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守護獣召喚――従ってくれません

「認めないも何も、俺がお前を召喚したんだぞ!」


スラムの裏路地。ゴミの匂いと昼間から酔っぱらいの叫び声が遠くに聞こえる。

そんな場所で俺は、目の前にいる、この見た目だけならスラムに咲く一輪の花のような美少女と、にらみ合っていた。


「召喚した?はっ、勝手に呼び出してなにいってんの」


「勝手にって。そりゃ⋯」


「アタシ、従いたい相手にしか力貸さないの。」 


「まあまあ、落ち着いてヒイロ」


ハカセがなだめようとするが、俺は即座に反論した。


「これが落ち着いてられるか!」


ハカセは少しだけ苦笑してから言った。


「実は本で読んだことがあるんだけどね。

守護獣は普通、召喚者に従うものが多いけど――

中には、“認めた相手にしか従わない”強力な個体もいるらしいんだよ」



「ってことは、こいつに……俺は認められてないってことか」


「そうそう。そんなに従わせたいならまずはそのガキっぽさをどうにかして?」


「こ、このやろっ!」


生意気なこの女に、思わず掴みかかろうとした、その瞬間――


「あばばばばばばばばば!!?」


体中に電撃が走った。体がガクンと跳ねた。目のまえがブラックアウトしかける。


「てめぇ……召喚主に電撃食らわせるとはどういう神経してんだ!」


「ビリビリうれしかった? じゃあね、"召喚主"さん」


エイルは軽やかに空を舞い、ふわりと飛び去っていった。


「あいつ飛べんのかよ! おーい、戻ってこーい!」


俺は叫んだが、あいつは振り向きもせず消えていく。


「うーん、これは……どうにかして認めてもらうしかないみたいだね」


ハカセが言った。


「でも、どうやってあんな強そうな守護獣を召喚できたの? ヒイロって、魔力量少なかったよね」


「それがさ……よく分かんないんだけど。頭の中で声がしたんだ。

“スキル《魔力レンタル》を発現しました”って」


「えっ、新しいスキル? しかもあの場面で?」


「あとさ、ヒイロの胸元……青く光ってたよ。あれ何?」


「ん? ああ、小さい頃から胸に変な模様があるんだよ。ほらっ」


俺はシャツをまくり、胸元の紋章を見せた。


「これは……魔力術式の一種だと思うけど……複雑すぎて、今の僕には解析できないや。ごめん」


「いや、ハカセが謝ることじゃねぇよ」


「でもそのスキルどっかで・・・。

その声って、ほかに何か言ってた?」


「ええと、“どれくらい魔力必要ですか?”って聞かれたな――」


「うん」


「だから“全部”って答えた」


「……全部?」


「そしたら“魔力量一万貸します。返済は一ヶ月後”って」


「い、一万っ!?」


ハカセが絶句した。


「一般人の魔力値の平均が百で、冒険者だと平均五百、そしてヒイロは三百だったでしょ? 貸すってのはよくわかんないけど一カ月で一万かえすっての普通に考えてやばい気がするよ……」


「でも、あん時はやるしかないって思ったんだよ」


「そっか……。とにかく今はエイルさんを探そう。まだ、そんなに遠くにはいってないはず――」


「おーい、エイルー!」


街へ戻ると、祭りの喧騒と人混みが俺たちを飲み込んだ。

この人の海から、どうやってアイツを見つけろってんだ……!


そのとき――近くから怒鳴り声が聞こえてきた。


「ちょっと! あんた金持ってないのかい? なのに勝手に食べるとはどういうことだい!」


声の方に向かうと、果物屋の店員のおばちゃんと、エイルがいた。なんだ?言い争いをしてるのか?


「なんで食べちゃダメなの?」


「お金払ってないからに決まってるだろ!」


「……ああ。お金か。召喚久しぶりすぎて忘れてたわ」


そのとき、エイルと目が合った。


「あっ、ご主人さまぁ〜♡ ここのお金、払ってくれますか?」


「はあっ!? 何言って――」


「もしかしてこの子、あんたの守護獣かい?」


「い、いえ……いや、えっと……はい……」


「ごめんなさい。おばさん。

実は私のご主人様が全然ご飯をくれなくて、つい……」


エイルは下を向き、泣き真似をしている。


「まぁ! なんて可哀想なの!

あんた、守護獣は奴隷じゃないんだよ。ご飯くらいちゃんと食べさせてあげな!」


「いや、ちょっと待って、違――」


エイルは両手で目を押さえながら、口元はニヤついていた。


「ほら、お金出してくれる?」


おばさんの怖い表情に圧倒される。


「……いくらだよ」


俺はなけなしの金を店員のおばちゃんに渡し、エイルの手を引っ張る。


「おら、行くぞ」


「きゃ〜っ! 無理やり連れてかれる〜っ!」


通行人たちの視線が痛い。俺の精神力がゴリゴリ削られていく。


なんとか人混みを抜けて、スラム近くの路地まで戻ってきた。


「……なにか言うことは?」


「別に? なにか文句でもある?」


エイルはまったく悪びれていない。むしろ挑発的な笑みを浮かべていた。


そのタイミングで、ハカセが戻ってきた。


「……ああ、よかった。エイルさん、見つけたんだね」

「あっ、メガネ君じゃん。ご主人様がこのリンカ、買ってくれたの〜」


「いや、“買わされた”んだよ……!くそお前なんてカードに戻ってろ。あれ?なんで戻らないんだ?」


「アタシ自身の魔力で出てきてるんだから戻る必要ないでしょ?」


「そんなバカなことあるか!」


「ヒイロ。上位召喚獣は、自分の魔力のみで自立して過ごせるんだよ。今はとりあえず、先にギルドに行って、守護獣の登録してくるといいよ」


「ああ、分かってるよ。おい、エイル!今から一緒にギルドに来てくれ。国で決められてて、必要な事だから」


「ええー、どうしようかな。そう言われたら行きたくなくなっちゃう。じゃあさ。“ワン”って鳴いたら行ってあげる」


「なんだと。おまえ調子に乗ってると⋯」


「ヒイロ、ギルドに連れていって。登録してない守護獣は――危険扱いされるよ」


「もし暴走なんてしたら……ヒイロの冒険者資格、剥奪されるかもしれない」


ハカセが、俺の肩を抑えて耳元で説得してくる。


「ぐぬぬぬ……」


俺は拳を握りしめたあと、顔をそむけて小声でつぶやいた。


「……ワン」


「アハハハハハ! ほんとに鳴いたー! じゃあ可哀想なお犬ちゃんのために行ってあげるね」


「あ、後で覚えてろよ」


「ん~、何かいいました?召喚者さん。アタシ行かなくても良いんだよ」


「いえいえ、何も言ってませんよ。エイルお嬢様」


アハハハハハハ


ワハハハハハハ


お互いの顔を見合って笑い合う。


「何なのこの2人、コワイんだけど。全然目が笑ってないし」


ハカセの声が虚空に響いた。

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