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ガランとアッシュの旅路  作者: 玲 枌九郎
第三章 キャラバン —砦の街・トゥサーヌ編—
34/85

第29話 笛の音

「――なるほどなぁ」


 ニコラスの感嘆の声にガランとアッシュは落ち着かない。


「いや、ほんっとにたまたま上手くいっただけだって。ね、アッシュ」


「うんうん。期待されても困る……かな」


 キャラバンが出発して、最初の話題はやはり魔物のことだった。サガットが二人の活躍で損害もなく、無事に合流出来たと改めて話したのだ。


「もちろん危ないことはさせたりしない。恩には恩で報いるのがウチの流儀だ。まずはそうだな――トゥサーヌで一杯奢らせてくれないか?」


 ニコラスは指を一本立ててガランとアッシュを見る。そこへ御者台からカミーラが口を挟んできた。


「自分が飲みたいだけだったりして〜?」


「とか言ってるミラもじゃん」


 横で手綱を握るデミトリも軽口を叩く。


「あら。デミは留守番したいんだ?」


「いやいやいや! 行くに決まってるだろー!」


 カミーラとデミトリのやり取りにガランとアッシュは顔を見合わせ、改めてニコラスを見る。年齢はサガットより少し上、恐らく四十代後半。座っているので正確な身長はわからないが、視線の高さから恐らくアッシュと同じくらい。無造作にひと纏めにした髪は、少し白髪混じりのブラウンだが根本はやや赤い。本来は赤毛で日に焼けて色素が抜けたのだとわかる。肌も少し赤味がかっているがこれも日焼けだろう。デミトリは濃い金髪で瞳は翠色。髪を首の後ろで纏めてるのはニコラスと同じだ。カミーラも同じく金髪碧眼。こちらは背中で髪を青いリボンで結んでいる。服装は皆サガット達と似通っている。カミーラもトーリーと同じような麻のエプロンワンピースだ。


 ニコラスは目尻の皺を少し深め、鎧戸から覗く御者台に座るカミーラとデミトリの背中を見つめていた。サガットも穏やかな表情で皆を見ている。

 ガランとアッシュはそれを見て、この二人のエルフとニコラスらアーリア商連メンバーの関係性は良好なのだと理解できた。


「アッシュ」


 ガランが視線をアッシュに合わせ、名を呼んだ。アッシュは瞬きで頷く。信用はしても大丈夫だろうとの意識のすり合わせ。ガランとアッシュはいつの間にか目で会話できるようになっていた。


「キュキュゥ〜」


 そこにクーが甘えた鳴き声を上げる。まるで自分も仲間に入れろとせがんでいるかのようだ。そんなクーをチラと見て、ガランはニコラスに告げる。


「ありがとうニコラスさん。御馳走になるよ!」


 アッシュも頷きで同意を示す。


「あぁそうしてくれ」


 ニコラスはそう言って笑みを深めた。


「じゃあ急ぐか!」


 デミトリが嬉し気な声で手綱を持ち上げた。手綱を打って馬の速度を上げるつもりだったのだろうが、カミーラがデミトリの頭をはたいてそれを止めた。


「気が早過ぎるっ!」


「急いでも今日はロクサ村までだぞ?」


 サガットも釘を刺すが表情は楽しげだ。


「わかってるよぉ。久しぶりにまともな飯が食えると思うと急ぎたくもなるじゃん」


 デミトリは肩を落として空を見上げた。


「まぁねぇ」


 隣でカミーラは苦笑いだ。


「食事、大変なんだ?」


 アッシュが御者台のカミーラに問いかける。


「そりゃあね。肉は塩漬けだし、野菜も葉物は酢漬けだもの。新鮮な食材なんて旅してたら無理無理。あなた達もそうでしょ?」


「まぁ……そう、なのかなぁ?」


 アッシュは里を出てからの食事メニューを思い返す。大体がスープと肉ではあったが、野草や木の実類も食べている。確かに里で食べていたものと比べれば質は落ちていたが、あまり不満を感じてなかった。


「あ、その顔はそうでもないって感じ!」


「ボクら、まだ二十日くらいしか野宿してないし……ね?」


 アッシュは思わずガランを見て同意を求める。ガランも頷いて同意し、皆の顔を見渡す。


「嘘でしょ! 二十日も宿に泊まってないの!?」


 カミーラは目を丸くして驚き、ガランとアッシュを交互に見る。そこに苦笑いを浮かべたニコラスが口を挟む。


「ミラ。二人は徒歩(かち)だったんだ、それくらいは普通――」


 ニコラスは何かに気付いてそこで言葉を切ってガランとアッシュに視線を合わせ、困惑の表情を見せる。


「――アッシュ。あ、いやガランもか」


「どうしたのよ?」


 カミーラは急に声色が変わったニコラスを訝しむ。サガットも思わずニコラスを見つめる。


「もしかして二人は辺境から――なのか?」


 ニコラスの問いにガランとアッシュは顔を見合わせてしまった。


「ごめんニコラスさん。オレたちちょっと言えない事が……」


 眉尻を下げ、申し訳無さそうに告げるガラン。そこにカミーラから助け舟が出された。


「ボス。たぶん私たちと同じだと思うわ。エルフの昔話よ」


「そりゃあ――いや、言わなくていい」


 ニコラスも一瞬眉をしかめたが首を振り、嫌悪を振り払う。仕事柄、ニコラスもエルフの悲劇は知っていたのだ。


「じゃあそんな長旅の二人に――ミラちょっと持ってて」


 そんな空気を払うかのように、デミトリが明るい声でミラに手綱を渡した。御者台の上に後ろ向きに立ち上がると箱馬車の上に積んだ荷をゴソゴソと漁る。


「もう! 危ないわよ」


 カミーラはそう言って手綱を預かるが、言葉とは裏腹に慌てた素振りはない。デミトリの行動は珍しいものではないのだろう。


「こういう時こそ明るく! ってね――あったあった」


 デミトリが取り出したものは一本の笛であった。


「さぁてミラ! 一曲やろう!」


 デミトリはそう言って御者台に座り直すと笛をくるりと回した。横で仕方なさそうに頷くカミーラ。だがまんざらでもないのだろう、すぐに右足がリズムを取り、踏み板を叩く。


「アッシュ! ミラに合わせて手を打ってくれよ! ガランもだ!」


 そう言ってデミトリは身体を揺らすように笛を吹き始めた。

 響き渡る素朴な音色。

 ガランとアッシュは急に始まった演奏に思わず顔を見合わせた。どちらからともなく笑顔が溢れ、すぐに手拍子で参加する。ニコラス、サガットも同様に手を叩く。並走する馬車からも笛の音と手拍子が聞こえてきた。そしてミラが歌い始める。


 『今日も あの人に会いに行こう

 雨が降る日も 風の日も』


 カミーラの澄んだ歌声が周囲に届き、あちこちの馬車から女達の歌声が重なった。


 『明日も 必ず会いに行こう

 雨が降っても 嵐でも


 きっと待っててくれるから

 私は今日も 会いに行く


 会えない日には 歌いましょう

 私の想いは 風に乗り

 きっと あなたに 届くでしょう』


 恋歌だろうか。そして次は返事を返すかのように若い男達の歌声が響く。


 『今日も あいつに会えるだろう

 雨が降る日も 風の日も


 明日も 必ず会えるだろう

 雨が降っても 嵐でも


 きっと待ってりゃ来てくれる

 あいつは今日も 笑うだろう


 会えない日には 空を見る

 俺の想いは 風となり

 そして あいつは 歌うだろう』



「どう? 馬車の旅も楽しいでしょ!」


 笑顔で問うカミーラに、ガランとアッシュも笑顔で頷く。


「うん! 良いね!」


「そだね! 楽しいかも!」


「キュキュッ! キューッ!」


 何故かクーも嬉しげだ。


「歌はな、獣除けにもなるんだぞ?」


 笑みを浮かべたサガットも、そう言いながらガランとアッシュに視線を向けて頷く。ニコラスも優しげな眼差しで皆を見渡していた。ガランとアッシュもサガットとニコラスに頷きを返す。


 賑やかな演奏はしばらく続き、日が傾いてきた頃。ひと際高い笛の音が演奏の終わりを告げた。


「もう着くよ〜」


 デミトリが笛をベルトに挟みながら皆に伝える。


「なんかあっという間だったねぇ〜」


 アッシュのつぶやきにガランも頷く。


「うんうん。オレ、楽しかった!」


「あれ? 戻ってくる馬がいるよ?」


 怪訝そうなカミーラの声にサガットが身を乗り出して尋ねる。


「誰だ?」


「あれは――ヴィクトルだね〜」


 サガットの問いにデミトリが答える。一瞬だけ顔を見合わせるニコラスとサガット。ニコラスはドアに手を掛けるとガランとアッシュに告げた。


「ちょっとドアを開ける。二人とも、落ちないようにな」


 頷くガランとアッシュ。それを見てニコラスは箱馬車のドアを開けた。


「ヴィクトール! どうしたー?」


 ニコラスは戻ってきたヴィクトルへ、すれ違いながら問い掛けた。デミトリは馬が追いつけるよう速度を緩める。ヴィクトルは馬を一旦止め、馬首を巡らせると箱馬車に並んだ。


「ボス! ロクサ村に武装した奴らがいる!」


 車内に緊張が走る。


「賊か? 兵か?」


「シベルの兵装を見たことがないんで何とも……どうする? 一旦止まるか?」


 忙しく視線が泳ぐニコラス。しかしほんの一瞬であった。険しい顔でヴィクトルに視線を戻すと指示を出した。


「ヴィクトル。騎馬組で全車停止させてくれ。なるべく急いで集合だ」


「了解!」


 ヴィクトルは馬に拍車をかけ先行した馬列を追いかける。


「なんか嫌な感じだなぁ」


 デミトリのつぶやきに静かに頷くガランとアッシュであった。

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