王と王妃(下)
「王妃様の体調不良は今に始まった事ではありません」
「どういう事だ」
私は何も聞いていない。
「以前より時々体調がよくない事があったようです。酷くなったのはジルベールの事があった後です」
「何も聞いてないぞ」
「王妃様が父上には黙っているようにと仰ったそうです。それで、いつも通り政務をする王妃様を慮って宰相が私に王妃様の政務の手伝いを頼んで来ました」
「私ではなくイーサンにか?」
「はい、私にです。元は王の政務だったので私が覚えた方が良いとの事でした」
「は?王の仕事?何を言っている。私は政務をしているぞ。宰相も知っている」
「はい。父上が多くの政務をされているのは知っております。その判断が素晴らしい事も、国が落ち着いている事もわかっております」
「では」
「一つの案件にたいして提案、陳情、意見が多々あります。それを精査しているのが王妃様です。父上のもとに届く物は精査された物で下地がしっかりしているため父上の判断も素早く出来、最良の物になります」
「文官や大臣が頑張ってくれているのではないのか?」
「勿論文官達の働きもあります。私も王妃様の政務を手伝ってわかったのですが、文官達が王妃様を少しでも助けるために動いています」
「シルビアの政務を私が手伝おう。そうすればシルビアが休める」
イーサンが大きくため息を吐く。
「母上はどうするのですか。夕食は一緒に食べると決めたのでしょう」
「このような時ぐらいミリアも聞き分けてくれるだろう」
「無理ですね」
一刀両断とはこの事だ。確かに無理だと思う。
「だが」
「父上、それが出来ればこんな事になっていません。私達が父上、母上、私、サファイアが家族団欒と称してゆっくりと夕食をとっていた時に王妃様は父上の政務を代わりに行っていらっしゃいました。
母上が側妃となり父上が母上の我儘を通した時からです。20年ほどになりますか?」
「知らなかった」
「『陛下の望むままに。陛下の御心に添います』私が王妃様から伺った言葉です。
宰相スタンジェイル公爵をはじめ大臣や文官達は王妃様を間近で見ていたジルベールに期待をしていました。宰相は娘のエリシア嬢を婚約者にしたほどですからね。
『王妃様は権力を欲している』母上の派閥から出た噂話でしょう。
こんな噂を流さなければいけないと思うほど王妃様の立場は盤石です」
「いつ知った?」
「私ですか。最近です。王妃様の手伝いをはじめる時に宰相に言われました。『王妃様から学んでください』と」
どすんと椅子にもたれる。
「父上、王妃様ばかり褒めましたが私は父上も政務の面では尊敬しています。この国は平和で栄えています。王として素晴らしい事です」
「あぁ。政務の面ではか」
「話を戻しましょう。王妃様は休んでくださいと頼んでも政務をしてしまいます。すぐに休めるよう執務室を部屋に移しました。
ジルベールについては私がサファイアから聞いた話をいたしました。ジルベールから王妃様宛の手紙もありました」
「そうか」
「私はそろそろ仕事に戻ります」
「あぁ、…イーサン、近頃サファイアの様子がおかしいと思うが何か知らないか。ミリアに聞いても変わりないと言っているのだが」
「母上らしいですね。父上以外の事には興味がない。
サファイアは…大人になって周りが見えてきたのでしょう」
「どういう事だ」
「本人に聞いてください。それでは失礼します」
イーサンは出て行った。私も部屋を出る。シルビアの所へは向かえなかった。
その後何度かシルビアの部屋へ行ったがいつも文官が出入りしており二人で話す事が出来なかった。
「ジルベールが戻ってまいりましたら王妃を退位して王族籍を抜けたいと思います」
サファイアの婚姻が決まった頃、シルビアが私の執務室を訪れ話した言葉は信じられなかった。
「何故?」
「体調が思わしくなく王妃の役目が全うできません。政務の方はイーサン殿下がみえますので問題ありません」
シルビアが居なくなる。駄目だ。
何を言ってもシルビアは引かなかった。なんとか王族籍は残せた。これでシルビアはまだわたしの妻だ。
ミリアを王妃にとミリアの派閥の者から声が上がったが側妃のままに据え置いた。
王妃はシルビアだけだ。
王都に戻ったジルベールはエリシア嬢と婚姻して先日可愛い女の子が生まれた。私とシルビアの孫娘だ。
最近はジルベールの屋敷へ孫娘会いたさ、シルビア会いたさに行っている。勿論お忍びだ。
シルビアとお茶を飲む時間が増えている。茶飲み友達ぐらいにはなれただろうか。
バルファとローズの日常の話を書きました。
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