123.お仕置き
目が覚めてしまった以上、何かをして時間を潰したかったが、体に力が入らない為再び眠りにつく事にした。
そして翌朝。手術台で眠りについたオレはみんなに囲まれていた。ちなみにその表情はオレが昏睡状態から目覚めて喜びに満ちている。・・・訳ではなく、怒りに満ちていた。
「ねえケイジ? なんで私達が怒っているか分かってる?」
「えぇと・・・。最近お出かけしてないから?」
ミカエラに問われるが、死にそうになった事以外心当たりがない。もしかしたら日頃の鬱憤が溜まっているのかもしれない。前に出かけた時、みんな凄い量の買い物をしていたから。
「違うに決まっているでしょ!」
珍しく、っていうかミカエラに初めて怒鳴られた。
「今回の戦いの事に決まってるだろ?」
イザベラがそう言ってオレの方に腕を回してくる。が、その力は非常に強い。頸動脈を絞められて苦しい程に。
「ぐ、ぐるじぃ・・・」
「ん? ああ、わざとだからね」
ヤバい・・・。ホントに滅茶苦茶怒ってる・・・。
あのメイシャですら止める素振りを見せない。クーナさんもだ。腕を組んで一切動こうとしない。正直、こうなる事も予想しなかった訳ではない。ないけど、ここまで怒るとは思ってもみなかった。
「ケイジは私達に傷ついて欲しくないから自分で何とかしようとしたんでしょ?」
首を絞められているのに抵抗しようとするも、力が入らない為一切抗えない。そんな中、ミカエラが真面目な顔をして聞いてきた。同時に、イザベラが腕を離す。
「でもねケイジ。あなたが私達に傷ついて欲しくないと思うのと同じぐらい、私達もケイジに傷ついて欲しくないって思ってるの、分かってる?」
確かにその通りだ。オレの事を想ってくれていなければ、怒ったりしないだろう。
「・・・分かってます」
つい敬語で返事をしてしまった。彼女達がオレを想ってくれている事は、痛い程分かっている。
「そう」
ミカエラはそれ以上、何も聞く事はなかった。逆にそれが怖い。
「まあ、そこは弱いアタシ達にも非がある。けどね、アタシ達はそんな頼りないかい?」
「そんな事・・・」
一瞬助け船が出されるかと思ったが、そうじゃなかった。そしてオレは、イザベラの問いに対して何も言えなかった。それもそのはずだ。正直、オレでも勝てなかったベリアルを、彼女達がどうにか出来ると思っていなかったからだ。
だが、オレの期待以上に彼女達は善戦していた。最初の連携なんていつの間に練習していたのかと驚いた事を覚えている。攻撃力さえあれば、彼女達が負ける事はなかっただろう。だというのに、オレは彼女達には無理だと心の底では思っていた。いや、思ってしまっていた。
オレの中で、いつの間にか彼女達の事を仲間ではなく、保護対象として見ていたのかもしれない。
「ごめん、なさい・・・」
そんな風に思う様になったのはいつか分からないが、それが間違っているのは今なら分かる。彼女達の事をもっと信じていれば、最初からこんな事にはなっていなかったかもしれない。そう考えると、今回の件はオレが全面的に悪い。
いつからこんな風に思い上がっていたのだろう。彼女達とは対等のはずなのに・・・。自分が上だとは思っていない。ただ、彼女達に戦ってほしくないと思っていた。もちろん、大切な人を危険な目に遭わせたくないのは当然のことだ。
でも、彼女達も戦う決意を、覚悟をしているのだ。それを無下にして、自分だけで何とかしようなんて傲慢にも程がある。つまり――
「調子に乗ってた・・・。自分だけで何とか出来るって。オレが何とかしないとって。でもこのあり様で、結局みんなに助けられて・・・。ホントにごめんなさい」
頭を下げて、ひたすらみんなの返事を待つ。今のオレに出来る事はm誠心誠意謝罪する事だけだから。どれだけ待たされても文句は言わない。許してもらえるまで謝り続けるしかない。
何時間でも待つを覚悟していたのが、すぐに誰かがオレの肩を掴む。
「みんな意地悪し過ぎだ。今回のオメガは全員で束になっても勝てないのは分かっているだろう。ケイジが命懸けで戦ってくれなければ、ここにいる誰かが死んでいてもおかしくなかった」
それはクーナさんだった。彼女の言葉に、誰も言い返せなかった。みんなで戦えば違った結果になったかもしれないが、それだって例え話だ。逆に誰かを失っていた可能性だってある。正解は何かは分からない。
「けどケイジ。頼られないというのは、寂しいものだ。だから次は、私達を頼ってくれ。約束できるか?」
クーナさんに両頬を掴まれ、顔を覗き込まれる。およそ10センチメートル程の距離でその綺麗な青い瞳に見つめられ、オレは言葉を失った。その瞳には涙が浮かんでいた。何度も命を救ってくれた恩人でもあるクーナさんを、泣かせてしまった。
こんな事、二度とあってはならない。絶対に。
「・・・はい。もう一人で戦ったりしません」
「うむ。それなら私から言う事はもうない」
満面の笑みで返事をするクーナさんに、ドキッと心臓が跳ねる。ホントに可愛らしくて綺麗な人だ。思わずキスしようとしてしまったところで、ミカエラが咳払いをした。まだ怒っていると思うので、そんな彼女の前で呑気にキスしている場合じゃないと気を取り直す。
「まあ私達にも非がない訳じゃないから、これぐらいで勘弁してあげる」
「すみません・・・」
「優しいねぇミカエラの嬢ちゃん。アタシとしては、体に覚えさせるのにお仕置きが必要だと思うけど」
ミカエラからも許され、円満に終わりそうだったのにイザベラが油を注ぎ始める。
「それもそうね」
そして便乗するミカエラ。いや、着火か。
「分かってるじゃないか。という訳で坊や。病み上がりだろうけど、これから一日中搾り取ってやるよ。嬉しいだろ?」
「いや、今のオレ体に力はいらないし・・・。それに再生もまだ機能してないんだけど・・・」
再生の力が戻っていれば、この脱力感も消えるはず。消えていないという事は、未だに常時発動型のオメガ因子が不活性状態になっているという事だ。
「へぇ。なら今の坊やなら簡単に任せられるし、どんな事をしても抵抗できないって訳かい?」
それを聞いたミカエラが、途端に目を輝かせる。非常に嫌な予感がする。いや、嫌な予感しかしない。
「お仕置きなら何してもいいって事よね? そうよね!?」
鼻息を荒くして興奮するミカエラ。前にも見た事がある。あれはヴォーティガンを倒した時、『竜の日』と記念日が出来た日だ。その日、ミカエラのお尻を触った仕返しとしてお尻をまさぐられた。
あの時のミカエラと全く同じ顔をしている。この状況は非常にまずい。が、今のオレに抵抗する術はない。
イザベラに担ぎ上げられ、樽や米俵の様に運ばれる。
「ガキ共は留守番してな」
おそらくガキ共というのは、クララやアンジェの事を言っているのだろう。逆を言えば、オレを救い出せるのは彼女達だけだ。
「クララ! アンジェ! 助けて!」
と救いの手を求めるが、反応はなし。
「最初からそうやって助けを求めていればこうはならなかったであります」
「ん。クララも混ざる」
正論を叩きつけてくるアンジェとイザベラに付いて来ようとして引き留められるクララ。どうやらオレがお仕置きされるのは確定してしまった様だ。確定したのがお仕置き以外にもあった事は、一生思い出したくもない・・・。




