王都へ
次の日は朝からローズの案内でモーリッツの領内を散策する。
美味しいものを食べ、街の人と話し、お土産を買った。
エリシア様は来る時の道中や昨日のことを思うと楽しんでいると思う。王子と話してすっきりしたんだろう。満足というよりやれるべき事はやった達成感かな。
伯爵領へ帰ると夕食後王子が邸宅へ来ると連絡があった。
エリシア様の顔が強張った。
大丈夫。あの言葉が心に響かないことはない。
夕食にはモーリッツ伯爵も戻ってきた。昨日、アンネメリー様から話を聞いたが、もう一度エリシア様から聞きたいと仕事を早めに終わらせたそうだ。
夕食後、王子が来た時も同席するそうだ。
エリシア様から王妃様の話を聞いて
「陛下は何をやっているんだ。ジルベールといい王妃様といい。まったく」
やはり国王様相手に罵詈雑言だ。
身内なので不敬罪にはなりません。ここにいる皆が同じ気持ちなので誰も外にはもらさないから。
そして、夕食後、王子が訪れた。
今応接室にはジルベール殿下が座りその向かいにモーリッツ伯爵、エリシア様、アンネメリー様が座り
右手にサフィー様扉に近い方にローズと私が座っている。
侍女にはお茶の準備だけ頼み部屋から出てもらい私達だけになった後はローズと私がお茶を淹れた。
「今日はお時間をいただきありがとうございます」
王子が挨拶する。昨日を思うと落ち着いたというかなんか『憑き物が落ちた』感じ。
「ジルベール、話は聞いた」
「伯父上、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
「随分すっきりした顔をしているけれど貴方の中で結論が出たのかしら」
アンネメリー様の言葉に頷く王子。そして、エリシア様に向かい合った。
「エリシア、君には迷惑をかけてしまった」
エリシア様が首を横に振る。
「こんな情けない私だけれど、エリシアさえ良ければ2年待っていて欲しい」
「「2年」」
私とローズはお互い顔を見合わせて首を傾ける。
「ジル兄様、2年というのは」
「私は2年間、ここモーリッツで鍛えてもらう。その後、王都に戻るが臣下に下り兄上を支えていきたいと思っている」
王子がエリシア様を見ながら話す。
「2年後、王都に戻ったらエリシアに求婚しようと思う。しかし、エリシアはスタンジェイル公爵令嬢だ。それまでに婚姻の話があるだろうし誰か親しくする者もいると思う」
「私はお待ちします」
エリシア様が王子に訴える
「ありがとうエリシア。とても嬉しい。だが、今回の婚約破棄で私はスタンジェイル公爵から嫌われているだろう」
王子が顔を歪める。
「自業自得とはいえ私はエリシアとの事は皆に認めてもらいたい。私は公爵に認められてエリシアを貰い受けたい。
だから、2年、エリシアは自由だ。私に縛られずにいて欲しい」
王子はエリシア様を見て伯爵、アンネメリー様を見た。
「そうか、それで良いのだな」
「はい、伯父上」
「よく決心したわね。またすぐにエリシアちゃんと婚約なんて言い出したらどうしてやろうかと思っていたわ」
アンネメリー様怖いです。でも、そうですね。ここですぐに婚約なんて言い出したらエリシア様を馬鹿にしているのかと思ったわ。
エリシア様はちょっと不服そう。
「私はお待ちします。2年なんてすぐです」
王子とエリシア様が見つめ合っています。
「手紙は出しても?」
エリシア様が王子と伯爵に聞く。
「大丈夫だろう」
伯爵の言葉に二人が微笑み合う。
「ジルベール、もう遅いから今日は宿舎に戻りなさい。明日は休みにする。ローズ達は明後日には帰るから明日はエリシア嬢と二人で出掛けるといいだろう」
「お父様、素晴らしいわ」
伯爵にローズが言う。伯爵、娘に褒められてちょっとにやにやしています。
モーリッツ領最後の日、王子とエリシア様は二人で出かけ、サフィー様、ローズ、私は邸宅で明日の準備をしながらゆっくりしていた。
「こうなったらいいなぁと思っていたけれど本当に良かったわ」
サフィー様の言葉に私達も頷く。
「そうですね。やはりエリシア様がここまで追いかけて来たというのがすごいですよね」
「そうよね、うちの伯爵領まで来ると聞いた時は驚いたもの。サフィーならまだしもあのお淑やかなエリシア様だったから」
「ローズ、どう言う意味かしら」
「ほら、そうすぐに言い返すところがね」
「酷いわ」
3人でたわいもない話をして時間が過ぎて行く。
次の日予定通り私達は馬車に乗った。何というか王子とエリシア様の雰囲気が凄かった。離れがたいとお互い顔に出してずっとずーっと見つめ合っている。
「あれ、どうにかならないの」
サフィー様、私もそう思います。
「ちょっと羨ましいわよね。想い合う相手がいるのって」
うんうん
ローズの言葉に二人で頷く。
そんな会話をしているとモーリッツ伯爵、王子、エリシア様がこちらに来る。
「ジルベールとエリシア嬢の事は陛下には手紙を書いた。おそらく了承していただけるだろう」
モーリッツ伯爵は私達に向かって言った。
「いろいろ迷惑をかけてすまなかった。エリシアを助けてくれて感謝している」
王子が私達に向かって頭を下げた。そして
「サフィー、この手紙を母上に渡してくれないか。母上を誤解していたからな。今の私の気持ちを書いた。どう思われるかわからないが」
王妃様宛の手紙をサフィーに渡す。
お世話になった方々に挨拶をして皆で馬車に乗る。
あっという間だったなあ。
さあ、王都へ帰ろう。
読んで頂きありがとうございました。
王子と悪役令嬢編 完結です。
この後
我儘王女とお転婆令嬢編になります。
3・4話の短いものになる予定です。
こちらもよろしくお願いします。
ブックマーク、ポイントありがとうございます。
28部はサフィーをソフィーとしていました。
誤字報告ありがとうございました。




