014.会議
アールヴヘイムでの防衛任務が終わった1時間後。
アメリカのワシントンにあるホワイトハウスの上空に浮かんでいる巨大な戦艦、オートマタの母艦である『ノアの箱舟』の中で、宇宙防衛連合の会議が行われていた。
その組織の代表であるアメリカ大統領ガブリエル・ミラーとロシアや中国・ドイツといった多国の代表、宙に浮かぶ黒い球体であるオートマタのコマンダーとクーナの姿がそこにあった。ただ、先進国の代表が大勢いる中、日本の代表の姿は見られなかった。
「たった2回の戦闘で9千人近くの命が失われた。この由々しき事態を改善すべく、今後の対策を練る必要がある」
ガブリエル大統領が会議の音頭を取り、進行役を務める。
「しかし、具体的に対抗策をどうやって考えるというのだ? 今回確認されたオメガはオートマタやアールヴも初めて遭遇した新型種なのだろう?」
そんな未知の存在に対してどう対抗手段を練るのかと、中国の国家主席である学遠平が尋ねる。その顔には隠す気がさらさらないのか、不機嫌そうな顔をしながらガブリエル大統領を強く睨みつける。
「その点に関してはコマンダーから説明がある」
ガブリエル大統領はそんな学遠平主席の態度を気にも留めずにコマンダーを一瞥。すると彼? は自身の目と思わしき部分から水色の光を放つ。それは空中で立体的な絵の様に形になり、あるものを映し出す。
「わお。ホログラムか」
誰かが呟く。そんな事よりも、そこに映し出されたものが問題だった。
「それはコミックかい?」
先程に引き続き、ドイツ連邦共和国大統領のヨハネス・バッハが問う。そう、そこにあったものはコミックや小説、ゲームといった娯楽品が映し出されていたのだ。
『肯定。我々がオメガと接触してから24年11か月と17日が経過。そしてアールヴはおよそ17年。今まで交戦したオメガは素早い、固い、力が強いといった強靭な肉体を持つ個体しか存在しなかった。しかし、ここに来て初めて君達人類が描くフィクションと同じ様な力をもつ個体が現れた。我々はこれを偶然とは考えていない』
「するとなんだ? コマンダー君はオメガが人間の創作品、フィクションを参考にして力を付けていると思うのかい?」
ヨハネス連邦大統領は信じられないと言った表情で問う。それに対して学遠平主席は「バカバカしい」とあざ笑う。
『肯定。オメガのファーストコンタクトで殺害された人間の脳から記憶を解析し、異能型オメガが新しく生み出されたと我々は考えている。そして今後もそう言った特殊な力を持った新型の個体が生み出されると予測される。実際、今確認されている多くのオメガは、アールヴヘイムに存在する動物や昆虫をベースとされている』
その言葉に誰もが言葉を失う。創作品の力を模倣するという点。確かにその点においては今回の異能型オメガ クトゥルフは超能力の一種であるサイコキネシスを使っていた。そしてその力でブラックホールを生み出し、あっという間に4000人近くの人間を殺戮した映像を見た時は、この場にいる誰もがオメガの脅威というものを改める必要があると感じた。
そんな個体が今後もどんどん出てくるという話は、絶望以外のなにものでもない。
「いやいやいや、それを言ってしまったらアールヴの魔法だって我々からしたらフィクションみたいなものだ。今までの戦いの中で戦死してしまったアールヴから記憶を読み取られていたとしたら、魔法を使えるオメガというものが出てきたとしても可笑しくはないんじゃないかな?」
確かに、と誰もが頷く。が、その場にいた唯一のアールヴであるクーナがそれを否定した。
「我々アールヴが使う魔法は、ユグドラシルの加護を授かって初めて行使する事ができる。そしてユグドラシルは加護を与える相手を自身で選んでいるのだ。つまり、オメガが私達アールヴという存在を模倣したとしても、ユグドラシルが加護を授ける事は絶対にない」
その話を聞いて誰もが同じ疑問を抱く。それに対して、ヨハネスはストレートに聞き返す。
「君は、樹に意思があると言うのかい?」
「当たり前だ。ユグドラシルだけじゃない。全ての自然に意思は存在する」
オメガが現れる前はフィクションの存在だったエルフが信じられない話をしているが、今では宇宙人も異世界人も魔法だって存在するのだ。信じられない存在があるとしたら、後は『神』ぐらいだろう。
ヨハネス連邦大統領が言葉を口を開けて呆然としていると、コマンダーがホログラムを消し去り、今度はユグドラシルを映し出す。
『アールヴの力の根源にはユグドラシルが存在する。一方で君達が創作した作品の中には、特にルーツを設けずに個人の力として扱えるものが多い。そういった類の中から模倣できる力を選別したと推定。超能力に関しては、脳の一部が突然変異した人間が扱えるといった作品が多くみられる為、異能型オメガの大部分は脳で構築されていると考えられる。今回は被検体が入手出来なかった為、研究が出来ないので憶測になるが』
「うぐっ」
その嫌味に対してクーナは唇を噛みしめ静かに反省するのだった。




