表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

如月

 朝の光がまだ淡く、店の奥では焙煎の音だけが小さく弾んでいた。


 白猫のシロは、いつものように豆を煎り、香りを確かめようと蓋を開けた瞬間、ぱちりと弾けた豆のチャフが指先をかすめた。

 鋭い痛みが走り、シロは思わず息を呑む。


 そのとき、扉の鈴が風もないのに微かに揺れた。

 振り返ると、旅人が静かに店の中にたたずんでいる。

 旅人は言葉を持たず、ただシロの手元へ視線を落とし、片手を静かに差し出す。

 そっと伸ばされた旅人の指先は、冬の朝の空気のように冷たく、しかし痛みを吸い取るように優しかった。

 触れられた瞬間、火照った皮膚は静かに落ち着き、雪解け水のような清らかさが広がっていく。

 旅人の手は、そっと背中を撫でる手のように優しく、シロの胸の奥までやわらかくほどけていった。


「……ありがとう」


 シロの小さな声に、旅人は微笑んだように見えた。

 その姿は次の瞬間、風に溶ける雪のように淡く揺らぎ、扉の鈴だけをそっと鳴らして消えていった。


 残されたのは、淹れかけの珈琲のカップ。

 覗き込むと、琥珀色の表面にひとひらの雪華が浮かんでいた。

 シロはそっとカップを両手で包み込む。

 まだ少し冷たい指先に、旅人が残した優しさがふわりと重なり、胸の奥がじんわりと温かくなってゆく。

 まるで、雪の精霊が確かにここにいた証のように――


 静かで、冷たくも優しい余韻だけが店内に残っていた。



挿絵(By みてみん)

 気にかけてくださり、本当にありがとうございます

※挿絵は Gemini Nano Banana Pro による生成画像です※

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ