、ワインと混ぜた暖かいミミズの赤油と共に食べる。現代人が聞けばミミズの部分で一気に食欲が失せるデザートだったが……。この時代、そしてこの星の人間からすれば極上のスイーツ。ストレスも疲労も吹き飛ばせる、最適な一品だった。


いつの間にか曇っていた顔が晴れ、ほんの少しだけ口元に涎を垂らした彼女が足を進めていると……。



「あら、軍曹さん。」


「……オーナーさんですか!?」



軍曹ちゃんが昨日伺った店舗のオーナー。


彼女が猫耳の子と一緒にそのデザートを食べているではありませんか。


しかし彼女の驚きは、『仕事先の知人とたまたま街中で会った』ことにではない。いや確かにそれに対しても驚いてはいたが、メインは違う。何せ昨日見た彼女は庇護欲を刺激されるというか、子供っぽさを全面に出すというか。ともかく幼い見た目をしていたのだ。


しかしながら完全の彼女は……、酷く大人びている。一瞬別人かと思う軍曹だったが、顔のパーツが完全に同じ。そして声も変わらない。雰囲気だけ全く違う、同じ人間だった。




「ん? あぁそう言えば素では始めてでしたね。改めまして、セファです。郊外の給油店でオーナーをしています。普段はメイクなどで少々雰囲気を変えていますが……、よろしくお願いしますね?」


「あ、はい……。い、いえ失礼しました! レオネッタと申します!」


「驚かしてしまって申し訳ない。仕事上色々ありましてね。……ほら、レオネッタさんも昨日は気合を入れていらっしゃったでしょう? それと同じです。」



暗に昨日の鉄面皮とは酷く違いますね、と言いながらそう説明するセファ。



「す、すいません……。」


「ふふ、ではお互い気にしないということに致しましょうか。あぁそうだ。折角の機会ですし、ご一緒にどうです? この場は持たせて頂きますし……。あ、ドロ猫。貴女もそれでいいですか?」


「うにゃ? にゃ!」


「(ドロネコ……?)で、ではお言葉に甘えてご馳走になります。」



名前に少々違和感を覚えながらも、席に座る軍曹ちゃん。


足早にやってきた店員に注文を終わらせた後、何でもないように彼女は2人の観察を始める。何せ仕事一筋で昨今の流行に疎いのは軍曹ちゃんも自認するところ。普段のように1人だけならそこまで気にすることはないが、何せ今日は同席が2人もいる。恥をかかぬためにも、情報収集は必須だった。



(戦場でも状況把握は必須! ここは一時“見”です!)



そんなことを考えながら、まずは『セファ』に目を向ける。


そんな彼女の眼の前には血油で作った紅茶が置かれており、少々古めかしいが何かの作法に乗っ取って茶を嗜んでいるように見える。節々から余裕というモノが見え隠れし、上品さを保っている。茶を嗜まずこのような場ではスイーツしか頼まない軍曹からすれば、それが何に起因する作法か皆目見当もつかなかったが……。“整っている”ことだけは理解できた。


対してもう片方は、猫耳の少女。あまり慣れていないのか、不格好に握る匙と共に氷菓子と格闘しているのが見える。なんども零してしまっており、食べ方も作法を学んでいるとは到底思えない。しかしながら一口ごとに表情を嬉しそうに変えるのは、可愛らしい幼児を思い出させる。


ここだけを切り出せばまるで親子のようだと感じる軍曹だったが……。顔のパーツが明らかに違うし、セファが猫耳に送る優しい視線も、子に向ける様なモノには見えない。


ただ彼女達だけの信頼関係のようなものが構築されているのは、確かだった。



「おいしいにゃぁ~。つめたくてすき! セファ!」


「冷えてお腹壊しますし、晩御飯食べられなくなるからお代わりは駄目です。」


「そんにゃ……。」


「あ、あの。お二人はどんな関係で?」



いややっぱり親子だわ。と思い直し、思わす聞いてしまう軍曹。


それを受けようやく自分たちの様子を客観視したのだろう。ドロ猫は全く理解できていなかったが、セファはかなり大人びた笑みを浮かべながら、口を開く。



「あぁ、単に雇用者と被雇用者の関係ですよ。あの店舗でバイトとして働いてもらっているのですが……。まぁ少々“個性的”な子で。面倒を見させてもらっているのです。」


「にゃ! ご飯くれるにゃ!」


「……ちょっと心配になるんですよね。本当に。放り出しちゃったら何か途轍もない問題を起こしそうで。」


「あぁ……。」



そのやり取りからドロネコと呼ばれる彼女のおつむがかなり弱いことを察する軍曹ちゃん。


実際町の中で頭を弄られてしまいポンになっている人間はみかけるし、薬などでおかしくなってしまった人間もいる。それに比べればドロ猫は会話が成立しているため、格段にマシな方ではあるのだが……。


確かに放っておくのが怖くなるような子であることは、理解できた。


倫理的な問題から惑星ザイオラでも人のクローン作製などは禁止されているのだが、ご存じの通り倫理は崩壊して久しい。取り締まるべき軍の人間が見て見ぬふりをするせいで、この町でも非合法なショップが存在しており、不良品がよく捨てられている。それに憤りを覚える軍曹であったが、“上”からの命令で動くことを禁止されていた。


こんな人の価値が薄い時代に、他人を保護しようとする人間は驚くほど少ない。


そこに何かしらの理由があろうとも、それによって救われる者がいるのは事実。その言葉に隠れる節々からセファのことを善良な市民だと感じていた軍曹は、その評価を一段階上げる。



「……あ、そうだオーナーさん。」


「セファで良いですよ、レオネッタさん。どうやらお互い非番のようですし、ね?」


「あ、すいません。……あの、今度『本職』の方でお伺いさせて頂いても良いですか?」


「……大丈夫ですが、何かあったのですか?」



一瞬だけセファの反応が遅れたことに少しだけ疑問を感じながらも、すぐに続きを話し始める彼女。



「いえ。ですがやはりあの場所にいたはずの砂賊が急に消えたのは、何かしらの現住生物が潜んでいるに違いないと思うのです。故にこちらで周辺を調査し、安全を確保させて頂きたいと考えています。ちょっと上の許可がまだですので確約はできないのですが……。」


「あぁ、なるほど。それは大変ありがたく。ドレッドはありますが私一人しかいませんし、お客様に被害があれば大変困ります。ぜひお願いしたいくらいです。……あ、寄付金等必要ですよね。申し訳ないのですがこれまでそういったものに関わったことがなく、相場など教えて頂ければ……。」



すぐに懐に手を伸ばし、財布を取り出そうとするセファだったが、すぐにそれを押しとどめる軍曹。確かに軍規だけを見れば金を受け取ることに何の問題も無いが、彼女の心がそれを否定する。


軍曹が思い描く正しい軍人というものは、無条件ですべての市民を助ける存在。そもそも賃金は国から出ているのだ。“それが様々な場所から送られてくる寄付金”で賄われているのは彼女も理解していたが、目の前で財布を出されれば止める以外の選択肢は無かった。



「い、いえ! そんな! 私たちは単にパトロールをさせて頂くだけですので! 頂くわけには……!」


「……なるほど。ではお気持ちに甘えさせて頂きますね。その代わりと言ってはなんですが、よろしければ夕食もご一緒願えませんか? 実は行きに『しろごとひ』を予約してまして。」


「あ、あのお肉の所ですか!? 大人気の!? ぜ、ぜひ!!!」





〇お肉のお店『しろごとひ』


ちょっとお高い鉄板焼きのお店。ミミズ肉はもちろん、かなり高いが牛肉も出してくれる。かなりの人気店で、何かの祝い事がある時は皆この店を使うため、いつも予約が一杯のようだ。


セファ(私)としては欠片も行くつもりはなかったのだが、『そう言えばミミズ肉の新しい卸先になるかも』と思い軽く顔を出したところ、何故か料理人と意気投合して契約を取るついでに予約出来た様子。


ドロ猫とレオネッタと一緒に食事を楽しんだのだが、何故か店の人気メニューである“ハンバーグ”などは2人に一切頼ませず、ステーキなどの一枚肉。ミミズや牛の肉をを目の前で焼いてもらったようだ。


ちなみに、何故かこの付近ではよく行方不明者が出るので定期的に軍が顔を出しているとのこと。






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