番外編 アルコバレーノの受難 後編
アルコバレーノのメンバーが戦闘します
会場の下見に行くの、という三冬の発言から始まった騒ぎが終息した次の日。その日はアルコバレーノのライブが行われる日である。
当然三冬たち3人はまた会場に来ており、今度は島も同行していた。アルコバレーノのライブ当日ということもあり、かなりの人が押し寄せている。
「島ちゃん、そのシルバってどんな男?」
島は以前銀狼のアジトに行ったときのことを思い出しながら伝える。
「とにかく用意周到で油断ならない男です。あいちゃんがとても強いのは知ってますよね?私とあいちゃんの二人から逃げおおせた時点でただ者ではないです」
桃音はうへー、と言いたげな表情を浮かべた。
まあそうなるのもしょうがないと里花は思った。
二人は道中、島のことを教えてもらっていた。
島は四十崎流の一期生……つまり、美桜を除けば最古参である。美桜ほどの才能は持っていなかったが、かつての美桜と同じ過密スケジュールを自ら志願し、美桜と違いサボることなくこなしてみせた。
普通に達人と言える領域に踏み込んでいる島の強さは、美桜を一人にしたくない一心で努力した成果であった。
そんな強さを秘めた島と美桜から逃げ切ったと聞けば、不安になるのも無理はない。
「里花はどう思う?」
桃音は困ったとき、とりあえず里花を頼る。
里花が人のためになることをするのが好きなことを知っており、なおかつ解決しなかった試しがないからだ。
「…………ん?ごめん聞いてなかった」
考え事をしていたらしく、里花は何を聞かれたのかわかっていなかった。
桃音が再度シルバという男について聞いてみる。
「たぶん……ただの予想だけどいい?」
里花はシルバの作戦の予想を語りだした。
◆
銀狼のアジトに、彼はいた。
仲間から暗号文が届いたのを確認して頭を抱える。
それは一見ただのバーコードのように見える線の羅列。これは「シマシマ」であり、島を見つけたという暗号である。
「まさかちっこいのが残っていたとは……」
四十崎美桜は一人では電車に乗れない。
そのため、必ず一人は付き添いをするし、実際にシルバはその目で見た。四十崎と島が、新幹線に乗るところを。提供者である男が見せたあれはたしかにリアルタイムの映像だったので誤魔化しているとも思えない。あのあと風景を写しながら鳥のような生き物が戻ってきたから間違いない。
シルバの見た島の正体を知るものはここにはいない。
「……まあいい。俺が成功させればいいだけの事だ」
銀狼は、各々が特化した犯罪を得意としている。
シルバの持っているそれは大層危険なものであった。
◆
「るるる」
「きゅーん」
「ロティ、タマ、お帰りなの。リドラは上手く入れたの?」
うなずく妖精二匹。
三冬は里花の指示に答えるため、ドラゴンの妖精リドラを使役していた。
その指示は「監視カメラとかで会場全体を見れるようにしたい」というもの。里花はコネで管理室を押さえることを例にしていたが、やり方は任されたので妖精を使ったのだ。
リドラがいるのは会場の天井、その中心部である。
リドラは壁をものともしない知覚能力を持つため、【感覚共有】することで三冬ちゃんは会場全体の情報を把握できるのだ。
実際共有をしてみると、とてつもない情報量が流れ込み、三冬はかなりの頭痛に思わずしゃがみこむ。
一旦魔法を解除して一息つく。ともかくこれで目は作れたということに、三冬は安堵した。
「あとは、時を待つだけな……っ!?」
呟き目を閉じた瞬間頭に強い衝撃を受け、三冬は意識を失った。
◆
午前11時。みんなの歓声に包まれながら。アルコバレーノのライブイベントが開始された。
ステージに彼女達が登場し、会場はよりいっそうの喧騒に包まれる。彼女達を見ながらも桃音達3人は周りを警戒していた。
何を隠そう、里花はこの中に犯人がいると踏んでいた。自分たちで確認しつつ、三冬に見つけてもらう算段である。見つかり次第、あの指笛を鳴らしてもらう計画であった。
しかし、その計画は次の瞬間崩壊した。
ズドォォォン!!という轟音が鳴り響く。
会場全体が大きく揺れ、安全装置により電源が落ちた。
「なに!?」
里花は計画の失敗を悟った。
もともと、爆弾がある可能性は読んでおり、その対策として三冬に頼んでいたのだ。
何らかの理由で見つからなかったということになる。
(三冬が不審物を見つけられないなんて……)
里花は見たことないが、彼女は不思議な生物と友達だといっていた。それらの力を借りれば見つけられないとは思えないとも言っていた。
そこまで考え、最悪のシナリオに気づく。
「まさか、シルバは……!!」
「え、りかちーどこ行くのさ!?」
里花は桃音の言葉に耳を傾けず、外へ避難する観客たちの間をすり抜けて三冬の待機地点を目指す。
しかし、そこには誰もいなかった。
◆
爆発により柱を壊された会場は非常に大騒ぎになっていた。
計算ではあと1時間以内に潰れるだろう。
沢山の人々が絶望を感じているのを見て、会場のそばに忍ばせていた車のなかでシルバは愉しそうに笑っていた。
「シャッターは全て閉鎖した。もはやお前たちは袋のネズミだ……ははは!」
(厄介な少女達を閉じ込め、未知の力を使う少女を捕まえた。そして四十崎美桜はいない)
友人が亡くなったと知ったら、やつはどんな絶望を感じてくれるのだろうか?
シルバはそれを楽しみにしつつ次の一手をうち始めた。
◆
アルコバレーノのメンバーは一度楽屋に戻り、公演について緊急の話し合いが行われた。
「不味いことになったわね……」
警察に秘密裏に動いてもらったというのに、止められなかったというのか。黒田の頭のなかに国宮と名乗った男性刑事が思い浮かぶ。
「失敗してるじゃない!……あの男!!」
思わず机を叩いた。彼女はそれほどに怒っていた。
ふとリーダー……桃井さくらを見ると、妙にそわそわしていた。
「さくらさん?なんだかやけに落ち着かないみたいね?」
声をかけられたさくらは、意を決して伝えた。
「さっきからマイナスエネルギーが観測されてて……このままじゃ、みんなが魔物になっちゃう……私、助けに行きたい!」
「そう、ね……名残惜しいけど、ライブはこれっきりではないものね。……あなたたち!マイナスエネルギーを止めてちょうだい!!」
『はい!!』
アルコバレーノは手分けして、会場内でマイナスエネルギーを起こしている人を解放して回り始めた。
◆
会場に閉じ込められた桃音と島は、非常時だからと割りきって本来なら立ち入り禁止の、屋外通路……屋根などの外装を修理する人が使うような通路を通っていた。
「あのー……島さん?マジで言ってます?」
「ええ、大マジです。ここからなら20mくらい飛び降りるだけで脱出できます」
そう言うや否や、島は構えて思いっきり飛び降りた。
「四十崎流ーー転輪!」
技を叫んだ島はどういう理屈か、そのまま着地した。
受身を取って軽く身体をはたいて、次は桃音さんの番ですよーと島はいい笑顔で呼んでいるが、桃音はひきつった笑いを浮かべた。さすがにそれは、無理があるぞ、と。
見よう見まねで飛び降り、足を少し痛めただけですんだのはセンスの賜物だった。
「桃音さんは筋がいいですね!里花さんと合流したいんですが、彼女はどこから外に出ますかね?」
島はなぜか里花が外に来る前提で話しているが、そもそも会場はシャッターが落とされていた。外へ出ることができなかったからこそ「飛び降りる」という方法をとっていたにも関わらず彼女は里花が外に出てくることを信じて疑わなかった。
直後、彼女達のすぐそばにあったシャッターがおおきくひしゃげて「ガッシャァアン」と吹き飛んでいった。
「よし、脱出経路確保……って」
「里花ちん!?さすがにそれはやばくないかい?」
「許可は取ったから。緊急事態だしね」
よく許可降りたなー、と思うは島。
よくシャッターを破壊できたな、と思うは桃音。
何はともあれ合流を果たした三人は情報を共有した。三冬がいなくなっている事から、さらわれていた可能性が高いという結論に至った。三冬は里花をお姉さまと呼んで慕っており、大抵言う事を聞くので指示を違えるということは考えにくいのである。
「シルバは非常に勘が鋭いですからね……三冬ちゃんが自分にあだなす存在だと判断したから誘拐したんでしょうね」
「シルバって奴はどうすると思う?誘拐したんなら投降とか呼びかけてきそうなもんだけど」
そんな桃音の疑問に島は首を横に振り、即答する。
「シルバに『普通は』と言うのはアテにならないんです。きっと『仲間が助けに来る』前提で、アジトで身構えるでしょう。……と、私達が考える事を読んだ上で作戦を作ってるはずです」
「えっと、つまり……私達が助けに来るのをわかっていて、対策されているかもと?」
島は頷いた。
桃音は非常にめんどくさそうな顔をしている。
「なるほど。シルバって奴は、私達が正面から助けに来ると読んでるわけか。裏をかくなら、こっそり救出に行くとかすればいいわけねー」
桃音の言葉に里花は異なる意見を出した。
「いや……ここは、正面から突破しよう。相手の読みに乗ってやろうじゃないか」
里花はフッと笑った。
◆
目を覚ました三冬は、猿ぐつわをつけられて喋る事が出来ず、なおかつ親指同士を結束バンドで留められている事に気づいた。
(指笛はできない……手が動かないからロティたちに『使役』も出来ない)
なるべく冷静に状況を分析し、自分にできる抵抗手段が存在しない事にすぐに気づいた。
「目が覚めたね?どうだ、会場でたった一人生き残った感想は?」
三冬は言っている意味が最初分からなかった。
生き残った?
「ああ、会場にいた人は全員死んだ。シャッターを閉鎖し、爆弾を起動したんだ。柱は全て同時に壊れぺしゃんこさ」
死んだ??誰が?皆って、だれだ?
三冬は混乱し始めていた。
――お姉さま達は?
「悲しいだろう?君のお友達も、皆お陀仏なんだからね。ああ、好きに泣いていい。どうせ君も後を追うんだ」
ドクン。心臓が騒ぎだした。心が、言葉を理解したのだ。
男の言葉はまだ意識がハッキリしていない三冬の心を傷つけるには十分なものであった。
(死んだ……?お姉さまが?私が、誘ったから?)
自問自答と後悔をし始めてしまう三冬。同時に生まれる憎しみは、強大なマイナスエネルギーを生み出していた。
エネルギーの奔流を眺めながら呟いた。
「ほう、これほどとは。これであの方への借りは返せるな」
シルバは一部マイナスエネルギーを吸収し、自分自身を強化し半分魔物と化した。
自分自身の身体に起きた変化を確認し、思わず笑いがこぼれる。
「ははっ、素晴らしい!!感じるぞ、とてつもないパワーを!!これなら奴らを……島さえもコロせる!!」
「――誰を殺すんです?」
そんな声が、アジトに響いた。
不意に聞こえた声に多少驚きはしたものの、獲物が来た事に寄る喜びの方が大きいシルバは高笑いをする。
「お出ましか!!はははっ、ちょうどいいタイミングで来てくれたなぁ、島!!」
同時にアジトのシャッターが強烈な蹴りにより破られる。今度の破壊は島の仕業だ。
マイナスエネルギーを取られている三冬に里花はすぐに気づいて声をかける。
「三冬ーーー!!私は生きてるよ!!」
声が聞こえ、三冬は顔を上げ涙を流した。溢れていたマイナスエネルギーもあっという間にゼロになる。
しかし、シルバに吸収されたエネルギーは元には戻らなかった。
「えっ?」
素っ頓狂な声を上げたのは桃音だ。
瞬きをした瞬間に、すでに目の前に腕を振りかぶったシルバがいたのだ。
防御も出来ずに殴り飛ばされる桃音。常人ならざる力で殴られた桃音は受身を取れず、背中から壁に衝突し、崩れ落ちる。
「桃音さん!!……くっ!!」
島は急いで桃音の元へ向かおうとするが、瞬間移動かと思うような早さで移動してきたシルバに進路を塞がれる。
目にも止まらぬ速さでパンチを繰り出すシルバの攻撃を、島は間一髪防御した。しかし防御したにも拘らず吹き飛ばされてしまう。小柄な島に対して、力技での攻撃は相性が悪かった。
受身を取る事に成功したものの腕に受けた衝撃は尋常ではなく、しびれてしまっていた。
(化け物になってますね……どうしましょうか……ん?)
対策を練ろうとした矢先に、妙なものを見つけた。
それはさながら、ブラックホールのような黒い渦。
それは、「魔物の兆し」であった。
戦闘の余波に当てられ動き出してしまった渦は瞬く間に姿を変え、一匹のオオカミが姿を現した。
「げっ、魔物……こんな時に!」
何とか起き上がった桃音がオオカミを見て憎らしげに呟いた。
「これはちょっと、想定外だよ……」
里花は悔しそうに呟いた。
出現した魔物を見てシルバは嬉しそうに笑う。
オオカミは里花を見るなり走り出した。
「寝てろよ、犬っころ!!」
里花はオオカミの突進を回避してから顔面を蹴りつける。
ゴロゴロとオオカミは吹っ飛んでったが大したダメージにならず、なんの痛痒もなさげに起き上がった。
「俺を忘れてもらっては困るな」
「!?」
里花は気づけば真後ろに来ていたシルバに「腰」を思いっきり蹴られ大きく吹っ飛んだ。
尋常じゃない膂力に蹴られた影響で、里花は上手く立ち上がれないでいた。
「さらばだ、気高き少女よ。憎しみを抱いて死ぬがいいさ」
振り下ろされたナイフは里花の喉――その数cm手前で止まった。
シルバの腕にはピンク色のリボンが絡みついている。
リボンの根元へ目をやると、そこには一人の少女が立っていた。
「させないよ!!!!!!」
魔法少女が、そこにいた。
◆
里花たちがアジトに乗り込む少し前。
アルコバレーノは3人と、4人に分かれて行動していた。
海岸沿いに一際強いマイナスエネルギーを観測したが、会場のマイナスエネルギーを無視するわけにもいかないと判断したのだ。
「さくらちゃん、大丈夫?」
さくらの右隣を走っている黄瀬千秋が心配そうに声をかける。金髪でカントリースタイルのツインテールをなびかせながら走る彼女は、さくらの不安気な表情を心配していた。
さくらは大丈夫、と軽く手を振って答える。
「不安になるのも仕方ないわ……。こんなに強大なマイナスエネルギーを発生させるほどの憎しみが、生まれてしまったんだものね……」
青井海美がマイナスエネルギーの発生した方角を見つめながら呟いた。
三人は海岸の方に走り続けていた。
◆
「何者だ?貴様らは……いや、そういうことか」
シルバは里花から注意がそれ、その一瞬で里花は抜け出した。バク転を繰り返し距離をとる。
里花はさくら達を一瞥して、告げる。
「気を付けて!コイツ、化け物だ!」
「ガォォン!!」
横から狼がさくらに向かっていく。
「オメーはこっちだ、犬!!」
桃音がおもちゃの銃で牽制したことで、狼は桃音を追いかけだす。
「千秋姉さん!!いつも食べてるパン投げてほしいの!!」
縛られたままの三冬が叫ぶ。
「え!?こんなときに何を!?」
当然千秋は困惑した。手が塞がってるから食べさせて、ならわかるが投げろという指示は不可解だった。しかし、切羽詰まった声だったため半ば無意識にその手は鞄にいれていたパンを取り出す。
「オガサ屋謹製の『ゴロッとくるみパン』だ!持ってけドロボー!!」
大きく振りかぶってパンを投げた。
「リドラ!そのパンを対価に、三冬に力を貸して!」
「グゥゥーーン!!」
三冬には『壁をすり抜けてこちらにくるリドラ』が見えたが、他の人には見えていない。
そのため、くるみパンが唐突に消えたように見えたことだろう。なぜならリドラが食べたからだ。
満足そうに笑顔を浮かべたリドラは発光し、三冬に突進した。
三冬が唐突に光を放ち、衝撃波が発生した。
「三冬!?」
里花は驚きのあまり声をあらげる。
光が収まったそこにいたのは、赤い鎧をまとった三冬だった。全身にドラゴンの鎧をまとった三冬は大人びて見えた。否、実際に大きくなっているのだ。
「三冬?その姿は一体……」
「詳しい話はあとなの!」
言うが早いか三冬は炎をまとって拘束を解き、さくらを狙っていた狼を右手に付いた爪のような手甲で引き裂いた。吹っ飛んでいった狼は黒いモヤがかかり、そのまま消滅した。
「なんだその力は!?」
シルバが三冬に狙いをつけるが、高速で飛行する三冬を捉えるのは至難の技だった。
「よそ見しないで!あなたの相手は私たちだ!!」
さくらがリボンを放ちシルバの足をからめとる。
「当てる!ライジングショット!」
稲妻のように加速した電気の弾丸は6発ともシルバの右肩を撃ち抜いた。
「ぐぅぅ!……痛む、だと?マイナスエネルギーをまとう俺が!?」
「憎しみ、怒り……私たちの心、プラスエネルギーは嫌な思いを壊すんです」
シルバの後ろから声がした。
振り向いたときにはすでに袈裟斬りされており、
彼女……海美は素早く距離をとっていた。
「覚悟なさい!ビックウェーブソード!」
プラスエネルギーを乗せた斬撃は宙を舞い分裂し、大量の斬撃が津波のごとく押し寄せた。
斬撃の奔流に飲まれたシルバは痛みに苦悶の声をあげる。
「がぁぁぁ!!」
すべて受けきり満身創痍となったシルバ。
その身に宿ったマイナスエネルギーは大きく減少している。
しかし、シルバはただでは転ばぬ男だった。
「島が憎いっ!我がアジトに押し入り、一方的に蹂躙した四十崎美桜が憎いっ!お前らが来なければ、来なければ俺がいずれはトップにたてたというのに!!」
自分に言い聞かせるかのように思いを吐露する。
それは、憎しみを自覚することでマイナスエネルギーが生まれる、危険な行為だった。
たった今生まれた巨大な憎悪はシルバを飲み込み、再び魔物へと姿を変えた。
「あれ以上マイナスエネルギーを身に宿すなんて!無茶よ!」
その無理矢理な行動に海美は思わず叫ぶ。
「止まれー!光速六連発!!」
大腿部や腹など、本来なら致命傷になる部位を正確に撃ち抜いた。彼女の弾は雷であり、致命傷には至らないものの、大ダメージを負わせた。
「そうだ!俺は、島を、殺す!!」
しかし彼はまるでダメージなどなかったかのように島へと向かった。
「四十崎流ーー忍扉」
音速に等しい早さで迫るシルバの攻撃を、彼女は今度は完全に受け流した。
「部下にも言いましたけど……」
島は人間にしては常人離れした早さで肉薄した。
「ーー四十崎流に、同じ技を使うのは愚作です」
回転水平蹴り、かかとおとし、回転蹴りあげ、かかとおとし、回転蹴り。
すでに30発以上の打撃を着地せずに当てている。
「何あれ……」
島の人間離れした戦闘に、さくらは思わず呆然と立ち尽くしていた。
しかし、ダメージは与えられておらず、シルバは怯みこそすれど涼しい顔をしていた。
「どうした島ぁ?お前はこんなにも貧弱だったか!!」
シルパは近くにマイナスエネルギーをばらまく。
すると、先ほどと同じ狼が15匹出現した。
「うそ!?そんなことできんの!」
桃音はやってらんねー!っと叫びつつ、召喚された狼のうち1匹を銃で引き付けた。
「こんなことなら、護身用の技でも覚えとけばよかったな!」
里花は悪態をつきながらも狼の顎を蹴って注意を引く
「雑魚が邪魔なの!!バーストロック!!」
三冬が手を上に掲げ、炎の球が構築された。
そしてそのまま弾け飛び、細かくわかれた炎の球はすべての狼を貫き灰にした。
「バカな!?」
消滅させられたことにシルバは心底驚いた。
素早く滑空した三冬はシルバの懐に飛び込み爪を立てる。
しかし、魔物化したシルバにはダメージが通らなかった。
「なんて硬さなのっ!?」
三冬はシルバから素早く距離をとり、アルコバレーノの三人に告げる。
「お姉ちゃんたちじゃないとダメージは入らないっぽいの。私たちは援護に徹するの!」
三冬や島が物理攻撃でシルバの行動を妨害し、桃音は遠距離から射撃で牽制をし始めた。
「小賢しい!!」
シルバは大きく腕を振るうも、島によって完璧に受け流されて誰一人当てる事は叶わない。
さくらのリボンが再びきらめき、今度はシルバの胴体をぐるぐる巻きにする。
「ビッグウェーブソード!!」
「サンダーブレイカー!」
海美の放つ津波のような斬撃と、高速に飛来する稲妻の弾丸。
リボンに捕らえられたシルバにそれらを避ける術はなかった。
「ぐぁぁぁぁぁああああ!!!」
全身に焼けるような痛みが迸り、シルバはその場で膝をつく。
全身を覆うマイナスエネルギーも消滅していった。
「負けを認めよう……アルコバレーノの暗殺は、失敗だ」
「会場に爆弾が仕掛けられたり、前日に銀狼が暴れたのは、暗殺のためだったのですか」
島が問いかける。シルバは黙って頷いた。
「俺は美桜を絶望させたかった。奴のせいで無関係な人が死んだと知ったら、さぞ絶望することだろうとな」
シルバは立ち上がり、天井を見上げながら語る。
「マイナスエネルギーに太刀打ちできる存在がいたのは、計算外だった。俺の敗因はそこにある。そして――」
シルバは、入り口に集まったアルコバレーノと里花達を見て――ニヤリと笑った。
同時に倉庫全体に轟音が響き、地面が大きく揺らぐ。
「爆発!?」
シルバのアジト自体が爆発した。
建物は崩れ、シルバは埋まっていく。
「皆下がって!!!」
里花の言葉で我を取り戻した皆は急いでその場を離れた。
崩れて炎上しているアジトを見届ける。桃音はさくっと消防車を呼び出していた。
ガコォン!!
瓦礫が一部吹っ飛び、中から得体のしれない生物と成り果てたシルバが飛び出してきた。
顔がぐにゃりと歪み、シルバの顔は瞬く間に「口だけ」となる。
「私を人間だと思ったノガ、アナタ達の失敗ダ」
赤く光ったソレは、空に浮かび上がり、衝撃波を残してどこかへ飛び去ってしまった。
◆
アルコバレーノのメンバーは変身を解き、桃音、里花と共に会場へと向かう。
当然三冬も元の姿に戻っている。
「さくらちゃんって魔法少女だったんだね!!!かーこいいぃ!」
「ありがとっ!銃で牽制してる桃音ちゃんもかっこよかったよ!」
桃音はさくらと終始雑談をしながら歩いていた。
「ウインターちゃん、あの姿なんだったの?」
「妖精さんパワーで少しだけ大きくなれるの。リドラの好物がクルミなの」
千秋は妹分としてかわいがっている三冬がいきなり大人びた姿に変身した事に衝撃を受けていたのであった。
「雨崎さん、あのオオカミってなんだったんですか?」
「あれはねー、話すと長くなるんだけどー…」
里花は海美に途中に出現したオオカミについて解説する。
時折発生してしまう、魔物である事。そして、普通は見えないこと等を話した。
そうこうしているうちに会場に到着する。
そして、アルコバレーノの三人は愕然とした。
何もなかったかのように、ほどよく使用感の残る見慣れたイベント会場があったからだ。
「どうして……壊れたはずじゃ?」
呆然とイベント会場を見ているさくらをみて、桃音がニヤリと笑う。
「ふふふーすごいよね?びっくりした?」
そんな彼女に後ろから銀髪の少女が近づき、その頭に鋭いチョップを繰り出した。
「ていっ」
「いっだ!?手加減してよ絢音ぇぇぇぇ!」
桃音のクラスメイトの少女、藤堂絢音がそこにいた。
「桃音が無理言ったから絢音は予定つぶして駆けつけてくれたんだよ」
「激おこ」
絢音の後ろにいたもう一人の少女が説明した。
感謝しろ、と言わんばかりの眼光で睨んでくる絢音に桃音は感謝を述べた。
「伝言ありがとねーみくもん!マジ助かったよ二人とも」
「図書カード、5000円分」
「はいはい……今度買っとくね」
会話について行けてないさくらたちに桃音が気づき、紹介する。
「クラスメイトです!!!」
「椎名みくもです」
「藤堂絢音…」
軽い自己紹介を聞き、さくらたちは事情を聞いた。
桃音が「イベント会場壊れたの直して」とみくもをとおして絢音に伝えたこと。
絢音は読書の秋セール初日特典である50%オフを断念し、駆けつけたこと。
オーバーラップの魔法により、「イベント会場」を「3日前」へ戻したこと。
さくらたちは、先ほど三冬が変身するところを見たのとそもそも自分達が魔法少女である事から、「オーバーラップの魔法」をすんなり信じた。
「すごいね!会場まるまる直しちゃう上書きの魔法なんて」
「私達の魔法とは毛色が違いますね」
海美はそんな事を口にした。実際、オーバーラップズのメンバーとは由来が違っているのだ。オーバーラップズは「魔法少女」というほど魔法少女していないのである。
「それでさ、さくらちゃん!!ものは相談なんだけども!!」
桃音は思い出したかのように切り出す。
さくらは無言で続きを促す。
「私と三冬と里花、あと島ちゃんの4人分のチケット、もういちど便宜図れないかな!?」
おもわずぽかーんとしてしまうさくら。
この期に及んで、彼女達がアルコバレーノのライブを楽しみにしていたんだと知る。
さくらは自然と微笑んでいた。
◆
数時間後。
社長らとかけあった結果、今回だけは特別に後払い形式の公演と言う特殊な形式を取る事になった。ライブをそのまま実施し、終了後に会場出口に設置された「満足箱」に自分が払いたいと思った額を入れる仕組みである。実質タダのようなものである。
「やっと見られるね!!」
おおはしゃぎしているのは桃音。もともとファンだった事もあり、テンションはMAXである。
「サイリウム8本も使うの桃音……まあいいけど」
桃音が8本ものサイリウムを装備しているのに対し、里花は1本だけである。
「お姉さま!うちわも用意してあるの!!」
三冬は両手にうちわを装備していて、片方を里花に渡す。
そして鞄からもう一枚取り出した。
(どんだけ持ってんだ三冬……)
そう思わずにはいられない里花だった。
「私まで参加してよかったんでしょうか?楽しみですが」
島は少し萎縮している。なお、彼女の足元には桃音がレンタルした踏み台が二つ重ねておいてある。前に近いとはいえ最前列ではないため、138cmと小柄な彼女はそうでもしないとほとんど見えなくなってしまうのである。
次第に会場の電気は消えていき、会場はそれとなく静かになった。
軽快なポップミュージックが流れ出し、ステージをライトが照らし出す。
「どんなに大変なことがあっても!どんな人でも!夢を見ていい!!私は皆を応援してる!!自分だけの道を見つけられるように、この歌を届けます!――『Finder』!!」
アルコバレーノのライブが幕を開けた。




