バルファ
…バルファ・アイマリクト…
俺はイーサン王太子の近衛であり学園からの友人でもある。王太子執務室に二人でいる時が多いため執事の役目もこなす。
「休憩にしよう」
王太子と近衛だが二人の時は友人に戻る。イーサンはソファに腰掛けた。俺もお茶を入れて座る。
「バルのお茶はいつも美味しい」
「随分練習したからな」
一口飲んで笑い合う。
「最近サフィーの様子がおかしいんだ」
「サファイア王女がか」
イーサンと同じ側妃様の御子で、現王家唯一の王女だ。
「だいたい理由もわかっているんだが」
「理由がわかるなら大丈夫だろう?」
「バルはアイマリクト前伯爵かスージー・スロイサーナ男爵令嬢から何か聞いていないか」
「爺様とスージーが関係あるのか」
驚いた。爺様はわかるがスージーの名前が出るとは。
「聞いてないのか」
「まあ、家にはあまり帰らないからな」
イーサンは目を瞑り思案しているようだ。
「バル、今から言う事は内密にして欲しい」
そう言ってジルベール殿下の婚約破棄、イーサンの王太子擁立、モーリッツ領での出来事を話した。
スージー、何をやってるんだ。全ての問題に関わっているじゃないか。爺様も止めろよ。
話を聞いて俺は精神的に疲れた。ソファでぐったりしてしまう。
「それで」
イーサンまだあるのか。
「サフィーなんだが」
「理由は王妃様か」
この流れで来たら俺でも気づく。
「ああ。モーリッツから帰ったその日に私の所に来て 『それ 』を知っていたか聞いてきた」
「『それ 』とは、王妃様の陛下へのお気持ちか」
「そうだ。私は知らなかった。気がつかなかった。サフィーもだ。父と王妃様は国王夫妻として人前に出る時以外顔を合わせないんだ。昔からずっとそうだったから、王妃様の件ははっきり言って驚いている」
「そうか」
「でも、父と母は知っていたと思う。サフィーもそう思っていたようで、私が知らなかった事にほっとしていた」
「そうか」
「王妃様はおそらく私達が小さな子供の頃に父を諦めてしまったんだろう」
「王妃様がジルベール殿下に力を入れ始められた頃だろうな」
「そうだと思う」
「お前も王女もまだ小さかったから仕方ないんじゃあないか」
「バルも知っている通り、父と母は仲が良い。私達四人は忙しい中時間があればお茶をする。夕食だけでも一緒にとろうとする。それは父が希望したからだと思っていた」
「そうだな」
「サフィーは言ってたよ。今までは王妃様が嫌がって、嫌っていたからこの席に来なかったと思っていた。それが当たり前になっていた。疑問にも思わなかった。
王妃様とジルベールが二人だけで行動をするようになったのも全て王妃様のお考えだったと思っていたと」
「そうか」
「だから、今までの王妃様のお気持ちを考えるといたたまれない、今までのような態度はとれないと言っている」
「そうか。イーサンはどう思っているんだ」
「私は男だからな。父のやり方は良くないが仕方がないとも思っている。王族の結婚だしな」
「まあ、そうだな。そう思うと王妃様はすごいな。王妃の仕事は完璧で自分の気持ちは悟らせない。心を隠して微笑む、貴族令嬢の見本だな」
「心を隠して微笑むか。辛いな」
イーサンが呟いた。
「サフィーも頭ではわかっているんだ。でも気持ちが付いていかない。父や母を避けているんだ。そして王妃様のお気持ちに気づかなかった自分を責めている」
「仕方ないだろう」
「ジルがあんな事をするまではサフィーとジルは私もだが仲が良かったんだ。ジルの気持ちに気づかなかった事も自分達の所為だと思っているんだ」
「そこまで思いつめているのか。陛下や側妃様には申し上げたのか」
「いや、言ってない。サフィーも王女だ。今後どこに嫁ぐかわからない。他国でも一夫多妻の国は多い。今後の為にも自分で解決して欲しい」
「厳しいな」
「今のは王太子としての意見だ。だか、兄としては何とかしてやりたい」
イーサンがニヤっと笑う。
『うわぁ、これは何かやらされるなぁ』
「今日ローズが来たんだ」
「モーリッツ辺境伯爵のローズ嬢か。王女と仲が良かったな」
「その場で明日ローズがスージー嬢と何でも屋で働くと聞いたらしい」
「はあぁ」
「サフィーも行きたいと言ってきた」
「何考えてんだよ!ローズ嬢も良くないけど辺境伯領で市井の人と付き合いがあるだろうからまだマシとしてサファイア殿下は駄目だろう」
「私も言ったんだがな。働いてみたいそうだ」
「じゃあ八百屋とか果物屋にしとけよ。店番ならまだなんとかなるだろう」
イーサンも王子だから市井で働くというのがわかってない
「何でも屋は本当に何でもやるんだぞ。掃除、草取り、探し物、汚れるし、臭いもつく。本当に何でもやるんだ。まだ八百屋の店番とかのがやれるだろう」
「今はサフィーの我儘に付き合ってやりたいんだ。父上にも許可を得た。バル頼む。サフィーの護衛としてついて行ってくれないか」
「俺はお前の近衛だろう」
「護衛は仕事場にも一緒に行くからスージー嬢を知っているバルがいいんだ。気兼ねなく仕事が出来る。それに、今のサフィーを任せられるのはバルしかいないと思う」
「お前の護衛はどうするんだ」
「騎士団からタイロンを呼んだ。そろそろあいつも私の側にいるのに慣れてもらわないとな」
タイロンは騎士団長の嫡男だ。俺達と学園時代から一緒にいる。タイロンも近衛になる予定だったがイーサンがまだ王太子でなかったため身体を動かしていたいと騎士団と近衛を兼任していた。これからはイーサンの側にいる事になる。
「……わかったよ」
きっと爺様に怒られるよなぁ。




