表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「観測者の外側」  作者: vastum


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/14

■第10話「観測の終わり」

 観測とは、世界を確定させる行為だ。


 見たものを事実とし、

 理解したものを現実とする。


 だから人は、観測することで安心する。


 だが。


 観測できないものが増えたとき。


 その世界は、どうなるのか。



 神代昴は、静かにモニターの前に立っていた。


 画面には、これまでにない状態が映っている。


 分岐は増え続けている。


 収束はしない。


 理由は消えている。


 そして。


 観測が、遅れている。


「……崩れたな」


 小さく呟く。


 確信だった。


 ここまで来れば、もう戻らない。


 天城透の前提は、すでに破綻している。



 如月玲は、椅子から身を乗り出す。


「これ、本当に止まってる」


「処理、追いついてないよ」


 画面を指差す。


 ログが途切れている。


 更新が遅れている。


 明らかに、今までとは違う。


「こんなの初めて見た」


 紗那が静かに補足する。


「観測遅延、拡大」


「未処理領域、増加」


「収束不能状態、継続」


 神崎が言う。


「つまり」


「認識できていない、ということですね」


 堂島が腕を組む。


「ようやく追い詰めたってわけか」



 白鷺悠真は、静かに目を閉じた。


「人は、理解できるものしか扱えない」


「そして」


 ゆっくりと目を開く。


「理解できないものは、排除するか、無視する」


 昴が頷く。


「だが今回は違う」


「排除もできない」


「無視もできない」


「なぜなら」


 少しだけ間を置く。


「それが増え続けているからだ」



 黒鉄蓮が短く言う。


「処理落ちってやつだな」


 如月が笑う。


「めちゃくちゃアナログな負け方してるね」



 雨宮澪は、スマートフォンを見ながら言う。


「でもさ」


「これで終わり?」


「まだ何かしてくるんじゃないの?」


 その問いは、自然だった。


 相手は、ここまでのすべてを読んできた存在だ。


 簡単に終わるとは思えない。



 神代昴は、静かに答える。


「来る」


 短く。


 はっきりと。


「最後の手を打ってくる」



 その瞬間。


 モニターがわずかに変化する。


 如月が反応する。


「……来た」


 画面に、新しい動きが表示される。


 分岐が、一部で収束を始めている。


「え?」


 思わず声が漏れる。


「なんで?」



 紗那が即座に分析する。


「異常収束確認」


「特定領域のみ、強制確定」


 神崎が言う。


「これは」


「意図的に、結論を作っています」


 堂島が舌打ちする。


「まだやれるってか」



 神代昴は、静かに目を細める。


「……最後の観測だな」



 場面は変わる。


 天城透は、静かにノートを見ていた。


 これまで増え続けた点。


 繋がらない線。


 崩れた構造。


 だが。


 その中から、無理やり一つを引き出す。


 意味がなくてもいい。


 理由がなくてもいい。


 ただ、確定させる。


「……確定」


 小さく呟く。


 それが、最後の手段だった。


 観測すること自体が目的になる。


 正しさではない。


 整合性でもない。


 ただ。


 決める。



 神代昴は、それを見ていた。


 そして、理解する。


「無理やり終わらせに来たか」


 如月が振り返る。


「どうするの?」


 昴は静かに答える。


「簡単だ」



「終わらせない」



 その一言。



 白鷺悠真が、わずかに笑う。


「徹底しますか」


 黒鉄蓮が言う。


「終わらせなきゃいいだけだな」


 雨宮澪が笑う。


「得意分野だね」



 紗那が入力する。


「対抗処理」


「終端破壊」


「強制確定の無効化」


 画面が激しく変化する。


 収束しかけた分岐が、再び崩れる。


 結論が、消える。


 確定したはずの未来が、ほどける。



 天城透は、その変化を見ていた。


「……」


 言葉が出ない。


 確定したはずのものが、崩れる。


 観測したはずのものが、消える。


 それは。


 存在しないはずの現象だった。



 神代昴は、静かに言った。


「観測されたからといって」


 ゆっくりと。


「確定するとは限らない」



 如月が息を呑む。


「それって……」


 昴は答える。


「観測の否定だ」



 天城透は、初めて顔を上げた。


 その表情には、わずかな変化があった。


 理解できないものに対する反応。


 初めての“誤差”。



 神代昴は、静かに歩き出す。


「これで終わりだ」



 観測は、世界を確定させる。


 だが。


 観測できないもの。


 観測しても確定しないもの。


 それが存在するなら。



 その瞬間。



 観測は、意味を失う。



 そして。



 その意味を失った世界では。



 誰も、未来を決めることができない。



 それが。



 この戦いの結末だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ