我儘王女とお転婆令嬢
「お願いスージー」
夏の休暇も終わり学園が始まって少し経った頃、友人のローズ・モーリッツ伯爵令嬢がアイマリクト伯爵家に訪ねて来た。
私はスージー・スロイサーナ。スロイサーナ男爵の娘。アイマリクト伯爵家はお母様の実家で前伯爵はお爺様。私は王都の学園に通うため伯爵家で過ごしている。
うちの男爵家は貧乏で私はお小遣いぐらいは自分で何とかしたいのでお爺様の知り合いの何でも屋シュウで仕事をしている。
「どういう事なのか詳しく教えて欲しいわ」
理由もわからず依頼を受けるわけにはいかない。
ローズは封筒を取り出して開ける。
「先ずはこれを見て」
それはモーリッツ伯爵のサインがある書類だった。
要約すると、
ローズが何でも屋で働いてみたいと言っている。けれどもそれは迷惑になるから、市井を体験させる依頼として出す。
というものだった。
ローズは高位の令嬢だ。モーリッツ辺境伯爵と王妹アンネメリー様の一人娘。陛下の姪にあたる。
私とは学園で同じ組。ローズは辺境伯爵領で育ったので王都の貴族令嬢のように表面上の付き合いが苦手だ。そんな所も気が合い友人になった。
これはお爺様にお任せね。
私は執事のトマスにお爺様を呼んでもらう。
「ローズ、簡単な仕事ではないわよ。汚れる事もあるし、力仕事もある。体験だとしても報酬をもらう以上しっかりとやらないとシュウさんに迷惑をかけてしまうわ」
厳しいようだけれどはっきり言っておく。お遊びではない。仕事だから。
「わかっているわ。違うわね。わかっているつもりだわ」
私はローズの言葉を待つ。ローズは続けた。
「夏にモーリッツに帰ったでしょう。エリシア様の事があったせいかいつもよりお母様と話す機会が多かったの。
それで、スージーの話になった時に」
「私?」
「そう、面白そうだから私も何でも屋で働きたいって言ったの」
「えっ」
面白そうっていうのはどうなのかしら。
「くすくす、お母様も今のスージーと同じ顔をしていたわ」
私は両手で自分の顔を触る。
「考えが甘いって思っている顔。お母様も同じ様な事があったのですって」
アンネメリー様って王女よね。働いたの?
「モーリッツにきて働いたらしいんだけれど、何があったか詳しく教えてくれなかったわ。貴方も苦労しなさいって言われただけなのよ」
それは、受け入れた所が大変だったと思う。
トントントン、扉が開いてお爺様が部屋に入ってきた。
「よく来たね。ローズ嬢。モーリッツではスージーが世話になったね。ありがとう。モーリッツ伯爵からの手紙を見せてもらったよ」
私がローズの隣になりお爺様が私達の前に座った。
「何でも屋シュウには儂から話をしておこう。ただし学園が休みの日でスージーと一緒に行ける日だけと約束してもらう」
「はい」
「スージーもそれでいいか。お前がいろいろ教えてあげなさい」
お爺様からも許可が出た。その後は三人で仕事内容やモーリッツでのことを話したり学園の話をし、ローズは帰った。
今日はローズが何でも屋で体験をする。うちに来てから一緒に行く。服はズボンを履いてくるように言っておいたけれど令嬢がズボンを履くことは滅多にないからローズが抵抗なく履けるか心配。
執事のトマスがローズとサフィー様の到着を教えてくれた。
「えっサフィー様?」
入り口に行くとローズとサフィー様とバル兄様がいた。
「サフィー様、どうされたのですか。バル兄様と一緒ですか」
サフィー様はズボンを履いて髪も後ろで一つに括っている。これは…嫌な予感がする。
「スージー、私も何でも屋に行くわ」
やっぱり。
「あの、私達は働きに行くのですが」
「知ってるわ。昨日ローズに聞いたもの」
ローズは肩を竦めていた。
「私も仕事をするの。市井の人と同じ様に働くのよ」
「サファイア殿下は言い出したら聞かないからな。周りの迷惑も考えずに。スージー、諦めろ」
バル兄様少し怒ってますか。
「陛下もご許可なさった。俺は護衛だ」
「バル兄様も一緒に行くの?」
「ああ、護衛だからな」
護衛付きで働くのっておかしいですよね。
「あれ、バル兄様はイーサン殿下の近衛ですよね」
「イーサン殿下から頼まれたんだよ。サファイア殿下が心配だからってな」
トマスがお爺様を連れて私達の所にきた。
あ、お爺様驚いている。それはそうだよね。王女様が働きに行くなんて。
「サファイア殿下、陛下のご許可があるのなら儂は反対は致しません」
バル兄様を見る。
「バルは今日仕事が終わったら家に帰ってきて儂の所に来るように」
バル兄様、お爺様に怒られてくださいね。
お爺様がシュウさんに連絡するようにトマスに話をする。
「しかし、王族の、貴族の振る舞いをなさるようならすぐにやめていただく。わかりますかな」
「はい」
「今、このように連絡もなくいきなり働きに行くというのも相手の事を考えればしてはいけない事です」
「すみません」
サフィー様が俯いてしまった。
「爺様、そこは反省する。今日はもう来てしまったし時間も無いからもう行くな」
バル兄様が言った。確かにもう時間がない。
私達は屋敷を出た。
「私がスージーを驚かせたくて内緒にしてもらったの。でも、迷惑をかけてしまったわ。ごめんなさい」
サフィーが私の隣に来て言う。
何でも屋に着いた。ここにくるまで私達は目立たなかったと思う。
馬車で近くまで来てその後は歩いて来た。
私は平民、ローズとサフィー様はちょっと裕福な商人の娘、バル兄様は商家の従業員に見える。はず。今日バル兄様は剣はやめて短剣を懐に入れている。




