私と祐兎くんと
「ん?」
机の上を片付けていた祐兎くんの手が止まる。
彼の目線が上がってくる。
私の視線と交わる。
「あ、あの」
勢いで声を掛けてしまったのが悪かった。
どうしよう。
まだなんて言うかも決めてないのに・・・。
「どうしたの?」
にこっと笑って私の次の言葉を待っている。
早く言わなきゃ。
「あ、あの私・・・」
「うん」
「わたし・・・」
「うん」
「私、祐兎くんのこと・・・。
す、好き・・・です」
「・・・」
ついに言ってしまった。
ついに。
私の気持ちを伝えられた。
長い沈黙が教室中に充満した。
部活動に勤しむ生徒の声だけが教室に流れた。
心臓が飛び出しそう。
ドキドキが止まらない。
手が震えてる。
顔が燃えてしまいそうなくらい熱い。
「・・・」
祐兎くんは真っ赤になる私から視線をずらした。
彼の視線は窓にささった。
2人とも口を開かないまま、どれほどの時間が過ぎただろう。
ほんの数分も経っていないのだろうが、私には何時間も経ったかのように思われた。
それほどの沈黙を破ったのは、目の前に座る彼。
「祐兎くんが、好きなんだね」
静かな教室に消えていってしまいそうな、細い声だった。
「え」
よく、聞こえなかった。
なんて言ったの?と私が聞き返す前に、彼が私の方を向いた。
息が詰まりそうになる。
「ごめん」
「え?」
「ごめん」
はっきり聞こえた。
「ごめん」って。
「ご、ごめんって」
「ごめん」
彼はそれしか喋らない。
つまり、私は。
私はたった今、初恋の人に振られたらしい。
「な、なんで・・・?」
自然と口から言葉が漏れていた。
きっと今、私の顔はひどいことになっている。
ひどく無理をして、可笑しな笑顔を浮かべている。
「・・・」
祐兎くんは何も言ってくれない。
膝に乗せたままのリュックに視線を落として黙っている。
「・・・ねえ」
「病気だから」
「・・・え?」
今、なんて?
「俺、病気だから。
だから、君とはつきあえないんだ」
「病気・・・?」
「そう、病気。
・・・信じられないって顔してるね」
「・・・信じられないよ
だって、いつも普通だったじゃん
体育だって普通に出てるし、学校休むことだってほとんど・・・」
「俺、体はどこも悪くないからね」
「え、じゃあ」
「なに?」
「・・・心の?」
「そう。
心の病気。
ひいた?」
「・・・ひ、ひいてなんか」
「嘘だね。
『心の病気か-。関わりたくないなー』って、思わなかった?」
「っ・・・」
「図星?
君、分かり易すぎ」
「・・・」
「もしかして、泣いてる?
ごめん
ちょっと言い過ぎたかも
でも、これで分かったでしょ?
君は、俺と付きあえないよ」