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十三話

 翌朝、俺は結局昨日も宿泊することにした雨宿り亭で朝ご飯をたらふく食べ、幸せな気持ちでアリス先生に指定された集合場所である学園の門の前に向かった。

 もちろん凛とフー子も一緒に付いて来ている。凛はいつものように俺の肩に乗り、フー子は獣の姿で俺の横をテコテコ歩いている。

 大通りを抜けてしばらく歩き、学園の生徒達もちらほら見受けられるようになった頃、学園の門の前まで到着する。すると、既に先生が仁王立ちで俺を待ち構えていた。ずっとそうしていたのだろうか? 生徒達はさぞ入り辛かっただろうな……。


「逃げずに来た様だな」

 こちらを見てニヤリと不気味な笑みを浮かべるアリス先生。逃げたほうが良かったと思わせるようなことが、これから起こるのだろうか……。

 俺の中で不安が膨らんでいく。今から逃げ出すのは有りだろうか? 無しだろうなぁ……。それに、目の前で仁王立ちしているこの人物から無事逃げ切れるイメージが湧かない。

「じゃあ早速学園への編入手続きをするから、私に付いて来い」

「は、はい」

「はーい!」

 俺に続いてフー子も元気よく返事をする。周りにいた生徒達がギョっとしてこちらを見て立ち止まるが、一緒にアリス先生がいるのを確認すると、微妙な顔をしながらもまた学園の校舎に向かって歩いていった。

 リーザがフー子を見て召喚士の話していたが召喚された生物等、この世界では言葉を話す動物という存在もそれなりにいるのだろうか?

 凛についても異世界から来たことや元の世界では神様に仕えていたことを伏せれば、言葉が話せることや人の姿になれることは明かしても問題ないかもしれないな。

 そんなことを考えている間にもアリス先生はズンズン校舎に向かって歩いていくので、俺も遅れないように急いで歩き出した。


 校舎の中を好奇の目に晒されながら先生に付いて行くとある部屋の前で立ち止まった。

「ここが学園長室だ。昨日の時点で編入の話は通してあるから今日は挨拶だけだが、失礼の無いようにな」

 そういって先生は部屋のドアをノックする。

「学園長! 魔法科のアリスです。昨日話していたコータを連れてきました。」

「分かりました。どうぞ入ってください」

 中からは意外と若い女性の声が返ってきた。

「はい。ありがとうございます」

 そういってアリス先生がドアを開ける。促されて一緒に中に入ると、細緻な装飾が施された絨毯や調度品が置かれている豪華な造りの部屋の奥に、一人の女性が座っているのが見えた。

 学園長というからには勝手なイメージで初老の男性を想像していたが、目の前の女性はまだまだ初老というには若すぎる。その女性は俺と目が合うとゆっくりと立ち上がり、柔らかな笑みを湛えて口を開く。

「初めまして、コータさん。このエルミナ学園の学園長をしています、ミランダ・エルステッドです。話はアリス先生から聞いています。イーリスの依頼については学園としても無条件で協力したいところなのですが、残念ながら色々なしがらみもあるためコータさんにはこの学園の生徒になっていただくこととなりました。学園や神殿と無関係の者がイーリスから直接依頼を受けたと言うことになると問題になるのです。学園生活についてはできるだけの協力をしますので、何か困ったことがあれば、私やアリス先生に遠慮せず相談してください」

「は、はい。ありがとうございます。そ、それであの……イーリスの件を学園の依頼として正式に扱ってらうための条件の件なんですけど……」

「ええ。アリス先生から聞いたと思いますが、来月行われる学園内のチーム対抗戦で優勝してもらうことと、そこのフー子ちゃんが壊した校舎の修理費を払ってもらうことという二つになります。チーム対抗戦についてですが、アリス先生からこの学園の生徒からもイーリスの依頼への志願者がいると聞いています。我が学園の生徒を危険な所に送り出すことにもなるので、これが譲歩できる最低ラインだと考えてください。修理費の方の方については学園から定期的に依頼という形で色々な物が出ていますので、それを有効に活用してください。あ、校舎の修理費用は100万ギルになるので、頑張ってくださいね」

 そういってニッコリと微笑むミランダ学園長。笑顔なのに、なぜか思わず寒気を感じてしまった。やっぱり校舎を壊したことは怒っているんだろうか。しかし、100万ギルかぁ……どれだけかかるか想像がつかないな。


「ねーねー、コータ。ひゃくまんぎるってどのぐらいのなのー?」

 一応お金と言う概念は分かるらしいフー子が聞いてくる。

「そうだな……昨日買ってやったお菓子あるだろ? あれが10個入りで1つ100ギルだったから、それが1万個……宿の部屋いっぱい買ってもあまるぐらいのお金だって事だ」

「わー、すごいねー。じゃあたくさん食べられるね!」

「いやいや、もらえるんじゃなくてこっちが払わないといけないんだからな」

「え~、なんで? コータ悪いことしたの?」

「してねぇし! 払うのはお前の壊した校舎の分な!」

「えっ?……ごめんなさい。僕……悪い子なの?」

 急に不安そうな顔になるフー子。尻尾もなんだかシュンとしおれているようだ。

 なんだかいじめているみたいで心が痛む。

「別にわざとじゃないんだからいいさ。今度から気をつけろよ。後、これからお金をたくさん稼がないといけないからちゃんと手伝うんだぞ」

「うん!」

 俺が膝を付いて頭をなでてやると、どうやら機嫌も良くなったようだ。しかし、やっぱりフー子の毛並みはふかふかしてて気持ちがいいな。

 しかし、先程から気になっていたが肩に乗せている凛がやや不機嫌だ。肩に爪が食い込んで痛い。何か気に障るようなことをしただろうか。


「あらあら、仲がいいんですね」

 そう言ってこちらに微笑みかける学園長。でも、と続ける。

「でも、その子のことはまだあなた自身もよく分かっていないみたいだから、何か変わったことがあればすぐに私やアリス先生に相談するようにしてください。問題が起きてしまうと、かばいきれなくなることも出てきてしまいます。それでは最後になりましたが、エルミナ学園へようこそ。コータさん、あなたを我が学園に歓迎します。イーリスのこともありますが、学園の生徒としても大いに学び、楽しんでくださいね」

「は、はい。ありがとうございます。これからよろしくお願いします。」

「学園長、ありがとうございました。よし、じゃあ早速教室に向かうぞ」

「はい」

「はーい!」


 学園長室を出てアリス先生の後について教室に向かう。もう授業が始まる時間だろうか? 廊下にも生徒の姿は見当たらない。

 そうして学園長室を出てすぐの階段を昇り、少し歩くとすぐに目的の教室に着いた。アリス先生は俺達に少し待っているように指示を出すと、授業前のざわざわとした教室の中に入っていく。

「おい、お前ら静かにしろ。そろそろ朝礼を始める時間だ。黙らないと魔法をぶちかますぞ!」

 最後の発言で一瞬にしてして静まり返る教室。よく訓練されている兵士のようだ……。いや、ただの恐怖政治か。

 教室が静かになったことに満足したのか、アリス先生は後を続ける。

「今日は授業を始める前に編入生を紹介する。おい、コータ! 入って来い」

「は、はい」

 俺は教室のドアを開けて教壇の上に上がる。教室を見回すと年齢もバラバラの30名弱ぐらいの生徒が視界に入った。男女はそれぞれ半分ぐらいだろうか。

 その中にリーザとエステアの姿を見つける。リーザは俺と目が合うと小さく手を振ってくれる。エステアは、自分は無関心とばかりに顔をそらしている。

 凛とフー子を連れいていることもあり奇異の目で見られているのはもちろんだが、リーザがこちらに手を振っているのを見てから、男性陣の視線が刺々しい物に変わったような気がする。

「こいつは、今日からお前達と一緒にこの魔法科で学ぶコータだ。訳あってこんな時期の編入となったが、みんな仲良くするようにな。それじゃあコータ、自己紹介しろ」

「あ、は、はい。川神幸太といいます。これから皆さんと一緒に学ぶことになりました。これから頑張りたいと思いますので、よろしくお願いします。」

 緊張で頭が真っ白になったが、教室に来るまで何度も頭の中で反芻した言葉をなんとか言い切ることができた。すると、リーザを起点に、まばらな拍手が起きた。

「じゃあウッドマンの隣に空いている席があるからそこに座れ。奥のあの席だ」

 そういって教室の右隅の席を指差す。おそらくウッドマンであろう軽薄そうな男が、何が嬉しいのか笑顔で手を振っている。とりあえず案内された通りの席に着席すると、待っていましたとばかりに早速話しかけてくる。

 このウッドマンという男も俺と同じで、周りの生徒より年上のように見える。この学園は年齢で学年分けをしているのではないようだ。

「よぉ! 俺はライザー・ウッドマン。ライザーって呼んでくれ」

 そう言ってウインクして見せるライザー。早々に会話する気が失せるが、なんとか気持ちを立て直して挨拶する。

「あ、ああ。よろしく。さっきも挨拶したが、俺は川神幸太だ」

「よろしくな、コータ! それにしても動物連れとは珍しいな。しかも2匹とも見たこと無いし。動物好きなのか?」

「いや、まあ色々と事情があって。説明が難しいな……」

「そうか……。それがこんな時期の編入の理由だったりするのか?」

「まあそんなところかな」

 そんな曖昧な答えを返すが、ライザーはあまり興味がなかったのかとりあえず納得してくれた。

 そして、ライザーはそんなことより……と続ける。

「なぁなぁ、コータはリーザとは一体どういう関係なんだ? 学年一の美少女に手を出すとはやるじゃないか!? 俺にもその技を伝授してくれよ」

 そう言って拝むポーズをするライザー。

 しかしこの男は整った顔立ちをしているのに、行動や言動が全てを台無しにしている。黙っていればもてるのに……というタイプだろうか。それはそれで悲しいな。

「いや、別にそんな仲じゃないよ。ただの友達だ」

「またまた~。まあ一応そういうことにしておいてやるか。でも、他の男子生徒達はそう思ってないみたいだけどな」

 そう言われて周りを少し見回すと何人かの男子生徒と目が合ったが、皆一様にこちらを睨んでいる。たしかにライザーの言う通りのようだ。どこかで誤解を解かないとまずそうだな……。


「じゃあそろそろ授業を始めるか。最初は基礎魔法実習だったな。皆急いで外に出ろ。10秒で支度できない奴は消し炭にしてやる! 10……9……」

 わあああああぁぁぁぁっという悲鳴やら怒号やらが聞こえ、皆一斉に教室を飛び出していく。

 な、なんだよこれ!? 10秒って理不尽すぎるだろ!

 って、窓から飛び出してるやつもいたぞ!? 頑張りすぎだろ……。

 俺もよく分からないままに走り出す。と、廊下の途中でリーザとエステアの二人と偶然合流する。

「な、なぁ。あの人の授業はいつもこんな感じなのか!?」

 廊下を失踪しながら二人に問いかける。

「え、えーと。大体こんな感じかなぁ?」

 苦笑いで答えてくれるリーザ。困った顔で隣を走るエステアを見る。

「大方、またお見合いにでも失敗したんでしょ。お見合いで失敗した時は大体荒れるから」

「めちゃくちゃ理不尽な理由だな……」

 個人的な恨みを生徒にぶつけるなよな。まあとにかく覚えておこう、アリス先生にお見合いの話は禁句っと。

 

「そういや、あんた」

「ん?」

 今気付いたけど、といった感じでエステアが話しかけてくる。

「魔法科に来たのはいいけど、あんた魔力が無いんじゃなかったっけ?」

「あ……ああああぁぁぁぁ!!」

 色々有ってすっかり忘れていた。

 そういえば俺魔力ないじゃん! だから祝福も無いじゃん! どうすんだよこれっ!?

 魔力が無いことを思い出し盛大に慌てるが、既に外への出口が見えてきていた。

 俺、消し炭確定ダナ……。人生の終わりを覚悟して俺は最後のドアをくぐった。


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