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「観測者の外側」  作者: vastum


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■第9話「外れる理由」

 人は、理由を求める。


 なぜそれをしたのか。

 なぜそうなったのか。

 なぜ外れたのか。


 理由があるから納得する。

 理由があるから受け入れる。


 だが。


 理由のない結果は、理解できない。



 神代昴は、静かにモニターを見ていた。


 画面には、収束しない分岐。


 増え続ける可能性。


 そして、わずかに遅れ始めた観測。


「……限界は見えた」


 小さく呟く。


 天城透は、確かにすべてを読んでいる。


 だが、それは無限ではない。


 情報量が増えれば、処理が遅れる。


 分岐が増えれば、選択は曖昧になる。


 そして今、その兆候が現れている。


 だが。


「まだ足りない」


 ゆっくりと視線を上げる。


「遅れただけだ」


「止まってはいない」



 如月玲が椅子を回しながら言う。


「ここまで来てまだ足りないの?」


「もうだいぶ崩れてるでしょ」


 昴は首を横に振る。


「崩れているだけでは意味がない」


「相手は立て直す」


「時間をかければ、また収束する」


 神崎が頷く。


「確かに、時間があれば整理できます」


 堂島が腕を組む。


「じゃあどうする」


 昴は静かに答える。


「理由を消す」



 その一言に、空気が変わる。



 白鷺悠真が目を細める。


「……理由ですか」


「はい」


 昴は続ける。


「今までは、意味を崩した」


「確率を壊した」


「選択を止めた」


「だが」


 少しだけ間を置く。


「まだ“理由”が残っている」


 如月が首を傾げる。


「どういうこと?」


「人は、どんな結果にも理由をつける」


「だから理解できる」


「だから処理できる」


 悠真が補足する。


「つまり」


「理由がある限り、整理可能ということですね」


「そうだ」


 昴は頷く。


「なら」


「理由を与えなければいい」



 黒鉄蓮が短く言う。


「完全なランダムか」


 昴は首を振る。


「違う」


「ランダムにも理由がある」


「今回は」


「“結果だけ”を置く」



 時任紗那が即座に反応する。


「因果遮断」


「入力可能」


 画面に新しいモデルが表示される。


 原因がない。


 途中がない。


 結果だけが存在する。


 異様な構造だった。


「……これ」


 如月が呟く。


「どうやって成立させるの」


 昴は静かに答える。


「成立させなくていい」


「成立しているように見せればいい」



 雨宮澪が笑う。


「なるほどね」


「理由っぽいことを言わないってことか」


「そうだ」


 昴は言う。


「理由を匂わせるな」


「説明するな」


「繋げるな」


 澪はスマートフォンを手に取る。


「任せて」


 画面を開く。


 考えない。


 繋げない。


 ただ、打つ。


「急に全部どうでもよくなった」


 送信。


 それだけ。


 数秒後、反応が出る。


「何があったの?」

「大丈夫?」

「理由は?」


 澪は、次の投稿をする。


「特に何もない」


 送信。


 矛盾。


 だが、否定ではない。


 説明でもない。


 ただ、結果だけ。


 如月が画面を見る。


「……うわ、気持ち悪い」


 紗那が分析する。


「因果関係不成立」


「整合性崩壊」


「解釈不能」


 神崎が言う。


「人は理由を探します」


「ですが、見つからない」


 堂島が笑う。


「モヤモヤするやつだな」


 悠真が静かに言う。


「それが重要です」


「納得できないものは、処理できない」



 神代昴は、その流れを見ていた。


「いい」


 小さく呟く。


 理由が消えている。


 繋がりが切れている。


 それは。


 天城透にとって、最も厄介な状態だ。



 天城透は、静かに画面を見ていた。


 結果を観測する。


 だが。


 その前がない。


 原因がない。


 繋がらない。


「……」


 思考が止まる。


 理解しようとする。


 だが、できない。


 理由がない。


 だから、説明できない。


 説明できないものは。


 処理できない。


「不明」


 再びその言葉。


 だが今度は違う。


 増えている。


 処理できない要素が。


「過多」


 ノートに書こうとする。


 だが。


 繋がらない。


 線にならない。


 点が増えるだけ。



 神代昴は、静かに言った。


「終わりだ」


 その一言。



「理由がないものは、観測できない」


「観測できないものは、確定しない」


「確定しないものは」


 ゆっくりと。


「存在しないのと同じだ」



 如月が息を呑む。


「……それって」


 昴は答える。


「見えなくなる」



 天城透は、静かに目を閉じた。


 観測できない。


 理解できない。


 処理できない。


 それは。


 初めての状態だった。



 神代昴は、最後に言った。


「これで」


 静かに。


「外れる理由も、なくなった」



 理由がない世界では。


 結果は意味を持たない。


 そして。


 意味を持たないものは。


 予測されない。



 それが。


 この戦いの、終着点だった。

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