033.お見合い
オレのファンだと言う彼女に、なんでオレの戦っている姿を知っているのか聞いてみると、ある動画を見せてくれた。香港でバエルと戦っている時のものだ。位置的に、第五中隊と共に避難させた住民が、建物内の窓から撮影していたみたいだ。
「え? めっちゃ恥ずかしいんだけど」
自分が知らない内に、全世界に晒されるという辱めを受けていたのだ。恥ずかしい以外の感情なんて湧かない。あ、バエルに心臓刺されたところだ。
「これ見て君のファンになっちゃった」
「そう、なんですね」
両手をで口元を隠しながら言う彼女。か、可愛い。クーナさんとはまた違った良さがある。オレは照れ過ぎて素っ気ない振りをしてしまう。
「はは、初々しいな! 歳寄りはいなくなるから、若者同士で楽しんでくれ」
再びオレの肩をトントンと叩き、ガブリエル大統領が去ろうとする。いや、待て待て待て。オレなんで呼び出されたの!?
唖然としたオレは、挨拶だけして満足して去るガブリエル大統領の背中を見送る。
『我々も忙しいので失礼する』
続いてコマンダーもいなくなる。金髪美女のミカエラさんと共に残されたオレ。
無言の時間が続くが、先に沈黙を破ったのは彼女だった。
「とりあえず、君の部屋行ってもいい?」
これがモテ期という奴か!?
オレは頷き、彼女の言う通り部屋に招待するのだった。転送装置に乗るのに抵抗がない様に見えた事から、慣れているのに気が付く。どうやら、大統領特権で色々とやっているのかもしれない。
アメリカの軍事基地、特別に与えられた個室で彼女にお茶を用意する。粉末を溶かすだけの細長い袋に入ったスティックタイプしかないが。それに普段紅茶なんて入れないから、お湯の量があっているのかも分からない。
「おいし」
椅子に腰掛けている彼女が、一口飲んでそう言う。絶対に美味しい訳がないのに、なんて出来た子なんだろう。オレじゃなければ危うく惚れてしまうだろう。歳を聞いてみたら、同い年だった。これも運命・・・なんて。
「ねえ、聞きたいんだけどさ。戦う時って怖くないの?」
どうやら戦うオレのファンだというのは嘘じゃないみたいだ。好奇心から、彼女はそう問う。正直最後に恐怖を感じたのはいつだっただろうかと思い出してみる。
初めて戦地に行った時、マックスが殺されたのを見て、トウテツに恐怖した。だけど、そのすぐ直後に輸送船に潰されて死んだと思った。疑似的とはいえ、一度『死』を経験したのだ。
そして戦場での出来事がフラッシュバックして、頭がおかしくなりそうな時、クーナさんがそばで支えてくれた。それ以降、オレは一度も恐怖を感じた事がないのかもしれない。死の経験とトラウマの克服、その2つでオレの頭のネジは外れてしまったのだろう。
「最初は凄く怖かったけど、今は怖くないかな」
「そうなんだ。さっきも言ったけど、戦ってる時の君はカッコ良かったよ」
「ありがとう。でも・・・結局、今までの戦いで守れたのはただの一人もいないけど。ホント、笑えるよな」
自虐して、自分自身を嘲笑う様にそう言う。守ろうとした人を誰一人として守れずに死なせてしまったオレの事を表現するのに適した言葉はなんだろうか。愚か者? 卑怯者?
卑屈かもしれないが、失ったものがあまりにも多すぎた。自分でも、今どんな表情をしているのか分からない。うまく作り笑い出来ているだろうか。折角質問してくれたというのに、オレのせいで暗くなってしまった。その状況を打破する為に、今度はオレから明るい質問をする事にした。
「ミラーさんは、こ――」
自分の緑茶を入れたオレの唇に、いつの間にかそばまで来ていたミカエラさんの人差し指が触れる。驚いて緑茶を溢しそうになる。
「ミカエラって呼んで。他人行儀なのは嫌い」
小悪魔みたいな笑みが向けられる。本当に彼女は男心をくすぐるのが上手いというか、ドキッと心臓を跳ねさせる天才なのかもしれない。ただでさえ穴の開いた事のあるのに、これ以上心臓に悪い事はしないでもらいたい。
「ミ、ミカエラ・・・」
「なぁに、ケイジ」
小学校の時は、女子から名前で呼ばれる事が多かった。だが、中学生になってからは苗字で呼ばれる事が多く、名前で呼ばれる機会なんてあまりなかった為、同い年の女子に名前を呼ばれてドキッとしてしまった。だから心臓に悪いのは控えて下さい。
「ミカエラ、は高校生なんだよね?」
「そうよ。現役の高校生。日本みたいに制服は着ないけどね」
映画やドラマでも、アメリカってみんな私服で学校に通っているイメージがある。それは間違いではなかったようだ。
「オレは高校生を経験したのは2週間ぐらいだったなぁ」
その後すぐに召集されてしまったから。って事はオレの最終学歴は中卒になってしまう。もし戦争が終わるまで生き残れたら、就職できるかな? そんな下らない未来を予想しながら、緑茶を一口飲む。
「私のセーラー服姿見たい?」
突然の発言にブッと、口に入れた緑茶を噴き出してしまった。更にむせてしまい、咳が出る。そんなオレを見て、クスクス笑う彼女。も、弄ばれている・・・。
百戦錬磨の様に振舞う彼女と、経験値ゼロのオレとでは、戦いにすらならなかった。




