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5「というより……すごく厨二です……」

 今、何か良くわからない単語が聞こえたような?

 数秒、馨が凍りついていると。浩輔は“おいおいおいおい!”とテンション高く叫んだ。


「お前こう!もっとこう!ビビるとかなんとかリアクションねぇのかよ!?明らかに自分今これからやばいことされる流れだろ!?」

「え」


 リアクション待ってたんですか、この人。馨は一瞬恐怖も忘れてドン引きする。いや、リアクションとか、感想とか言われても。


「こ、怖いとは思ってるけど、その」


 正直に言うと怒らせるかもしれない。わかっていたが、口にせざるをえなかった。


「ダーク・エレメンツ?ですっけ?」

「おうよ!なんか怖そうだろ!?」

「というより……すごく厨二です……」

「!!」


 それを聴いて。浩輔は完全にフリーズ。それ以外の仲間達が“おい待てごらぁ!”と大合唱した。


「お前な!お前な!そういう時は怖くて動けなかったんですごめんなさいくらい言っておけやゴラァ!」

「岸部さんはな、服のセンスがないのと厨二くさい言動しかできないってのをめっちゃ気にしてんだよ、繊細なんだよ!!」

「本当のことだからってすごく厨二って!リアル中学生に言われるのがどんだけダメージでかいと思ってんだ配慮しろやオラァ!」

「お前ら、それくらいにしてくんないかな……?」


 明らかに、取り巻き達の言葉はフォローどころかボスに大ダメージを与えているわけですが。この集団実はめっちゃポンコツなのではなかろうか。恐ろしいギャング集団と思っていたが、案外間抜けな悪役ポジションなのではなかろうか。

 謎にコメディな流れで、ちょっとだけ落ち着いてきた馨である。隙を見て、兄貴を奪い返して逃げられないかな。そんな算段を付け始めた、その時だ。


「……まあいいや。いや良くはねぇけど、いいってことにするわ。大事なのはソコじゃねえしな」


 空気が、変わった。緩慢な動作で、浩輔が右手を挙げる。


「ダーク・エレメンツってのはあれだ……俺らドロイドの民の下僕つーか、肉人形つーか?俺はまだドロイドの戦士の中でも新米だからよお、ちょこーっとずつ下僕を増やして、資金を調達してっていう地味なことしないといけないわけ。本当なら総理大臣とか大統領とか乗っ取れたら早いんだろうが、あいつらガード固いし、表で狙ったらすげぇ騒ぎになるしなあ」


 雲行きが怪しい。言っていることは半分程度しかわからなかったが――総理大臣やら大統領やらのキーワードが出てくる時点であまりにも穏やかではない。まるで、テロを画策していると言わんばかりではないか。しかも、文脈から判断するに、自分もその手駒にしようというのか?


「お、俺もそうするってのかよ……?」


 結局渡しそびれたままの封筒を握ったまま、馨はじり、と後ずさりする。


「な、なんで。たかが中学生の俺なんか……」

「んー?それ、お前が知る必要があるのかよ、ボーズ」


 こき、と男が首を鳴らした。同時に――にゅるん、と男の袖口から紫色の触手のようなものが覗く。


「強いて言うなら……都合がいいし利用価値があるから、そういうこったなぁ!」

「!!」


 刹那。男の右の袖口から、大量の触手が飛び出してきた。何だそりゃ、急展開すぎるだろ、というかマジでキモい――さまざまな感想がぐるぐるしすぎて、完全に馨の動きを凍らせてしまっている。

 まずい、逃げられない――そう思った時だ。


「俺の、生徒に、触るんじゃねぇぇぇぇ!」


 その声は。衝撃と共に、場の空気を破壊したのだった。




 ***




 状況が分かるようで分からなかったが、とにかく自分がやるべきことは一つ。目の前で襲われそうになっている、可愛い教え子を守ることである。

 キバルは馨を抱きかかえると、思いきり後ろに飛んで触手攻撃を回避したのだった。ずるん!と標的を捕まえ損ねた紫色の触手が汚い床で滑るのが見える。粘液にまみれたそれを見、うげぇ、とキバルは顔を顰めた。


「きもい!触手の化け物とは聞いてたけど想像以上にキモい!つか男子中学生を触手プレイの標的にすんじゃねぇよ変態か!」

「うるせぇわ可愛ければなんでもいいだろ触手プレイは!」

「否定するのはそこかよおかしいだろ!!」


 ツッコミは全部後にしようと思っていたのに、ついつい叫んでしまった。先生、と抱きかかえられたままの馨が震えながらしがみついてくる。


「どうして、先生が……」

「駆から聞いたんだよ。助けに来た、以上」

「何で……」

「何でって、その理由ならさっき言っただろ」


 よいしょ、と少年を地面に下しながら言うキバル。


「俺の可愛い教え子だからだ。生徒を体張って守るのが、先生ってやつだろうがよ」


 どうやら、コアラが読んだ通りであったらしい。ツンツン金髪男の袖口からは、にゅるにゅると触手のようなものが覗いている。あの男が、ドロイド・ボーンに操られ、ダーク・エレメンツ化していると見てまず間違いはないだろう。

 あの触手に触れられたら同じように操られるのだろうか。あるいは、触手を突き刺すとか、眼や口から侵入させるとかだろうか――想像したら吐きそうなくらい気持ち悪いのだが。


「何だよ、そっちから来るの?」

「!」


 どうやら感傷に浸っている場合ではないらしい。金髪男が呆れたような声で言う。


「選ばれし者、を順繰りに叩くために、この近辺から攻撃を始めたんだけど……おう、そっちから出向いてくれるなら好都合だわ、うん」

「……どういうことだ」

「なんだよ、中立惑星の奴らから話聞いてんだろ?地球人とは極めて相性が悪くて、奴らから侵略者に対抗する力を受け取れる人間は、おおよそ百万人に一人の確率だ。裏を返せばその百万人に一人を早々に俺らでつぶしちまえば、俺ら的には格段に侵略がしやすくなるってことなんだよなあ」

「――!」


 まさか、とキバルは眼を見開く。自分の近くに、ドロイド・ボーンが現れ、自分の教え子が巻き込まれたのは偶然ではないというのか。全ては、自分の傍にいたばっかりに、馨とその兄は――。


「お前をダーク・エレメンツ化するか、殺しちまえばこの町での仕事は終わりだ。とっとと終わりにさせてもらう、ぜ!」


 動揺している場合ではないらしい。再び右手を振り下ろす金髪男。その袖口からしゅるしゅると触手が伸び、キバルを打ち据えようとしてくる。あの粘液、触るだけで気持ち悪い結果になりそうだ。床が溶けている様子はないが、毒があってもなんらおかしくないだろう。

 あれを掻い潜りながら、金髪男をぶちのめす。なかなかハードルが高そうだ。幸いなのは、触手のリーチが長い反面、動きそのものがそこまで早くないということか。最初に伸びてくる速度だけは脅威だが、その一撃をかわしてしまえば次に引っ込むまで緩慢な薙ぎ払い攻撃しか来ないようだ。避けるのは、そこまで難しくもない。


――ナメんなよ、こっちは現役バリバリの体育教師なんだぞ!おっさんだからって馬鹿にすんなよ!


 だが、ここで一つだけ失念していた。触手で攻撃してくる男以外にも、取り巻きが数名いたことである。触手の下をくぐるようにして接近を試みようとした時、何者かに腕を掴まれて拘束された。


「捕まえたぁあ!」

「うげっ!?」


 取り巻きは、三人。その三人が、それぞれキバルの手足を押さえつけてきたのである。普通の成人男性より腕力がある自信がある俺だが、それでも三人がかりで抑え込まれてしまってはどうしようもない。


「よくやったお前ら!これで終わりだなあ?」


 しゅるるるる、と金髪男の触手が引っ込む。まずい、あの素早い攻撃が来る――それがわかったキバルはとっさに、叫んだ。


「いいのか、お前ら!」

「ん?」

「このまま触手で俺を攻撃していいのか?こんなムサいおっさんの触手プレイなんてマジで間近で見たいのか!?腐女子でさえマイナー趣向気味だってのによ!おっさんが触手に巻きつかれてエロ本よろしくえっちな顔して喘いでるの想像してみろ、お前らそれでほんっっっっとぉぉぉぉぉに萎えないのか――!?」

「え゛」


 その言葉に。攻撃しようとしていた金髪男も、それからキバルを抑え込んでいた男達も完全に固まっていた。――ついでに、ちょっと遠い場所に避難していた馨も。


「だ、誰得……?」


 ぼやいたのは誰であったのか。チャンス、と俺は素早く自分の後ろにいた男に後頭部で頭突きをかまし、左側にいた男にはみぞおちに肘鉄を、反対側の男には股間に蹴りを入れてやった。

 あえなく三者三様に撃沈する取り巻き。残るはあの触手を出している金髪男だけだ。


「くっそ、この、卑怯者め!」

「お前が変態なのが悪いんだろーがぁぁぁ!」


 油断大敵。男の顎に、思いっきりアッパーを食らわせてやった。

 金髪男はぐるん、と白目を剥いて、あえなく地面とお友達になったのである。



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