12:挨拶
(思ったよりすぐに来たな。)
「ですねぇ、勤勉なことで。まぁ隠蔽は全て終わらせているので大丈夫ですが。……あ、ドロ猫。今から来客ですので、倉庫の中でじっとしていてくれますか? 置いてある食事は食べても大丈夫ですから。」
「ほんとにゃ!? いってくるにゃー!」
警報が鳴り、センサーを確認してみればあの盗賊の『アヴァランス』と似たドレッドが二機。
軽く通信を傍受してみれば、その内容から軍のドレッドだと言うことが確認できました。怠惰な彼らにしては想像以上に早いと驚きこそすれ、既に対策は完了済。こちらが鹵獲したドレッドを隠すためのマニュアルは既に出来上がっており、ドロイドたちにも共有済み。
後は善良な市民として振舞えばオールオッケー、という奴ですね。
懐に忍ばせる用の小金も用意してますし。“もしも”に備えた武器の準備も万全です。
……それにしてもドロ猫はいつ帰るんでしょう? ペットみたいな立ち位置の方なので別にいて困りませんし、食料も普段多めに購入しているので彼女一人増えてもそう問題はありません。おつむが弱いせいかちょっとした失敗は何度かしていますが、一応仕事を手伝う気はある様子。見ていてつい微笑んでしまうような可愛らしい姿もよく見かけるので、私の精神衛生上大いにプラスとなっています。
故にいつまでいてくれても構わないのですが……。大丈夫なんですかね?
(大丈夫なんじゃね? さすがにドロ猫でも何か用があったなら帰るだろうし。あと居ついてるのはオマエが餌付けしてるからだろ。変に懐いちまってるし、もうウチで飼うか?)
「飼うって。いやまぁペット扱いした私も同罪ですか。ともかくこのまま居つくのなら、正規のバイトして雇ってもいいかもしれませんねぇ。お給金どうしましょ。」
(そこら辺しっかりしてるよなぁ、『アタシ』。あいつ、飯の礼って形で手伝ってるだけだと思うぞ。たぶん働いてる自覚もないんじゃねぇか?)
確かにそれに関しては同意見ですが、流石に無給で働かせるのは私の矜持に関わるというか、前世の価値観がブチ切れで殴りかかって来るといいますか。
倫理が終わったこの星の法的に、衣食住を保護したら対象への賃金を支払わなくてもいいという途轍もない悪法があるのは確かですが……。流石にこれに従うことはできません。今はもう存在しなくても、労働者の権利は守りませんと。
あ、それと書類周りも用意しなければなりませんね。どうせドロ猫は税金周りの知識はないでしょうし、彼女でも出来るように手を回しておきましょう。
(うげ、ややこしそ……。)
「実際ややこしいですよ? ですが必要なことですから。」
さ、この辺りのことは後ほど考えるとして。軍のお相手と参りましょうか。
思考を取りやめ砂漠を眺めてみれば、ようやくドレッドたちの姿が見え始めます。
一応相手が問答無用で攻撃を仕掛けてくる可能性を考え、私達も『鐵山』改を整備しているように見せかけながら半起動状態で控えさせています。しかし相手は軍でこっちは市民。あちらが攻撃するまで、動くことは出来ません。犯罪者になっちゃいますからね。
(ですが2機ということは……。)
(本腰上げて攻めて来るわけじゃない、ってことか。)
(えぇ、あちらも様子見なのでしょうね。)
今回やって来たドレッド、軍所属の2機がどんな思惑で来たのかは流石に解りませんが、『私達を消しに来た』というわけではないでしょう。
何せこちらは3機のドレッドとその他大勢の車両を叩き潰しています。私が出来の立場であれば、少なくとも2桁のドレッドは欲しい所。つまり今回の彼らの目的は『偵察』と考えることが出来ます。純粋に『軍』の命令で来ているのか、『商会』が関わっているかは解りませんが……。
(ともかく、『開示できる情報』だけを持ち帰ってもらうことにしましょう。)
(だな。)
2人でそんなことを話しながら、徐々に大きくなってくるドレッドを眺めていると……。
小さく響く音と、上空に打ち上げられる信号弾。見上げて眺めてみれば、青い色が打ち出されているのが解ります。確か軍がよく使用する『今から軍の車両などがそっちに向かいますよー』っていう意味の奴でしたね。
(……少なくとも話す気はある、ってやつか。)
「ですね。……ドロイドたち、いつも通りお客様として扱ってくださいね。」
『らじゃらじゃ』
武装させ待機させていたドロイドたちを一旦下がらせ、代わりに普段通りの店員業務用ドロイドを前に出しておきます。一応その中に武装ドロイドもいますが、武器等は格納してあるタイプの奴ですね。
そうこうしていると、ようやく到着したドレッドが2体。
ドロイドたちにいつも通り来店の挨拶をさせてみれば、あちらのコックピットが開き軍人さんが降りてきます。金髪の女性で、かなりきっちりとした軍服を着ていられます。かなり綺麗に整えられれていますが、服に着られているという感覚はなし。正規の軍人さんで問題は無いでしょう。して階級章は……、軍曹ですね。
そしてもう片方はドレッドの中で待機。なるほどなるほど。
(まぁこっちも見える位置にドレッド出してるもんな、コックピットは開けた状態だけど。警戒するのもやむ無しってやつか?)
「ですね。……いらっしゃいませ兵隊さん。何かご入用ですか?」
小声で『私』にそう返しながら、いつもより弱弱しく幸薄そうな声で、そう問いかけます。
何事も第一印象が大事ですからね。軍が来ると解った瞬間から身だしなみ変えましたし、あちらに警戒を与えないようより幼く、そして消えてしまいそうな見た目になるよう努力いたしました。普段のお客様に対する媚びたものではなく、より柔らかく弱い感じです。
やはり2000年経っても人間は変わらないようで、警戒度ってこう言うのでぐっと変わるんですよ。子供っぽさが見えて、見るからに弱そう。まるで抱きしめて保護したくなるようなこの感じ。若いころはもっと体がロリロリしていたので多用&悪用していましたが、今はある程度成長済。しかし慣れ親しんだこの技術が消え去ったわけではありません。
男性だろうが女性だろうが、初手警戒心0にしてやりますよ! 喰らえ、微笑み光線っ!
「お仕事中に失礼いたします! 小官は第二十六駐屯地所属のレオネッタと申します! お聞きしたいことがあるのですが、責任者の方はどこにいらっしゃいますか!?」
(……あんま効いてない上に普通に子ども扱いされてるだけだぞ、『アタシ』。後なんでそんなふざけてんだ?)
「す、すいません。私がオーナーになります。……あの、何かあったのですか?」
煩いですよ『私』。私だってふざけたい時ぐらいあるんです。
にしても……、本当に効いていませんね。表情にも瞳にも変化が見受けられません。男性に効きやすいよう調整してはいますが、女性相手にも通用すると評判な声と仕草だったのですが……。まぁ仕方ありません。途中で変えても不信に思われるので、このままいくとしましょうか。
にしても、こんなきっちりとされた軍人さんはほんと久しぶりに見ました。基本的に皆さん粗暴というか、軍人じゃなくて何かの荒くれ者みたいな方が多いですからねぇ。私が責任者って言ったとき不信感や疑問より即座に申し訳なさそうな表情浮かべるってよっぽどですもん。
「こ、これは失礼を!」
「いえいえ、よく勘違いされますから……。それで、何かあったんですよね。」
「は、はい! 実はこの辺りで砂賊が出たという通報がありまして、その調査に参りました。この給油所から近い地点でのことでしたので、何かご存じかと思いまして。この日時なのですが……。」
「あぁ、だからあんなにガラクタが散らばってたんですね。他のお客様の邪魔になりますし、景観にも悪かったので片づけちゃいました。」
「か、片づけちゃったのですか……!?」
「はい!」
というわけでもう一度微笑み光線っ! にぱー!
(……あ、やっぱ効いてない。ちょっとへこみそう。)
(そんなんでへこむな馬鹿。)
にしても、うーむ。
話し方からして、何か裏がある様な感じではないですね。見た目と話し方通りの堅い軍人さん。与えられた軍務を真っ当に遂行しようとしている感じなのでしょう。軍の皆さんがこのような方々なら色々と楽なのですが……。ま、どうにもならないことは考えても仕方ありませんね。
それで『私』。先ほどから何か考えている様ですけど、今なら話しかけてもらって大丈夫ですよ? 他に何かないか、って言われてそれを思い出す様に考え込んでるフリしてるので。
(あの後ろで控えてるドレッド、こっちを伺ってるぞ。この軍曹の胸元にしまってるデバイスに電源が入ってるし、会話内容も抜かれてる。機体の方も周囲の警戒のフリしながら、サブカメラはずっとこっちに向けてやがる。警戒すんならあっちだ。)
……成程。何も知らない彼女に対応させて、って可能性もあるわけですか。
「あぁ! 思い出しました! ミミズです!」
「ミミズですか?」
「えぇ! とっても大きなミミズです。この日より何日か前ですが倒してきました! この子と一緒に一杯頑張ったんですよ……?」
そう言いながら、ドレッドの脚部。その先に手を伸ばしながら、愛しそうな笑みを浮かべます。
眼前の彼女、そしてドレッドの中で沈黙を続けている誰かに見せるための行為ですが、実際このドレッドへの思い入れはかなりあります。『私』と共に長い時間を共に過ごした戦友なのです。感情が向かわぬ方がおかしいというもの。
とまぁそんな感じでニコニコしてみましたが、やっぱりこの女軍曹さんには刺さらないようで、表情が全く変わりません。真面目な軍人ドレッド乗りと言うことで、ドレッドの話題でいい感じになるかと思ったのですが……。まぁ良いです。
「……あの、失礼。許可証を見せて頂けますか? それと可能でしたら、その処分したというガラクタやミミズも。」
「もちろんです! ただちょっとミミズ肉は解体してる途中でして、今冷凍庫の方に入れてるんです。あまり綺麗な状態じゃないんですが……、大丈夫ですか?」
「はい、構いません。」
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