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マインドピース  作者: 黒崎蓮、宮原周一、うみうし、神山咲、佐藤葵、胃薬
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同じ二人

全く困ったことになった。

大学受験が終わり、無事進学も果たしたというのに入学式の当日からこんなことになるなんて誰が予想できるだろう。

神様のいたずらってやつだろうか。

初めてできた友達が、まさか同姓同名だなんて。



「おーい工藤」

後ろから呼ぶ声に振り返る。

「どっちの?」

「どっち?」

二人でその声の主に聞く。

俺はそいつの顔を知らないけれど、もう一人はそいつのことを知ってるようだ。

「いや、弘のほうなんだけど…」

そういわれても困るんだよな。

「俺ら、両方とも弘なんだ」

「えっ…」

そんな顔を見たのは何度目だろう。

だから二人で思わず笑ってしまった。




大学に入学して一ヶ月。

こいつと友達になって一ヶ月。

俺たちは何度もこんな場面に遭遇した。

それもすべて、俺たちが同姓同名だからだ。

俺の名前もこいつの名前も「工藤 弘」という。

入学式の時は困ったものだ。

人が少ないおかげで入学式では新入生の名前がすべて呼ばれ、もちろん俺の名前も順番に呼ばれるはずだった。

だけど俺の名前が呼ばれたとき、俺の前にはまだ人がいた。

そして、俺が返事をすると目の前に座っていたそいつも返事をした。

周りから見たら俺が先走って立ってしまった馬鹿なやつに見えただろう。

でもその直後、もう一度同じ名前が呼ばれ、そこで俺は気が付いた。

ああ、こいつは俺と同じ名前なんだ。



「結局ヒロセのほうに用だったんだな」

食堂でしょうが焼きを食べながら話す。

「コウタも意地悪だね、関係ないってわかってたのに」

「いやいや、ついね。おもしろくって」

「まぁわからなくもないけど」

ヒロセはうどんのつゆを飲み干すと立ち上がった。

「じゃあ俺は呼ばれたから行ってくるよ」

俺はそれに手を振っていってらっしゃいと送り出す。

さっきの人はヒロセに今日の昼にサークルの集まりがあることを伝えに来ていたらしい。

さて、俺は俺で用事があるしさっさと昼飯を片付けてしまおうか。

「弘、そこ空いてる?」

後ろから声がかかった。

同じサークルのゆりだ。

「もうすぐ空くよ」

「残念、ご一緒できると思ったのに」

「残念そうに見えないよ。それにご一緒する時間もないだろ?今日の昼は集まりがあるはずだし」

「あれ、知ってたんだ。焦る弘も見てみたかったけど」

「俺は予定はしっかりと書いておく主義なんだ」

そういってゆりに向かって手帳を掲げた。

「そうなんだ。私そういうのできないんだよね。手帳とかいっぱい持ってるけどだいたい白紙のまま次の年になっちゃう」

「そこは人それぞれだよ。俺は書かないと忘れるってだけだし」

手を合わせ、ごちそうさまとつぶやく。

「さて、行こうか」



サークルの集まりの場所近くまで来たけど、迷ってしまった。

いや、場所は間違っていないけど、問題はその先。

はたして集合場所はどちらの教室だったか。

どちらの教室にも人が集まっているし、顔見知りもいる。

突然の話だったから、どっちの教室で行うのかも忘れてしまった。

「弘君、どうしたの?」

「ああ、サークルの会議があるらしいんだけどどっちの教室だかわからなくて」

向こうはこっちの名前を知っているらしいけれど、こっちは向こうの名前を知らない。

顔はなんとなく覚えている気がする。

けど、人の少ない大学と言ってもかなりの人数がいる中で、似たような顔の人にあったような気もする。

「それならこっちだよ」

手を取られ、左側の教室へ。

「本当にこっちでいいのか?」

「私、そんなに信用ない?」

「名前もわからないような人に信頼しろって言われてもね」

そういうと彼女は少し悲しそうな顔をした。

「この前自己紹介したんだけどな」

そうだっただろうか?

「ほら、サークルの終わり際に少し一緒に歩いたでしょ?」

ああ、そうだ。

そういえばそうだった。

けど、自己紹介されたことは思い出せても肝心の名前が思い出せなかった。

「私あんずっていうんだけど。一度で覚えてもらえる自信、あったんだけどな」

覚えがない。

もともと人の名前と顔を覚えるのは苦手だ。

「ごめんね。名前と顔覚えるの苦手で。高校までの時みたいに毎日顔合わせてないとなおさら覚えないんだ」

「いいよ。じゃあこれから覚えてもらえればいいし」

そういって隣に座る彼女、あんずは笑った。

怒られたり呆れられたり、急かされたことは何度もあった。

けど、こんな風に笑われたの初めてだな。

「変わってるな」

「それ、私のこと?そういう君も結構変わってると思うけど?」

そのあと、お互いくすくすと笑いあっていた。



「やっほーゆり、充実してる?」

「暇がないっている意味では充実してるけど?」

食堂でゆりと飯を食べていると、いきなり誰かが話しかけてきた。

「そんなことじゃなくて。青春してるかって意味だよ」

俺には理解できない理屈だ。

「そういうあんずは?」

「私?そうだね、最近気になる人ができたかな」

「へぇ、意外だね。先月までどうせ大学の男なんてー、とか言ってたのに」

「そう思ってたんだけどね。実際交流してみてそうじゃない人ってのもいるってわかったし」

こういうとき、なんとなく居づらい。

俺には関係ない話が聞こえてしまうし、少しだけ疎外感も感じる。

出来れば、早く話が終わってほしいものだ。

終わらないなら俺が席を立ってしまおうか。

「で、それは誰なの?」

「んー、知ってるかどうかわからないけど、工藤弘って人だよ」

「はっ!?」

「えっ!?」

俺?

こんな人知らないぞ。

「あ、ごめんね、今日の昼集まりがあるんだった。じゃあゆり、またね」

そういって彼女は去って行った。

俺たち二人に衝撃だけ残して。

「あんずと知り合いだったの?」

「いいや、今日初めて見たかな」

「ならどうしてあんなこと言われてたの?」

なんでだろうと思ってふと気が付いた。

「そういえば、工藤弘ってもう一人いるんだよ」

今朝一緒に授業に出ていたじゃないか。

最近お互いをヒロセやらコウタと呼んでいるから名前が一緒だってことをすっかり忘れていた。

「弘と同姓同名の工藤弘がもう一人いるってこと?」

「そうだよ。ついでに漢字も全く一緒の」

ゆりは冗談でしょ?といった顔のまま固まってしまう。

それもしょうがないか。

多分、それを知った俺とヒロセもそうだっただろうからな。

「とうことはあんずが言ってたのはもう一人の工藤弘のこと?」

「そうだね、俺あの人のこと知らないし。さっき初めて会った」

「そっか。よかった」

「何が?」

「なんでもないよ」

何が良かったんだ?

知り合いじゃなかったことが良かったのか?

「でも全く同じ名前じゃ不便なんじゃない?お互い自分の名前呼んでるようなもんでしょ?」

「だから俺はあいつのことをヒロセ、向こうは俺のことをコウタって呼ぶんだ。できればそう呼んでほしいって皆にも言ってる」

「ヒロセとコウタね。ところで、私知り合いなのにそんなこと聞いてないんだけど?」

なんだか少し怒ってる?

というより膨れてる?

「じゃあ今度からコウタって呼んでほしいな」

「わかった、コウタね」

そういう彼女の替えに浮かぶ笑顔に、すこしだけ心臓が跳ねるのを感じた。



「ねぇ工藤君、このサークル以外にもいくつかサークル入ってたりする?」

「いいや、ここだけだよ」

あんずが突然そんなことを言ってきた。

「んー、じゃあ勘違いかな?ほかのサークルにも工藤君がいるって話聞いたんだけど」

もしかしてそれは。

「もう一人の工藤弘、じゃないかな」

「もう一人の?意味が分からないよ」

「ああ、言ってなかったっけ。同姓同名で別人の工藤弘がいるんだよ」

そういえば言ってなかった気がするなぁ。

聞かれなかったし。

「初耳。じゃあ私が聞いたのはそのもう一人の方かな?」

「サークルの名前は?」

そうして彼女が言ったサークルはコウタが掛け持ちしている二つのサークルだった。

「ああ、じゃあそうだね。コウタの方だよ」

「コウタ?」

「二人とも工藤弘だし、あだ名みたいなものかな。俺はヒロセ」

「なら私もヒロセって呼ぼうかな。ほら、ヒロセも私の名前呼んでよ」

正面からそう求められ、俺は固まってしまう。

女の子の名前を呼び捨てにするなんて、そんなことできない。

「…苗字は」

「教えない。名前は教えたよね。私自分の名前気に入ってるし、そっちで呼んでほしいな」

彼女は意地悪だ。

こうやって俺が赤面しているのを見て楽しんでいるのを俺は知っている。

ただ、悪くないかな、なんて思ってしまう自分がいる。

「あんず…さん」

「おしい。どうしてさんってつけちゃうかなー」

「勘弁してよ…慣れてないんだから」

「ほらヒロセ、もう一度」

「誰か助けてくれ…」

高校の時になかったこんなやり取りが今は楽しい。

そういう意味では彼女…あんずと出会えてよかったと思える。




「ヒロセ!」

授業もなく食堂でゆっくりしていると見知った顔が見えたので声をかけた。

「おはようコウタ、早いんだね」

「おはようってお前な、ちょっと早いがもう昼飯の時間だぜ?」

「昨日ゲームしててね。気が付いたら朝だった」

「珍しいな。ヒロセはゲームしないと思ってた」

俺は割と手広くゲームをやるし、最近は手を出せるゲームが増えて喜んでいるぐらいなのだけれど。

「コウタが好きになるわけがなんとなくわかった気がするよ…。おかげでうまく寝付けなくて」

「っておい、そういうゲームかよ」

前話したときはその手のゲームに興味がないと言っていたはずなのに。

「興味本位でパッケージを見てたらついね…」

「好きな人に似てたとか?」

「…」

図星なのか…。

「やっほー、その二つ空いてるかな?」

ゆりがやってきた。

隣にはこの前会った…確かあんずとかいう人だっただろうか。

「あれ、ヒロセじゃん。ということはその向かいの君がコウタ君かな?」

「ご名答。ヒロセから聞いたのかな?」

といってもそれ以外考えられないか。

そのあと四人で昼飯を食べ、ちょうどかぶっていた次の授業もまとまって受けた。

俺とゆりが何気ない話をしていた後ろで、どうやらヒロセはあんずさんを呼び捨てにできないらしく散々いじられていた。

授業が終わってまた食堂に戻り、アイスなどを食べながらサークルが始まるまでの時間をつぶしていた。

「なんかいいな、こういうの」

ふとした俺のつぶやきに他のみんなもうなずくのが見えた。

「ねぇ、これから遊びにかない?」

あんずの提案にきょとんとする。

「いやいや、これからサークルに行くためにここで時間をつぶしてるんだからさ」

「一回ぐらいサボったって大丈夫だって。部活じゃないんだし」

なるほど言うとおりだ。

週に一回ぐらい出てくれるだけでいいって先輩も行っていた。

「いいね、行こう」

「私も賛成」

「いや、でもさ」

俺が賛成し、ゆりも乗ったというのにヒロセだけまだ渋っている。

「はいはい、そういうのはいいからね。さぁ、行こうよ」

結局ヒロセはあんずに引っ張られる形でついてきた。

文句を言いつつついてくるつもりらしい。

さて。

「どこに行こうか?」

一番前を歩いていた俺は振り返る。

そこには俺の友人達がいた。


                   written by 宮原周一

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