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黎明を灯す光 ~神に至る道~  作者: Mr.Z


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030.イモータルボーイ

『香港防衛作戦』は、オートマタが戦場に配備していたドローンによって、その全容がリアルタイムでモニターに表示されていた。その光景を見ていた宇宙防衛軍上層部、各国の大統領や首相は、言葉を失っていた。


 新型オメガ2種の登場により、作戦に参加した隊員が一人のみを残して全滅したからだ。クトゥルフを含む既存のオメガ相手には、今回死者は一人も出なかった。だが、新たなその2種の魔の手によって部隊は壊滅。多くの命が奪われたのだ。


 新型オメガはすぐに命名された。青い脳の羽音を発して人間を洗脳するのは、蠅の様な外観から異能型オメガ ベルゼバブ。特殊な周波数の音を使い、人間を洗脳する。洗脳は解除された際に、自害するプログラムも組まれているという徹底ぶり。安全な洗脳の解除方法を見付ける必要がある。


 また、ケイジが最後に倒した透明になれる化け物は、新しく設けられた特攻型に区分された。そして名前は悪魔の名前からとってバエルと名付けられた。特攻型オメガ バエル。


 悪魔バエルは他者を透明にする力を与えられる。また、カエルや猫、人間を混ぜた見た目をしている。


 今回現れた特攻型のバエルは、自身が透明になれる、複数の虫と甲殻類が混ざった見た目をしているといった近しい共通点がある事が由来となっている。


 バエルの透明化の能力は凄まじく、光を完全に遮らない。つまり透明度100%を誇っていた。ガラスの透明度は90%程度と、100%ではない。そのせいでガラスは光を反射するし、屈折もする。


 だが、バエルの透明度100%は光が反射しなければ屈折もしない。視認する事が絶対に不可能なのだ。それに加えて全身の温度調節も可能で、赤外線にも反応しない。完璧の擬態能力と言えるだろう。


 ただし、そんな能力にも弱点はある。それはエネルギーの消耗が激しいという事。バエルが透明状態の時、連続で攻撃してこなかったのは単純にできなかったのだ。要は、都度休憩をはさむ必要があった。そのせいで、攻撃の合間に時間が発生していたのだ。


 また最悪な事に透明化を無効化した場合、透明化に使っていたエネルギーを全て戦闘に回す為、非常に狂暴化する。透明化を無効化するのは諸刃の剣とも言える。


 バエルはその強さのあまり、数が少ないのか、今回の戦場では1体しか確認されなかった。その1体に少なくとも第七中隊200人と第五中隊40人強が殺められた。


 そして心臓を貫かれても尚、戦い続けてその悪魔を、バエルを殺した少年。ケイジ・ウルシハ伍長。


 先日ガブリエル大統領の指示によって、急遽二等兵から伍長まで昇任した少年。特別扱いしたのにはこんな理由があったからなのかと、他国の代表がガブリエル大統領に視線を向ける。


 当の本人も、内心では驚いていたが、表情にそれを出す事はなかった。


 クーナはその映像を見た瞬間に部屋を抜け出し、彼の救出に向かった。先日襲撃された際に、オメガと人間の血によって穢された大地の復興に行っており、先程までアールヴヘイムで作業をして疲弊しているというのに。そんな彼女を止める者は誰もいなかった。


「さて、彼のおかげで辛うじて人類は勝利する事ができたが、課題は山積みだ」


 ガブリエル大統領がそう言うが、学遠平主席は机を叩き怒鳴る。


「何が辛うじて勝利しただ! 2千の軍人の中で生き残りはたったの一人! それに我が同胞達は500人近く犠牲になっているのだぞ! その事に関してはどう補償するつもりなんだミラー大統領」


「逆さ。たったの500人しか犠牲が出なかったと考えたまえ。それとガブリエルと呼んでくれ。私は自分の名前が好きなんだ」


 彼の言う同胞というのは、国民の事だろう。その犠牲者の数から、今回の作戦は失敗だと言わんばかりの彼に対して、ガブリエル大統領は首を振って否定した。


 そして距離を縮めたいからという理由ではなく、自分の名前が好きだから名前で呼べというガブリエル大統領。


 確かに、ファーストコンタクトの際は人類が1時間で50万人殺戮の限りをつくされた事に比べれば、今回の作戦は軍人を含めれば犠牲者は2500人程度。少ないとも言えるだろう。


「ふざけるなぁ!」


 そんなガブリエル大統領の態度に対して、学遠平主席がヒートアップしている。その事を気にも留めず、ガブリエル大統領の頭の中には、娘のミカエラとウルシハ伍長の面会の場をすぐに設ける事で頭がいっぱいだった。他の国に取られるよりも早く――。


 一方で、ヨハネス連邦大統領はフランス大統領のサミュエル・ショパンとお喋りしていた。


「彼の名前、イモータルボーイってどうかな?」


「直接的すぎないか? もっと詩の一節みたいな名前にしたらどうだろうか?」


「んー、救世の天使とか神の使いとか?」


 ヨハネス連邦大統領はその少年の二つ名を決めようと、サミュエル大統領に名前の候補を考えていたのだ。各々が好き勝手やっている中、コマンダーが口?を開く。


『諸君、問題発生だ。香港での戦闘がネットで配信されている』


 その言葉を聞いても、正直誰も気に止めなかった。今の時代、情報がネットに流出するなんて日常茶飯事だからだ。


 とはいえ、今回の作戦はあまりにも多くの戦死者を出している。この事を突かれては、今後の政治活動に関わると判断したガブリエル大統領と学遠平主席は、コマンダーに動画の削除を依頼する。


『了解した。念のため撮影者の端末のデータも削除する』


「頼んだ」


 コマンダーがすぐに対応してくれたものの、画面録画機能を使って戦闘シーンの一部が切り抜かれた動画が瞬く間にネット上に拡散された。コマンダーが本気を出せば全て消し去る事も可能だが、それはそれで問題になり兼ねない。隠蔽工作をしているという疑念を抱かれるのを避ける為、放置する選択をした。


 結果的にそれは正解だった。数日後には、ネット上でその動画はフェイクだのAI生成だのと叩かれ、誰も信じる事はなかった。真実を知っている者、もしくは戦っていた者が自身の家族だった者以外、それが本物だと誰も信じなかった。


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