245.双星
目の前に群がるバステト。その全てが改良型となると、苦戦を強いられるのは目に見えている。それどころか先程の雷撃を千匹近くいる改良型から同時に撃たれてしまえば、逃げ場などない。
それにトウテツやベヒーモスの群れもいる。2人だけで殲滅できるとは到底思えないこの状況。時間稼ぎすら出来るか怪しい程だ。改良型なんて、もはや新型と変わりない。それを僕達だけで相手するなんて、あまりにも無謀だ。
「僕達、生きて帰れるかな?」
『骨は拾えたら拾う』
「僕の妹が優しく成長してくれて泣きそうだよ」
『ん。兄のおかげ』
確かに、お兄さんのおかげで僕達は生きる理由も戦う意味も見出す事が出来た。それにお兄さんと出会えていなければ、僕達は今頃盗みを働く悪党になっていたかもしれない。
『それと妹じゃなくて姉。ルカが弟』
「はいはい」
こういったところも強情で可愛らしい妹だ。数分早く生まれた以上、僕が兄なのは変わりようのない事実。一生僕が兄でクララが妹だ。
なんて下らない事を考えていると、改良型に動きがあった。どうやらクトゥルフが連携してブラックホールを生み出すのと同じ様に、改良型が10匹並んでヒゲを上に向けて伸ばすしている。その先の空気が蜃気楼みたいに歪むと、バチバチと音を立て始めた。
そして再び僕の髪が逆立つ。雷が放たれる予兆だが、先程のは1匹によって放たれたもの。それが10匹分となると、威力は単純に10倍かもしれない。掠りでもしたら体が木っ端みじんになるか、雷で神経がダメになるか、熱で中からコンガリ焼かれるか・・・。碌な事にならないのは確かだ。
次も避けられる保証はない以上、後ろに下がるよりも前に出るべきだと即座に判断を下す。地面を強く蹴り前進。何かを企んでいる改良型に向かって刀を振るう。耐久力は通常のバステトと変わらないらしく、首を斬り落とすのに成功する。
そのまま勢いを維持しながら残りの9匹も仕留めようとしたが、残り5匹のところで視界が眩い光が視界いっぱいに広がった。
ダァアアアアンッ――
一瞬遅れて轟音が鳴り響き、鼓膜がバカになる。キーンッという耳鳴り以外の音が一切聞こえなくなる。
――音が聞こえない・・・。
そして宙を舞う体。視界に映るのは青空。
――良い天気だ。
きっと、この空の向こう側でお兄さんが戦っているのだろう。地面に体が叩き付けられ、漸く自分が吹き飛ばされていた事に気が付いた。
「ぐっ」
雷で撃たれたせいで全身がひどく痛む。それに体が動かな・・・動く・・・? 神経に異常がないらしく、動かないと思っていた体が動いたのだ。
一体何故かと思ったが、ある事を思い出した。このスーツはパルスグレネードで誤爆しても問題ない様に、電流が効かない様になっているのだ。
つまり、スーツを着用している限り電気は効かない。痛みや吹き飛ばされたりしたダメージは防げないけど、致命傷になる事はないだろう。
――まさか、忘れかけていたこのスーツの仕様に助けられるなんて・・・。
そうなるとこの改良型との戦いに必要なのは根性だけだ。僕だってこの数年、遊んできた訳ではない。根競べだったら負けないさ。
『骨は拾う』
痛む体に鞭打って、何とか起き上がる。このままだと本当に死んで、白骨化した遺体をクララに回収されかねない。止まっていたらまた攻撃されると、一歩、また一歩と足を進めて改良型へ迫る。
段々と痛みが引いたのか、痛みに慣れたのかは分からないけど、体を動かすのが楽になってきた。これなら走れる、そう思って走ろうとした瞬間、眼前に群がっていた改良型が突然弾け飛んだ。
パァン――と風船が破裂するみたいに。その身が爆散したのだ。クララのサイコキネシスではない。これは――
後ろに視線を向けると同時に、30機程いる新型ソルジャーが隊列を組んで改良型に一斉射撃を始める。
ダダダダダダダダダダダダッ――
絶え間なく銃声が鳴り響き、改良型が一掃されていく。イザベラさんが使っているのと同じバトルライフルは秒間1発しか撃てないが、その威力は凄まじい。それを2門備えた新型ソルジャーが30機いるのだ。その一斉掃射による火力は騎士団全員での射撃をも上回る。それどころか今となっては射撃の火力だけで言えば軍の中で最高クラスだろう。
その圧倒的な火力の前に、改良型は一瞬で十数秒でほぼ壊滅状態になってしまった。これでは僕の活躍する場がなくなってしまうなんてがめつい事を内心思った時、残った数匹の改良型が死に際に雷を放ち、新型ソルジャーに命中する。
機械の身であるソルジャーにとってはその一撃は致命的だった様で、回路が焼けたのかそのままダラリと脱力して動かなくなってしまった。
「そんな・・・」
改良型は殲滅したとはいえ、2人で普通のオメガの群れ4万近く残っている軍勢を相手しなければならない。非常に厳しい戦いになるだろう。クララも大型以外の相手には向かない。つまり僕が一人で戦わなければならない状況。
『がんば』
「他人事みたいに言わないでよ」
超回復がある為、長期戦は難しくはない。ただ、流石にこの数を一人で相手するのは初めてだ。けど助けは望めない。どこも似たような状況だから。自分達の事は自分達で何とかしなければ。
「ここが正念場だ」
『眠い・・・』
「サボったらお兄さんに言いつけるからね」
『むぅ・・・。出来の悪い弟を持つと大変』
「はいはい」
それからおよそ2時間におよぶ激戦が繰り広げられる事になる。今更普通のオメガを相手に後れを取る僕達ではないけど、結果を言ってしまうとオメガの殲滅は2時間では出来なかった。遅れて助けに来てくれたお兄さんが残りを倒したのだ。
結局、全てお兄さんが片を付けてくれたおかげで事なきを得た。お兄さん自身もさすがに2人と新型ソルジャーだけで全滅させるのは無理だろうと励ましてくれたけど、きっと、昔のお兄さんなら勝っただろう。
僕達だけでも出来ると証明したかったんだ。だというのに失敗した。僕達は――
『眠いから帰る』
――僕も・・・クララみたいに呑気でいられたら・・・。
『ルカは兄じゃない。兄は誰にも真似出来ない事をやってのけてきた』
それは・・・確かにその通りだ。お兄さんの偉業は誰にも真似出来るようなものではない。
『出来の悪いルカには到底無理』
「・・・全く」
言い方は酷いけど、クララの言う通りだ。僕はお兄さんにはなれないし、成してきた事を真似出来る程有能でもない。
ただ僕は、お兄さんの横に並んでも恥ずかしくない、相応しいと言われる存在になりたかっただけなんだ――




