プロローグ
お久しぶりです。幽猫です。
最近ようやく創作意欲が戻ってきたので、投稿します。
今回は区切りのいいところまで書いているので、一旦そこで完結させます。
反響があれば、続きを書くかも?
廊下を走ってはいけません。
誰しも学生だった頃に一度は耳にしたお小言だと思う。事実、私も普段から注意する側の人間で何回も口にした覚えがある。
けれど、今。私はそのお約束を盛大に破り捨てている。
「こら、危ないぞ!」
すれ違ったジャージ姿の先生が振り向きざまに叫んだ。まだ入学して半年程度で名前もわからないけど、私としてはふざけんなこんにゃろー、である。
あんたにはそうは見えてないかもしれないけど、こっちは命の危機を感じてるんだ。緊急時にそんなもの守ってたら死んでも死にきれない。パトカーがサイレンを鳴らすようなものだ。
私は一瞥もせずに全力でワックスでぴかぴかになっているフローリングの床をダッシュした。滑って足を取られないようにするには相当神経を使う。でも立ち止まるわけにはいかなかった。
「……撒いた?」
ほんのわずかな希望も虚しく、それは背後から迫ってきていた。私は二階へと続く階段を駆け上がり、踊り場を抜けて再び廊下へ出た。
途中、防火シャッターを閉める非常ボタンが目に留まった。薄いカバーで覆われたそれは、押し込むと頭上から鉄の壁が自動で降りてくる仕組みだ。
一瞬、躊躇ったものの押すことは出来なかった。押せばこの状況、助けになったかもしれない。でも得体の知れないバケモノに襲われているだなんて、誰が信じてくれるだろう。
また階段を駆け上がり、三階へ。
脇腹が痛い。体力には自信あるほうだけど、呼吸するのが辛くなってきている。持久走でピークに達したときの、あの感覚だ。
「いい加減にしてよね、もう……」
夜になると化学準備室の人体模型がひとりでに動き出すとか、音楽室に飾られているベートーヴェンの肖像画が睨みつけてくるとか、そういう怖いふうの話はいくつか知ってるけど、そんなかわいいものじゃない。
私が襲われているのは、骨の怪物だ。
人間の髑髏にムカデみたいな肋骨をくっつけたような、醜悪な姿。あんなのが襲ってきたら、パニックになるに決まってる。
恐怖と酷使で小刻みに震える足腰を必死に抑え、私は三階の非常扉の裏側に身を隠した。あわよくば見過ごしてくれないか、という算段だった。
まだ荒い息を整えながら、私はこれまでのことを振り返った。
つい先日まで、私はどこにでもいる普通の女子高生だった。しかし、昨日の今日で、その平穏だった私の世界は大きく変わってしまった。
そのきっかけは、私のちょっと不思議な友人だった。




