ギルドで守護獣登録します!
ハカセが「ちょっと用事がある」とのことで一旦別れ、俺とエイルは王都オルティアにあるギルドへ向かった。
ギルドの扉をくぐった瞬間、いつもの雑多な空気が肌にまとわりつく。
獣臭、鉄のにおい、怒号に笑い声。依頼の張り紙に群がるのは、俺と同じ若造からベテラン冒険者まで、顔ぶれも騒がしさも相変わらずだ。
「で? ここに何しに来たの、“召喚主”さん」
隣をふわふわと浮いていた金髪の少女――エイルが、欠伸まじりにそう言った。
「ギルドで守護獣の登録、まだしてなかったからな。あとで面倒になる前に、済ませとく」
「ふーん。人間ってほんっと面倒ね。昔はそんなの、いちいちなかったのに」
「……登録制度って100年以上前からあるんだけど。お前、もしかして……相当な年寄り?」
「だれが年寄りよ! いい? 守護獣に“年齢”の概念なんてないの。それに、レディに年齢を聞くなんて失礼でしょ!」
ぷいっとそっぽを向いたエイルは、腕を組んだままふわふわと浮いたままギルド内を見渡す。
その姿に、通りすがりの冒険者たちがぽかんと目を見張っていた。まぁ、気持ちは分かる。
受付まで進むと、いつもの優しげな顔が手を振ってくる。
「ヒイロくん、いらっしゃい!」
ギルド受付嬢のミレアさんだ。世話焼きで、どこか“お姉さん”っぽい雰囲気がある人。
「今日は依頼? ……あら、その子は?」
「あー、こいつが俺の守護獣。名前はエイル」
「……え、ええええええ!? ヒイロくんが……守護獣を!? 本当に!?」
目をまんまるにしたミレアさんが、慌ててカウンターの奥に駆け込む。戻ってきたときには、書類と魔力量を測る魔導器を抱えていた。
「はいっ! まずは召喚者の申請と、守護獣の魔力量の測定ね!」
「測定器ってちゃんと動くの? 壊れても知らないわよ」
「えっ、壊れる!?」
エイルは小さくため息をつきながら、ふわりと着地すると、指先で軽く測定器に触れる。
――ピピピピ……ピーーーーーーッ!
「きゃっ!? 針が……振り切れて……っ!?」
ギルド内がざわめく。冒険者たちの視線が一斉にこちらに向けられ、ヒソヒソ声が飛び交いはじめた。
「測定器、壊したぞ……あの可愛い子ちゃんが」
「見た目は子どもなのに、あの魔力量……あいつ、ヤベェな」
エイルはチラッと俺の方を見て、つまらなさそうに言った。
「終わった? もう外に行きたいんだけど」
「待て待て、まだ手続き中だ!」
呆然としながらも、ミレアさんは書類をまとめ、俺にギルドカードを手渡してくる。
「推定魔力値、15000以上……これで守護獣の登録は完了です。……すごい子を召喚したのね、ヒイロくん。でも、本当に、無理だけはしないでね」
「わーってるよ」
「じゃあ、次はヒイロくん自身の魔力値も測っておこうか?」
「え、俺も? 前と変わってねーと思うけどな」
軽い気持ちで指をプレートに乗せる――が。
「……ヒイロくん」
ミレアさんの声が、わずかに震えていた。
「数値は……八百七十よ」
「……は?」
一瞬、意味が理解できなかった。一月前に測ったときは、たしか三百七十だったはずだ。
「魔力値って、一月でそんなに上がるもんなのか……?」
隣からひょこっと顔をのぞかせたエイルが、首をひねる。
「いえ、普通は一年かけても数十上がるかどうか……ヒイロくん、何か心当たりはある?」
「……実はさ。最近〈魔力レンタル〉ってスキルが発現したんだ。それが原因かも」
「えええっ!? 新スキルまで!? ヒイロくん、ほんとにすごいね」
ミレアさんは感心しながら書類に追記を始めた。
「ねえ、ミレア。スキルって何?」
エイルが突然、話に割り込んだ。
「そうね……エイルさんは、スキルについて、どのくらいご存知なの?」
「名前くらいは聞いたわ。でも、何なのかは知らない。少なくともアタシの時代にはそんな概念なかったし」
「では、簡単に説明しますね」
ミレアさんは空中に指で魔術式を描く。光のホログラムがふわりと浮かび上がった。
「スキルは、生まれながらに体に宿る力のこと。人によって発現の時期は違うけど、大体は十歳前後で目覚めるわ」
「それって魔法とどう違うの?」
「魔法は“学ぶ”もの、スキルは“才能”。つまり、生まれつきの力なの」
「じゃあ、同じスキルを持つ人っていないの?」
「完全に同じというのは珍しいけれど、スキルは大きく三つの系統に分けられるのよ」
ミレアは指を立てて説明を続ける。
「《身体系》……身体能力に関するスキル」
「《魔導系》……魔法や術式に関わるスキル」
「《特異系》……分類不能な、特殊すぎるスキル」
「じゃあ、俺の“魔力レンタル”は?」
「……特異系、だと思うわ。普通のスキルとは動きが違うみたいだから」
エイルはため息を吐いた。
「時代が変わるって、面倒なもんね……」
ミレアはくすっと笑った。
♦♦♦
「はい、これでスキル登録も完了よ。これからどうするの?」
「ちょっと魔力値の高い魔物を倒したくてな。ミレアさん、何かおすすめある?」
「魔力量の高い魔物ね……ちょっと待ってて。奥の資料室に、いい本があったはず」
そう言ってミレアさんは奥へ消え、やがて分厚い本を抱えて戻ってきた。
「この中に、確認されてる魔物の魔力量が載ってるわ。参考になると思う」
本を机に置きながら、続ける。
「おすすめは……王都近くのダンジョンも悪くないけど、少し足を延ばせるなら“ハイデンの森”。あそこは危険だけど、魔力量は高いわよ」
「助かるよ。ありがとう、ミレアさん」
俺は本を手に取り、軽く頭を下げてギルドをあとにした。
扉を開けると、ちょうど外にはハカセが立っていた。もう用事は終わったらしい。
「お、待たせたか?」
「ううん、ちょうど出てくる頃だと思ったよ。どう? 登録は無事に終わった?」
「まあな。……さて、次はどうすっかな」
「ちょっと話があるんだけど、いいかな? ……孤児院のとこで、話そうか」




